オタクはオタクでも食べられないオタクってなーんだ。ヒント:オタク
@hyanakon
第1話 幼なじみとの何気ない一幕
「ただいま」
俺は誰もいない家に何気なしにそういうと汗の滲みた制服を脱ぎながらリビングのドアを開ける。
「あちぃ〜」
俺はクーラーのリモコンを手に取ると、温度を23度に調節してクーラーをつける。
心地いい冷風が部屋全体を冷やし始める。
夏はマジクーラーねぇとやってけねぇよ。
俺は制服の裏ポッケからスマホを取り出すとソファに寝転びながらユーチューブをひらく。
「やば。はじめしゃちょー動画だしてんじゃん」
そんな感じでダラダラしてると、玄関の鍵が開く音がした。横目で時計を確認すると、まだ夕方の5時。パートのお袋が帰ってくる時間でもない。とすると、もう100%あいつしかねぇな。
「ゆーちゃーん。いるー??」
やっぱあいつだわ。玄関でそんな大声で叫ぶなっつの。おれご近所さんからなんで言われてるか知ってる?ヒモだよ。
「おーん。てか、何度も言ってるけど玄関で叫ぶなよな。お前のせいで俺ご近所さんに彼女に甲斐甲斐しく世話してもらってるダメ彼氏なんだけど」
「あはは」
なにがあははだっつの。
「上がるねー」
玄関から声が聞こえる。
「ほーい」
俺の名前は平川雄介。極々平凡な高校2年生だ。通ってる学校はここの地域じゃそれなりの進学校ってのは自慢になるのかもな。彼女はいたことない。趣味は特にこれといったものはないけど、しいてあげるならユーチューブは俺の趣味かも知れん。投稿とかは考えたことないけど。
「1人でなにしてんの?」
さっきから出てきてるこいつは幼なじみの北村真里奈だ。校内ではそれなりに美人だと言われてたりする。顔見慣れすぎて果たしてそうなのか俺には分からんけど。俺の親とも仲のいいこいつは身内外で唯一俺ん地の鍵を持ってる奴でもある。
「ユーチューブみてんの」
俺は答える。
「へぇー。だれ?」
「はじめしゃちょー」
「ゆーちゃんはじめしゃちょーとか見るんだ」
真里奈は意外そうな顔をすると、すぐに顔を元に戻し、
「ゆーちゃん。お腹空かない?ちょっと食べて欲しいもんがあるんだけど」
「なに、また新しいお菓子覚えたの?」
こいつの趣味はお菓子作りだったりする。
「そうだよ。もちろん今から作るのは軽食だから夜ご飯だめになることはないと思うけど」
真里奈は恐る恐るといった感じで語尾を切ると、
こっちを向いた。
「あ、おっけー。楽しみにしとくわ」
俺がそう答えると、
「そう?やったぁ」
と、小さく手を叩くポーズを取った。
「なに作んの?」
「えっとねー。サモサっていうやつ」
「なにそれ?」
「インドのおやつだよ。おやつってよりは軽食だけど。カボチャとか、ジャガイモとか、玉ねぎとか色々詰めて薄いナンの生地で揚げるの」
「なにそれすげぇ旨そう」
「でしょー」
こいつほんとふわふわしてるよな。学校でも俺と他のやつとじゃ全然雰囲気違うもん。それが幼なじみってもんだとしたら割と嬉しいとは思うけど。
「・・そういやね、ゆーちゃん」
真里奈が口を開く。
「今日また告白されちゃった」
「また?相手だれ?」
「一個上の山下先輩」
「すげー。校内一のイケメンじゃん。で、返事は?」
俺はワクワクしながら続きを待つ。
「断ったよ」
「え、なんで?」
「な、なんでだと思う?ちょっと考えてみてよ」
真里奈がすこし赤くなった頬でこっちを見る。片足を落ち着かなさげにぶらぶらと不規則に揺らしながら。なんだこいつ急に。あ、そういうことか!
