第二部  八神邸殺人事件

第二十七章  ある男の死

 二〇一七年三月二十五日、東海岳南がくなん新聞夕刊より抜粋


 ――本日未明、静岡県富士市依田橋よだばし○○‐23のマンションの一室から、一人の男性の遺体が発見され、身元が確認された。警察の調べによると、死亡したのはこの部屋に住む石田友起さん(三一)で、遺体に目立った外傷はなく、事件性は薄いとされている。自殺の見方が強まる中、はっきりとした死因の解明が急がれている。また現場付近の――


 ~~中略~~


 石田さんは静岡県内をメインに活動する劇団、「劇団蝶花」の主要メンバーとして広く知られており、先月も富士宮市内で行われた舞台に出演していた。古くから彼を知るファンは、この訃報に驚きを隠せない様子である。劇団の関係者は、今回の訃報に――


 ~~中略~~


「劇団蝶花」はヤガミグループの会長である八神勇心氏がかつての俳優仲間らと共に一九八八年に立ち上げた。八神氏の地元である静岡県内を中心に活動し、設立当初は八神氏も演者として出演していた。石田さんは二〇〇六年に加入したが、二〇〇八年の夏頃、体調不良を理由に活動を休止している。二〇〇九年の一〇月に復帰を果たす。同時期に劇団蝶花はヤガミグループから独立し、蝶花株式会社として法人化する。復帰後の石田さんはスター役者として輝かしいスポットライトを浴び、一時期はテレビドラマや映画界にも名を轟かせた。石田さんの代表作であり、初の主演映画「夏休み戦争」で共演した女優のS氏は、今回の訃報を受けて、追悼のコメントを発表している。役者として、成功の階段を歩み続けてきただけに、関係者の中には、自殺としての見方が強い捜査状況に疑問を持つ者もいるという。

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