第五章 ヒロイン不足は深刻です
祭りへ行こう!
「聖女の盾」の四人が帰った後、「魔女の家」では静かな日々が続いた。
その間エルシーは、売り物にする薬や服、小物を制作したり、
時には一息ついて、お茶やお菓子、読書や衣装替えを楽しむ。
家の中は住み心地良く整えられ、少女らしい華やかなデザインの物が増え、二人は楽しく生活していた。
そんな平和な生活も続いてくると、時には少々刺激が欲しくなってくるのだった。
「最近、町中が浮かれた感じになってるわね」
「もうすぐ収穫祭のお祭りですよ。この町では一年でも特に盛り上がる時期ですね」
「そうなの…………」
エルシーは、いつも通りどんよりした空気に
無性に明るい太陽と青い空が懐かしくなる。
「ねぇ、ちょっとお祭りに行ってみない?」
ふわふわした薄桃色の髪を揺らして振りかえったエルシーは、青紫の瞳をいたずらっぽく輝かせてルビィに提案した。
「大丈夫ですかねぇ」
ルビィは緑の瞳を瞬かせて、思案顔になる。
「確かに、外に出るのは不安だけど……」
エルシーは表情を曇らせた。
二人の心に引っかかっているのは、攻略対象の一人、元盗賊のチェスターが残した言葉だ。
『当分、人前に顔を見せない方がいい』
チェスターはエルシーに向かって真剣な目で忠告した。
アイリーンのためにエルシーを憎んでいる者は多い。
外に出るのが危険であるのはわかる。
だが、ここは
「閉じこもっていても新しい出会いはありませんからねぇ」
ルビィは
「別に、直ぐにまた恋愛したいわけじゃないわ。でも、顔を隠してばかりいるのも疲れるし、少しは普通の娘らしく過ごしてみたいのよ」
「そうですね。恋愛的ハッピーエンドが実現しないと、私の評価が上がりません」
ルビィは、案内役として三つの大きな使命を授かっていた。
一つは、ヒロイン・エルシーを導き聖女の使命を果たして世界の危機を救うこと。
もう一つは、「異世界荒らし」の魔の手からエルシーを守ること。
最後は、エルシーが素敵な男性との恋を実らせて幸せになること。
「乙女ゲヒロインの案内役ですから、やっぱり恋愛
ぐっと
「そして、お仕事大成功で私は一歩女神に近づきます」
うんうんと
「行きますよ! 新たな出会いを求めて!」
「新しい友達ができるといいわね」
それぞれに期待を秘めて、祭りに行く支度をする二人だった。
村はずれ。
人通りが無く、建物もまばらな空き地の中、全身を暗い色のマントで身を包んだ人影が立ち止まる。
(ここでいい?)
(誰もいません。あの小屋の影でいいでしょう)
他の誰にも聞こえない会話が交わされ、人影は小屋の裏へ回ると、身に着けたマントを取る。
バサッと音を立てて暗色の布が取り除かれると、下から現れたのは、薄桃色の髪の少女。
ドレスの
エルシーは手を伸ばして軽く髪を整えると、マントをたたんで
小さな「魔女の
強力な回復薬や護身用の攻撃アイテムも中にしまってある。
異世界物によくある『アイテムボックス』ほど大量に物を持ち運べるわけではないが、これでも十分に役に立つ。
「では、行きましょうか」
張り切ってルビィが言う。
彼女もいつもと違うフリルやレースの飾りのついた黄色いドレスを着て、透き通るショールを掛け、髪にも金色に輝く木の葉のアクセサリーを付けていた。
「森から来たのは誰にもわからないわね」
辺りを見回しながらエルシーが言う。
「心配いりませんよ。さぁ、収穫祭を楽しみましょう!」
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