第31話 懐かしい駄菓子屋さん

 私は漫画を買い、俊介と帰ることにした。


 「昔よくいった駄菓子屋さんまだあるかなあ」


 「最近言ってないけどどうなんだろうね」


 「じゃあ今から行ってみようぜ」


 俊介が突然言ってきた。昔一緒に遊んでいた頃は、よく駄菓子屋さんにいっていたものだ。ふたりで歩いていくと、その駄菓子屋はまだやっていた。ちらほら子供もいる。


 「まだあったね」


 「そうだな」

 

 私と俊介は自然に早足になり駄菓子屋さんに向かった。そこは自分たちが通っていたころのままで、とても懐かしい。ただあの頃は大きく見えたお店が小さく感じた。自分たちが大きくなったせいだ。


 「こんにちは」


 昔もそういって店に入っていった俊介が、当時と同じように言って入っていった。私も後に続く。


 「いらっしゃい」


 そういって挨拶をしてくれたおばちゃんはあの頃と変わらなかった。おばちゃんは私たちを見てあれっという顔をした。


 「前によく来ていたでしょ」


 「覚えているんですか?」


 つい嬉しくて聞いてしまった私におばちゃんが答えてくれた。


 「覚えていますよ。まあ女の子らしくなって」


 「えっ」


 私はあの頃男の子みたいな恰好をしていたので、おばちゃんも男の子だと思っているに違いないと思っていたのだった。


 「だってふたり一緒に来なくなったでしょ。この子に聞いたらけんかしたといってたからね。あのラムネで仲直りしたの?」


 「ラムネ?」


 「おばちゃん!」


 おばちゃんの話に私が首をかしげると、私の隣にいた俊介が慌てたようにおばちゃんに言った。


 「仲直りしたのねえ。よかった、よかった。この子あなたにラムネを買って帰ったのよ。あなたよくうちに来て、ラムネが飲みたいけど飲んじゃうとほかのお菓子が買えないって言ってたでしょ。だから!」


 私は俊介を見ると、俊介は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いていた。


 「よく覚えていましたね」

 

 「あなたたち仲が良かったからね。ここでよく喧嘩もしていたけど」


 そういっておばちゃんは笑った。

 俊介を見ると、耳がまだ真っ赤でそ知らぬふりしてお菓子を選んでいた。私もお菓子を選び始めた。そしてお会計の時にラムネも二本買った。

 私たちは、昔いつも駄菓子屋さんでお菓子を買った後そこへ行ってはよく食べていた近くの公園にいった。ふたりベンチに座ると私はラムネを俊介に渡した。


 「この前の公園のアイスティーのお礼」


 「あっ、ありがとう」


 俊介は私から嬉しそうに受け取り、ラムネを飲んだ。もちろん私も飲んだ。


 「この駄菓子こんな小さかったっけ」


 私は小さいヨーグルトの形をした駄菓子を手に持った。


 「ほんとだな。これもこんな小さかったっけ」


 「俊介が持つと余計小さく見えるね」


 俊介が持っているのは、餅と書かれた小さな桃色の粒がトウメイパックにいくつか入った駄菓子だった。当時は大きいと思っていた駄菓子が今は小さく感じるが、味は当時のままでとってもおいしい。


 「そういえばこんな味だったね」


 「そうだな。いまじゃあ一口だ」


 そういって俊介は餅の駄菓子をまとめて口に放り込んでいた。それからここではこうやって遊んだねとか、

ここで確かこんな喧嘩したよねとか思い出してはふたりで話した。


 「ねえ、あの時には岡本君と私たち仲良くなかったけど、今は俊介、岡本君と仲いいんだね」


 不意に私が言った言葉に、なぜか俊介はいやそうな顔をした。


 「こと、お前まだ岡本を好きなのか?」


 しかめっ面な顔でぶっきらぼうに聞いてきた。


 「ううん、もう何とも思ってないよ」


 本当にやせ我慢でもなく今ではなんとも思っていないので、そういった私を俊介はじっと見ていた。

 

 「そうか」


 俊介のしかめっ面が少し緩んだ気がした。そうしてふたり買った駄菓子をすべて食べてしまった時、ちょうどお昼の鐘が鳴った。


 「もうお昼だね」


 「帰るか」


 私と俊介は帰ることにした。帰る道私は、先ほどおばちゃんが言った言葉を思い出して聞いてみることにした。


 「ねえさっきおばちゃんがいってたラムネ、私のために買ったんでしょ。私飲んでないよ」

 

 俊介は一瞬足が止まったように見えた。が、ひとり私を置いてすたすたと歩きだした。


 「あれ、俺が一人で二本飲んじゃったよ。お腹だぼだぼになっちゃったけどな」


 立ち止まって私を見て笑った。


 「そうなの?くれればよかったじゃん」


 私が真顔で言うと、俊介が小さな声でぼそぼそといった。


 「ことの家の前まで行ったんだけどな...」


 「えっなんて言ったの?聞こえなかった!」


 「何でもない。もう忘れろよ。それにしてもよくあのおばちゃん覚えてたよな」


 俊介は頭をぼりぼりかいてそうつぶやいたのだった。そのあと私たちは、買った本の事を話しながら帰った。私の家の前に来たとき俊介が言った。


 「こと、髪また伸ばし始めたんだな」


 俊介は私を見て、そういってこの前の時のように走り去っていった。俊介が見えなくなってしまうのをずっと見ていた私はひとりうんと答えたのだった。


 

 家に着くと玄関に母が出てきた。


 「あらっ遅かったのね」


 「うん、本屋さんで俊介と会って、久しぶりに昔いっていた駄菓子屋さんに行ってみた」


 「そうなの、よかったわね。お昼食べられる?」


 「うん」


 母は私の返事を聞いてにこにこしながら、キッチンのほうに戻っていった。父がリビングでテレビを見ており、私を見ていった。


 「あんまり変わってないけど、よく似合ってるよ」


 父が私の髪型を見て微妙な感想を言った。


 「今髪を伸ばしている最中なの!」


 父の微妙な感想に憤慨した私は、先ほどおこずかいをくれた恩も忘れて父にそう言ってやったのだった。


 

 

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