第11話クラス委員の岡本君

 結局私はいろいろな現実を知ってしまったが、学校へ行っても特に何も変わらない毎日を過ごしていた。ソフトテニス部という毎日外での部活で、さらに私の肌は日に焼けて見た目もたくましくなっていった。

 

 相変わらずの毎日だったが、二年に進級した。学校でクラス委員を決めることになった。そこで思いがけず私が女子のクラス委員になってしまったのである。なんで?

 女子たちからすると、私はかっこいい?お姉さまか下手するとお兄様?枠に入ってしまっているらしく、女子に人気がある。だからか先生はクラスをまとめるのにちょうどいいと思ったのだろう。

 

 そして男子の方は、まじめな感じの岡本達樹君という子になった。

 印象通りまじめで頭もよくみんなからの信頼も厚かった。涼やかな目もとですーとした顔つきに似合う剣道部に所属している。しかも二年生なのにレギュラーになれるほどうまいらしい。

 

 「彼よく手伝ってくれるのよ。うらやましい~」


 クラス委員の代表委員会では、岡本君の去年のクラス委員としての働きぶりを知ってる子達からうらやましがられた。あと私以外にももう一人、うらやましがられているクラス委員の子がいた。


 「葉ケ井君もクラス委員でしょ。一緒にやれるなんていいなあ~」


 俊介はやはりというべきかモテるようだった。バレンタインデーにもチョコをたくさんもらっていたらしい。


 クラス委員はめんどくさいなあと内心いやいやだった私は、みんなから聞いた通りずいぶん岡本君に助けられることになった。今まではほとんど岡本君を知らなかったので、みんなの話を聞いた時にはそんなものかと思ったが、予想以上に岡本君は働き者で気づかいやさんだったのである。

 

 

 春の遠足は、徒歩でちょっと遠くの大きな公園に行くのが毎年の恒例だ。学級委員がクラスの一番前で歩いていく。昨年は、近くの友達とわいわいがやがやと好き勝手に歩いていた。しかし今年は後ろのみんなに気を付けながら歩いていかなくてはいけない。これらを前日、先生から学級委員の仕事ととして何度も言われることになった。

 

 遠足の朝すがすがしい天気とは反対に、私は少しうんざりしながら整列すると、私の隣に来た岡本君は私にまぶしいほどの笑顔を見せてきた。


 「おはよう、笹竹さん。今日はよろしくね」


 岡本君はもう学級委員になるために生まれてきたといってもいいほどに、本当にしっかりした人だった。この事を後でいやというほど実感する羽目になったのだった。

 

 遠足のために母が用意してくれたお弁当は私の大好物ばかりで、みんなと食べるお弁当は最高においしかった。クラスで決めたレクリエーションも面白くて、その時の私は絶好調だった。

 しかしである。今日は最悪なことに満月だった。いつもの苦いあの竹茶を飲んではいたが、一年に一度の日が今日きてしまった。いつもならちょっとだるくなるくらいなのに、一年に一度ぐらい急に体調が絶不調になることがある。それが悲しいことに今日きてしまった。

 

 私は帰りに皆で歩きながら、急激なだるさに襲われた。一歩一歩がつらくなってくる。困ったと思いながら歩いていた時だ。


 「どうしたの?笹竹さん具合悪い?」


 どうしてわかったのか岡本君は小さな声で聞いてきた。


 「うん、ちょっとだるい」


 隠す余裕もなく私は吐露してしまった。すると岡本君は手を出してきた。思わず私が、不思議な顔をすると岡本君が言ってくれた。


 「背負ってるリュック持つよ。貸して」


 私はその行為に甘えてすぐにリュックを渡した。だるくて心に余裕がなかったせいだ。岡本君は学校に着くまでずっと私のリュックをもって歩いてくれたのだった。


 やっとのことで学校に着くと、岡本君は親切にも担任の先生に言って保健室まで連れて行ってくれた。


 「大丈夫?そんなにつらかったら、これからは我慢しないで担任の先生に言うこと!」


 保健の先生は、私の顔色の悪さを見てそういった。そのあと私は、母が迎えに来てくれるまで保健室のベッドで寝ていたのだった。家に帰った後、確かに先生に言えばよかったと反省した。

 

 翌朝はすっかり元気になって学校に行くと、みんながわらわらと集まってきた。


 「ことちゃん、昨日大変だったね。もう大丈夫?」


 そういったのは今年も同じクラスの田野村美香ちゃんだった。他の子達も口々に心配してくれる。私が一人ほっこりしていると、近くで声がした。


 「もう大丈夫?調子は良くなった?」


 声の主は、昨日私のリュックを持って親切にしてくれたクラス委員の岡本君だった。


 「昨日はありがとう。もうすっかり良くなった」


 私がお礼を言うと、岡本君はにこっと笑って男の子たちのところに戻っていった。ふと視線を感じて視線の先を見ると、なぜか美香ちゃんがにやにやして私を見ていた。


 「どうしたの?」


 「ううん、何でもない」


 美香ちゃんはそういって、なぜかもう男の子たちとおしゃべりしている岡本君を見たのだった。


 

 そんな出来事があってからしばらくたった頃、クラスの学活の時間に今度は運動会に出場する競技を決めなくてはいけなくなった。


 「おはよう。笹竹さん、今日の学活よろしくね」


 朝から岡本君にそういわれて、うなづいた私はまた視線を感じた。美香ちゃんが私を見ていた。またにやにやしている。

 

 「?」


 「何でもない」


 美香ちゃんは、何も言わなかった。


 学活では、やはりというべきか岡本君がサクサクと競技の種目を決めていった。もう私の出る幕はなかった。ほかのクラス委員の子が言った理由を実感した。確か昨年の競技の種目決めは、もっともめた気がする。さすがだなあと岡本君を眺めてしまった。横顔がすっきりしていてかっこいいなあと、私がぼーと見ていると私が見ていることに気づいた岡本君が私を見てニコッと笑った。

 急に胸がきゅんとした。


 「笹竹さん、これでいいかな」


 「い”い”んじゃない」


 急に岡本君に聞かれて、私は声が裏返ってしまったのだった。


 

 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る