聖女を追う人々 前編
その頃王都では―――。
「聖女様はどこだ!?」
「探せ!……一体何が起こったのだ!?」
聖女ナナミの不在に気づいた人々が、騒ぎ始めていた。
「これはどうしたことか」
彼は聖女の部屋の中央で首をひねっている。
部屋は荒れ、聖女の姿はどこにも見当たらなかった。
中央には王太子が倒れていたという。
隣の部屋に控えていた侍女は、怪しい人物は誰も見かけなかったと証言、聖女が部屋から出たところを見た者もいなかった。
アルフレッドは意識を失っていたが、手当を受けるとすぐに目を覚ました。
「殿下!?ご無事でしたか!!」
「うーん……。ランドルフか」
「一体何が起きたのですか!?」
「あれ?なぜ私はここに?確かナナミと話をしていて、急に意識が…………」
アルフレッドを問いただすが、特に有益な情報は得られなかった。
「第三者の
「うむ。心してかからねばならぬ。まさか、王の居城でこのような大胆な犯行が行われるとは……!」
騎士団長は拳を握りしめ、気合を入れる。
「王家の威信にかけて、必ずや犯人を捕らえ、聖女様を救出するのだ!」
大聖堂は
その中央、祭壇の前に
「聖女の盾」の一人、大司教パーシヴァルである。
聖女
過去の大司教が張った結界。それは王国全体を包み、悪しき者の力を弱める役目を果たしていた。
最近一度、結界に
以前聖女が
現在結界は修復され、あらゆる脅威から国と聖女を守っているはずだが……。
「聖女様が結界の外へ出た様子はありません。この国のどこかにおられます」
大司教の言葉に、騎士団長ランドルフは頷いた。
「では、
ランドルフは立ち上がり、振りかえって背後に控える騎士達に告げた。
「聞いての通り、聖女と誘拐犯は国の外へは出ていない。
騎士団長の指示の元、大規模な
パーシヴァルは吐息をついて、大聖堂から歩み去る。
(これでお互い心安らかに過ごせると思ったものを……)
異世界から呼び出された救世主。
最初のうちこそ、見知らぬ世界に戸惑い、問題行動も多かったが、聖女としての自覚が出てきたのか、この世界に馴染んだ頃から真面目に職務に励むようになり、聖女の教育に心を砕いてきた大司教は少々寂しく思いつつも彼女の成長を喜んでいた。
そんな折に、彼女への恋心を自覚し、悩んだものだが、聖女を指導すべき立場であることを真剣に考え、一層教育に力を入れることにした。
聖女の勉強の時間を増やしたことに対して「公私混同」「職権乱用」という言葉も「聖女の盾」の仲間から聞こえたが。
聖女が王太子を選び、悲しみを感じつつ、教え子二人の幸福を願っていたのだが……。
またとんでもない問題が発生したものだ。
誘拐との見方もあるが、パーシヴァルは彼女が再び脱走したのではないかと考えていた。
聖女が脱走するのは、これが初めてではない。
彼女と会ったばかりの頃を思い出して、大司教は懐かしさを感じるのであった。
(無事お戻りになればまた、指導が必要になるかもしれませんね)
教育熱心な彼は、自身も聖女
慌ただしいノックの音に、長めの緑色の髪をぼさぼさにしたまま、やせ型の少年がしぶしぶという感じで顔を出した。
「何やねん……。後ちょっとで新しい薬が完成するとこやのに」
「聖女様がお姿を消されました! レジナルド様も
「なんやて!?」
慌ただしく準備を整えつつ、レジナルドの頭にあったのは、先程の聖女との会見だった。
(まさかショックで
レジナルドは苦笑した。
聖女ナナミの方は、彼のことはただの仲間としか思っていなかったのである。
突然燃え上がって、突然消えた恋心。ナナミにとってはきっと迷惑なものだっただろう。
彼女から色々な表情を引き出すため、ちょっかいをかけたりするのはとても楽しかった。
(一体、何があったんや)
世界を滅ぼす元凶も消えた今、聖女が姿を消す理由が、彼にはわからなかった。
彼女の身に何があったのか。王太子は聖女の部屋中で意識を失っていたという。
目的は聖女様誘拐か。大きな災いを回避し、世界が救われたとはいえ、聖女にはまた利用価値があると考える者は少なくない。
レジナルドは宮廷魔術師として、聖女
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