「わかったぞ。真里奈」
「え、ほんと。な、なんででーしょ?」
「女ってそういうとこあるよな。察せられないって。俺がお前の幼なじみでよかったよ」❗️
「お、幼なじみパワーだね。それで?」
俺は、優しい目を真里奈に向ける。
「トイレ行きてぇんだろ?でも、なかなか言い出せなかったから、俺にクイズ形式で考えさせてる間にそっとトイレに行くつもりだったんだ」
俺は親指を立てて👍←このポーズ。をすると、俺史上最高に頼もしい顔で、
「行ってこいよ便所!うんこなんだって許してやるぜ!!全力で気張ってこい!!!」
あらやだ私ちょーかっこいいんだけど。
「ゆーちゃん・・・・。」
真里奈が頭を下げ表情がわからなくなる。感動の涙かよ笑笑
と、思った矢先風を切るような勢いで強烈なビンタが俺の頬を捉えた。
「なーにー言ってんのよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!最低だよ。女の子に言っていいことと悪いことがあるって習わなかったの!?ゆーちゃんのばか!あほ!ドジ!まぬけ!」
赤面して叫ぶ。
「違うの!?マジでごめん。てっきりそういうやつかと思ったのに」
「ゆーちゃんなんて、だいっっ嫌い!」
「いやほんと、ほんとこの通りだから。ごめんなさい」
人生初土下座が幼なじみになんて俺が最初なんじゃね?
「もういいよ。わかった、許す」
よかった。
「でもひとつ条件出していい?」
「なに?」
「でもなぁ、あの子も可愛いしなぁ。ゆーちゃんが好きになっちゃったら大変だけど・・」
真里奈が小さな声で何かをぶつぶつ呟いた。
「なに?」
「明日、土曜日じゃん。クラスのまっつん・・松田さんいるじゃん」
「うん」
それが?
「その子とね、明日一緒に遊んで欲しいの」
「は?」
素っ頓狂な声が出る。だって松田さんは知ってるけど、それはこいつの友達だってことで知ってるだけだし、なにより松田さんと仲良いわけじゃない。
「なんで俺が」
「あのね。なんか他のグループとの話で彼氏いるって嘘ついちゃったみたいでね。ニセ彼氏が欲しいって私に泣きついてきたの」
「で?」
「私、自分ではそう思わないんだけどすごく美人って言われるでしょ。だから男紹介して欲しいって言われたんだけど、私実はゆーちゃんしか親しい男友達なんていなくてさ」
「そうなんだ。意外だな」
「でね、でもまっつんの頼みを断りたくもなかったの」
俺は心の中で整理する。
「だから俺に頼んだと」
「ほんとは頑張って他の男子に頼もうと思ってたんだけどね。だ、だってほらそのことでほんとに付き合ったりしたらダメじゃない?」
「めでてぇことじゃねぇか」
「それはダメなの!」
真里奈が声を上げる。なんでだよ・・。
「とりあえず!明日、ニセ彼氏としてまっつんを助けてやって下さい」
勢いで押し切られてしまった。俺はしぶしぶ了解すると、鼻に違和感を感じた。
「ん、なんか焦げ臭くね?」
「やば!」
皿に乗せられたサモサ?は真っ黒の焦げ焦げだったよ。
そこから30分たった19時ちょうどくらい。
「わたし、そろそろ帰るよ」
ソファに座ってた真里奈はそう言うと立ち上がった。
「そろそろお袋帰ってくるし飯食ってけよ」
俺がそう言うと、
「いやいいよ。今日家でおばあちゃんのお誕生会あるから」
「あのばあちゃんの誕生日今日だっけ。何歳になったの?」
「えと、72歳」
「へー。まだ元気?」
真里奈んちには小さい頃よく遊びに行ったものだ。おばあちゃんもおじいちゃんもほんと元気でよく俺と真里奈と真里奈のおじいちゃんおばあちゃんの4人で買い物に行ったものだ。
「うん」
嬉しそうに真里奈が答える。
「俺もあとで絶対行くわ。おばあちゃんにおめでとうって言ってたって伝えてといて」
「うん。分かった」
そんな感じで話してると、いつのまにか玄関前まで来てた。
真里奈はドアノブを掴むと、
「バイバイ」と、小さく手を振った。
あ、
というと真里奈の手が止まり、何事かと思ってみてたら、
「さっきの先輩断った理由。【好きな人がいるから】」
「え、だれ?」
ちょっと取り乱した俺の言葉に、意地悪な笑みを浮かべると、
「ないしょ。明日はお願いね」
と言って出て行って。
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