第41話温室にいたら、天気が急変しました

 俊介は昼前に帰っていった。私も家に戻ることにした。


 「お母さん、ありがとう!」


 「俊介君は帰ったの?」


 「うん、お昼だからって。ねえお母さん、この前おじいちゃんが買ってきてくれたクッキーどこに置いてあったの?探したけどなかったよ」


 「いやねえ~探したの?食べ過ぎはよくないわよ。あれ、バターいっぱい使ってるんだから、食べ過ぎると太るわよ」


 「大丈夫。いっぱい動いているもん」


 「駄目よ。それよりお昼食べられるんでしょうね。俊介君の分まで食べちゃって、食べ過ぎでお腹いっぱいじゃあないの?」


 キッチンにお盆を持っていった私は、クッキーのありかを聞いたが、教えてもらえなかった。それより図星をつかれてしまい、美香ちゃんに先に電話してくるといいすごすごキッチンを出ていくしかなかった。

 美香ちゃんに電話した。


 「美香ちゃん?教科書販売行くの、明後日でいい?」


 「うん、いいよ」


 美香ちゃんとしばらく他愛のない話をしていたら、お腹が空いてきたので電話を切って、お昼を食べにキッチンに向かった。


 「お母さん!お昼何?」


 「焼きうどんよ」


 私が美香ちゃんと電話をしているときに作っていたらしく、キッチンには醤油の香ばしい香りが充満していた。さっきまで甘いものを食べていたので、香ばしい醤油の香りが余計食欲をそそった。


 「お母さん、明後日教科書販売に行ってくるね」


 「そう。お母さんも行かなくていい?」

 

 「うん、美香ちゃんだけじゃなく俊介や岡本君もいるし」


 「そう。じゃあ大丈夫ね」


 焼きうどんを食べながら、母に明後日教科書販売に行くことを言った。


 「そういえばおばあちゃんは、体調よくなったの?」


 私がそういうと、母は少し顔を曇らせた。


 「季節の変わり目だから、まだよくないのよね。さっきもお昼持ってんたんだけど、まだそう食欲がないみたいで。おじいちゃんも帰ってきたから安心だけど」


 「ふうん、おばあちゃん体弱いもんね」


 「そうね、ことちゃんは健康でよかったわ。おばあちゃんは、ことちゃんが健康なのをいつも喜んでいたものよ」


 「入学式には来てほしいなあ。またおばあちゃんに言っておいて」


 「体調よくなったら、またこっちに遊びに来るから、その時にことちゃんの口から言ってあげて。きっと喜ぶわ」


 「わかった!」


 

 翌日も朝から温室に行った。昨日ほとんど俊介と作業をやってしまった。だから今日はのんびり煎じるための竹の葉を収穫するつもりだ。収穫した葉は温室の隅にある乾燥機に入れる。一日経つと完全に乾いて飲みやすいように小さく裁断されているのである。それを袋に詰めて家に持っていくのだ。

 今日もまだ変身している姿なので、外に出れない。だから今日はできるだけ葉っぱを収穫して乾燥機に入れるところまでするつもりだった。

 そして葉っぱを収穫し始めた時だ。


 「やってるか!」


 「また来たの?」


 「なんだ、来ちゃあいけないのかよ」


 そういった俊介は、私の言葉にちょっとしおれた花のようにしゅんとしてしまった。


 「ごめんごめん。昨日すごく手伝ってくれたから、ずいぶん助かったよ」


 私が慌てていうと、しおれていた俊介は水を得た魚ならぬ水を得た花のようにぴんとした。


 「今、何やってたんだ?」


 「昨日俊介がやってくれたでしょ。ずいぶんはかどったから、今日は葉っぱを収穫して乾燥させようかと思って」


 雑草が生えた時には、また俊介に手伝ってもらいたいという私の下心からずいぶん持ち上げておいた。単純な俊介はそれにずいぶん気を良くしたみたいで、にやにやしている。ほんと単純な奴でよかった。 


 「へえ~。乾燥って外で干すのか?」


 「あそこにある乾燥機で干すんだよ」


 「すごい機械だな」


 「裁断もしてくれるんだよ」


 私は自分の事のように嬉しかった。あの機械はおじいちゃんが、おばあちゃんのために特注で作ったものなのだ。昔は、俊介が言ったように庭で干していたらしい。いやあ、おじいちゃんの愛が深くて助かった。まあおじいちゃんが作らなかったら、きっとお母さんLOVEのお父さんが作っていたと思うけど。


 いつの間にか俊介も手伝ってくれていて、今日もまた昼前に終わることが出来た。


 「変身は今日までなんだよな」


 「うん、やっと元に戻れるよ。だけど俊介は寂しいでしょ」


 「えっ、なんで?」


 「だって俊介毎日来てたじゃん。私のこの顔見たかったんでしょ?」


 「まさか。お前の温室作業を手伝うつもりで来ただけだよ。勘違いするなよ」


 俊介は心外だといわんばかりの顔をしている。えっ違ったのか。毎日来るからてっきりそうかと思っていた。ああそうか、恥ずかしくて言えないのか。私は一人にやにやしていた。


 「お前、ほんと勘違いするなよな。それより明日10時にことんち行くから、支度しておけよ」


 「わかった。今日はありがとう」


 俊介は私が一人にやにやしているのを見て、本当にいやそうな顔をした。それから明日の教科書販売に行く時間の確認をして帰っていった。

 

 今日は曇っているせいか昨日より温室の中も涼しい。快適だ。私は座って、乾燥機の中の葉っぱが回って乾燥されていく様子をぼーと見ていた。ちょうど乾燥機のそばにソファがあるのだ。


 のんびり見ていたら、いつの間にか眠っていたらしい。肌寒くて起きた。気が付けば温室の天井には大きな雨粒が付いている。のんびり見ているうちに温室に雨粒が打ち付ける音が急に大きくなってきた。


 急いで家に戻ろうと思った時だ。


 ピカッ_____。


 あたり一面光に包まれた。温室のため家の中より、光がよくわかる。


 ダッダッダ___ン。


 地響きのような大きな音がした。もしかしたら裏山に落ちたのかもしれない。心臓がバクバクした。


 ピカッ_____。

 

 ダッダッダ___ン。

 

 ピカッ_____。


 ダッダッダ___ン。


 今たぶん雷雲が真上に来ているのだろう。雷が大の苦手の私は、ソファにうずくまるしかなかった。とてもじゃないけど、こんな雷の中、怖すぎて家まででさえ、とてもいけない。耳も目もふさいでいるが、音が大きく光も強すぎて何の意味もなかった。その時だった。


 「こと!いるか?」


 さっき帰ったはずの俊介の声が聞こえた気がした。  

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