第33話 合格発表の日です
私は、仕方なく俊介と歩きながら青竹高校を目指した。今日はちょっと風は強いが、雲一つない快晴の朝だった。空が真っ青い。こんないい天気の中、私の心は少しどんよりしている。
「おいこと、昨日眠れた?」
「ぜんぜん、今日なんて朝4時から起きてたよ。もうずっと時計とにらめっこ」
私は俊介の問いに怒っているのも忘れて、今日の朝の事を話していた。
「俺も、昨日全然眠れなくてさ。参ったよ」
「俊介も眠れなかったの?俊介だったら、豪快にいびきでもかいて眠ってるかと思ってた。意外だね~」
私は俊介の話に驚きを隠せなかった。
「さすがに今日の事考えたら眠れないよ」
「ふう~ん」
なんだか私は安心した。きっと自分以外のみんなは余裕で寝ているかと思ってたのだ。
「ドキドキするね」
「そうだな」
俊介とのやり取りで少し気持ちが楽になった私だった。とはいえ青竹高校の校舎が見えてきたときには、口から心臓が飛び出るんじゃないかと思うほど、心臓がどきどきした。
「ことちゃ~ん」
「あっ、美香ちゃ~ん」
私は美香ちゃんの元へ走っていった。
「おはよう」
美香ちゃんのところに行くと、岡本君もいて挨拶してきた。
「「「おはよう」」」
後ろからきた俊介も交えてみんなで挨拶しあった。
「ねえドキドキするね」
美香ちゃんの言葉に私も言った。
「うんすごいよ。心臓が口から飛び出そうなぐらい緊張が半端ない」
「ねえ、もう向こうにみんな集まってるよ。行く?」
「そうだね」
私は美香ちゃんに同意したが、足が前へ進まない。美香ちゃんはすたすた歩いている。
「ほら行くぞ」
俊介に背中に背負っているリュックをひっぱられて、みんなが集まっている方に連れていかれた。ついた時には係りの人が受験番号が書かれた張り紙を張り出すところだった。みんな前のめりになっている。しかし私だけは、後ずさってしまった。があまり下がれなかった。というのもまだ俊介が、私のリュックをつかんでいたのだ。私は自分の番号を探すこともできず、かといって逃げ出すこともできずただ立ちすくんでいた。
不意にリュックがものすごい勢いで引っ張られた。
「おい、ことあるぞ!あるぞ!」
一瞬私は興奮している俊介の声を聞きながら、アル?アル?なにが?と頭の中の整理がつかなかった。
「ことちゃん、やったぁー!!」
「やったね!僕たちみんな受かってるよ!」
美香ちゃんや岡本君の嬉しそうな言葉を聞いて、初めて自分自身の目で番号を探した。
「あった!あったぁー!」
知らず知らずのうちに自分の口から大きな声が出ていた。美香ちゃんが抱き着いてきた。私も抱き着く。気づけば美香ちゃんと二人ぐるぐる回っていた。
不意にリュックがまたぐいっとひっぱられた。
「おい、よかったな!」
目の前に俊介の嬉しそうな顔があった。
「よかったね!」
わたしもそういってつい俊介に、美香ちゃんの時のように抱き着いてしまった。すると、すぐにべりっという音が聞こえそうなほど腕をひっぱられた。
「おめでとう!」
「うん、ありがとう!岡本君もおめでとう!」
今度は目の前に岡本君がいた。私も嬉しさでテンションがおかしくなっていたのか、今度は岡本君の手を両手で握りしめてぴょんぴょん飛び跳ねていた。するとまたリュックがぐいっと引っ張られた。ただすごい勢いでリュックが引っ張られたせいで、首にリュックの紐がきてぐえっと声が出た。
「あっ、ごめん」
リュックをひっぱったのは、俊介だった。いつもなら怒るけど、今の私はたとえ頭を殴られてもへらへらしていそうだ。それくらい嬉しかった。しばらくしてやっと落ち着いてきた私たちは、もう一度自分の受験番号を見つめた。そしてその後ろに立っている校舎も見た。
「四月からここに通うんだね」
ぽろっと私がそうこぼすと、美香ちゃんが言ってきた。
「そうだね、また一緒だね」
まだそこかしこで喜んでいる人達を横目で見ながら、私たち4人は中学校へ行くことにした。
学校に着くと、先生がみんなの合格発表を待っててくれていた。私たちの笑顔に気が付いた先生が言った。
「みんな受かったのか、おめでとう!」
他の先生方もきてみんな喜んでくれた。ただ私にだけ「ミラクル!ミラクルが起きた!」という言葉が付くというおまけつきだった。
そうしている間にほかの高校の受験発表を見てきた子達も帰ってきて、お互いの合格を喜びあった。しかし中には合格できなかった子達もいて、その子たちは先生が別の教室に連れていった。
その姿を見た私たちは、これ以上喜べなくなって皆家に帰ることにしたのだった。
いつの間にか俊介がそばにいたので、途中で美香ちゃんと別れ朝のように俊介とふたりで帰ることにした。
「今になって足ががくがくしてる。緊張の後遺症が来たって感じ!」
私がそういうと、俊介が私の少し震えている膝を見て吹きだした。
「ほんとだ!ことの膝、がくがくしてる!」
興味深そうに私の膝を見ている。
「俊介は何ともないの?」
あまりに笑っている俊介を見てむっとした私は聞いてみた。
「実はさ、俺今ちょっと手が震えてる」
俊介はそういって自分の両手を私の方に差し出してきた。よく見ると、俊介の手が小刻みに震えている。
「ほんとだ!手が震えてる!」
私がお返しとばかりに大きな声で笑ってやると、俊介が急に真顔になった。
「よかったな、お互い受かってさ」
「そうだね」
「なんだか疲れたな」
「疲れたね~」
私たちは、青空のもと心なしか暖かくなった風を受けて、心地よい疲労感のなか家に帰っていった。ふと見ると向こうの方には白木蓮の花がきれいに咲き誇っていたのだった。
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