第10話美女と平凡顔は反比例
結論から言うと見ないほうがよかった。正直私は、ちょっとだけ自分の将来に期待していたんだと思う。けれどかぐや姫の絵を見て私の将来への期待は無残にも打ち砕かれてしまった。
私が見たい!発言をしたので、食事が終わってテーブルをかたずけあと、おばあちゃんは奥の部屋から細長い箱を二個持ってきた。
お母さんがその箱からおもむろに細長いものを取り出した。どうやら掛け軸だったらしく、それをテーブルに広げて見せた。
私は、その両方を見て絶句してしまった。なぜなら両方とも自分にそっくりだったからである。
「こっちの掛け軸の方は、今のことちゃんをもう少し大きくしたら、そっくりだね」
絶句している私の横で、お父さんが嬉しそうにその掛け軸を指さして言った。お父さんにとっては、私に似ていることがとっても喜ばしいことらしい。たとえそれが、どんなに地味顔でも。
その掛け軸は、本当にうまく書かれていると思う。平べったい顔に丸い鼻、薄い唇、どれ一つとっても特徴のない究極の地味顔だ。その地味顔女性は、当時にしたら相当すると思われるお雛様が着ているような高級なお着物を着せられている。しかしである。究極な地味顔には全くもって似合っていない。お着物に顔が負けまくっているじゃないか。
そしてもう一方の掛け軸は、先ほどの掛け軸の女性が着ている着物と全く同じものを着ている。こちらは、匂い立つような美しい女性で、それがまた着ている着物とよく合っている。やはりこの着物は、こちらの女性にあう様に作られたものらしいことが一目瞭然だった。
「この方が初代のかぐや姫様よ。今日出席してくださった方々は、この二つの掛け軸の絵を持ってらっしゃるのよ」
母がそういった。なるほど、それで今日の発言が皆さんの口から出たわけだ。な~んだ。簡単じゃん、謎が解けちゃった!じゃないよ!
私は少しだけ期待していたのだ。もしかしたら成長するにつれ、少しは変身した後の姿に似てくるんじゃあないかと。今日のお披露目会でのみんなの発言もそれを見越していたんじゃないかと、少しは期待していたのに。
どう見積もってもこの初代かぐや姫様は、変身前後では全くお顔が違う。別人だ。私は、成長しても変わらないんだということをこの目で見せつけられたようで、なんだかがっくりしてしまった。
しかしこの後のんきに言った父の言葉に、ぶちきれてしまった私だった。
「ことちゃんも、こんなにきれいに変身するようになるんだね。いやだなあ~。お父さんは、今のままのことちゃんでいいよ。充分にかわいいしね」
「いいわけないじゃん!私将来もきれいになれないじゃん!」
もう完全に父に八つ当たりである。それにまた母が、私の劣等感をさらにあおることになった。
「ことちゃん、私やおばあちゃんはこの方のようにこんなにきれいに変身できないのよ。初代のかぐや姫様は、すごい役立つ葉っぱをもって生まれてらっしゃったわ。ことちゃんも初代様と似ているってことは、この時代の救世主になるのよ」
「そんなの私には、関係ないじゃん。私は普段もっとかわいく生まれたかったのに!」
そう叫んで自分の部屋に走って戻っていった。あとでそういえばデザート食べるの忘れた!と後悔したときには後の祭りだった。
私は自分の部屋に戻って、しばらくクッションに当たっていたが、次第にイラついた気持ちも収まってきた。そうすると少し冷静になって考えることができるようになった。
私が見る限り、母やおばあちゃんは私より地味顔が薄い。私に比べるとずいぶんかわいいと思う。あくまで私との対比だが。だから変身した後もまあまあ美人になるのではないだろうか。
もしかしたら変身前の顔が地味顔ほど、変身後の顔が美人になるのではないだろうか。反比例の法則だ。何だ、これ!もうただの呪いじゃないか!
究極の事実を知ってしまった私は、しばらく部屋でふてくされていた。するとドアをノックする音がした。返事をしないで黙っていると、申し訳なさそうな顔をした母が、ゆっくりとドアを開けた。手にはお盆を持っている。
「ことちゃん、さっきはごめんね」
部屋に入ってくるなり母はそうわびた。そして手にしていたお盆を部屋の小さなテーブルの上に置いた。そのお盆の上には、おいしそうなケーキとこれまたいい香りのする紅茶がのせられていた。
怒っているはずの私の目がお盆の中身に釘づけなのを見て、母は笑いをこらえるような神妙を装った顔を作っていった。
「ここに置いておくから食べてね。ケーキまだほしかったら残ってるのよ。またとりに来てね」
母は、そう言い残して部屋を出ていった。私は、母が部屋を出て言ったとたん一目散にテーブルに座ってケーキをほおばった。ホテルのケーキだけあって、濃厚でおいしい味だった。紅茶もいつも飲むものよりいい茶葉を使っているのか、これまたいい香りと奥深いお味でケーキによく合っていた。ケーキをぺろりと食べてしまうと、さっき母が言った言葉を思い出した。
ケーキはとってもおいしくて、母の言った『ケーキがまだ残っている』発言が、頭の中をぐるぐるかけめぐっている。
ちょっとだけ悩んだか結局食い意地の張っている私は、この際邪魔なプライドをすっぱりと脱ぎ捨てて、ケーキの元へ飛んでいったのだった。
まんまと母の策略に落ちてしまった私だった。
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