『赤ずきん』ちゃんと人狼くん
シナ(仮名 シナ)
『赤ずきん』ちゃんは今日も……。
ある所に『赤ずきん』と呼ばれる女の子がおりました。
皆さまがご存知の通り。
『赤ずきん』はお使いで、風邪をひいたおばあさんのところに行き、途中つい寄り道をしてしまい、先におばあさんを丸呑みにしていたオオカミに丸呑みにされ、オオカミが寝ていたところを猟師達に助けてもらったことがありました。
オオカミは目覚めると目の前に、『赤ずきん』とおばあさんを助け出す時に使った大きなハサミと銃を持った猟師達がいたので驚き、大慌てで窓から飛んで帰って行きました。
その時、『赤ずきん』は、ある憧れ を持ったのでした。
---そして数年後…………
その当時、まだあどけない少女だった『赤ずきん』は立派な娘さんに成長しました。
今でも変わらず、小さい頃に被っていた頭巾と似た色の真っ赤なケープのフードを被っていたので、未だに周りから『赤ずきん』と呼ばれていました。
ある日、また『赤ずきん』はお母さんに頼まれて、おばあさんの家にお使いに行くことになりました。
『赤ずきん』が森を歩いていると、後ろから声を掛けられました。
「『赤ずきん』ちゃん、どこに行くの?」
ガチャンジャキッ……………
返事はありませんでした……。
代わりに、森に不穏な音が響きました……。
その音の正体。
それは…………。
『赤ずきん』が隠し持っていた銃を声のかけられた方めがけ片手で構えた音 でした。
『赤ずきん』は銃口に「何か」が当たっているのを感じながら、ゆっくりと笑顔で振り返り、真っ赤なフードが揺れました。
もちろん、銃口は当てたまま、指は引き金にかけたまま、いつでも撃てる状態のまま………。
「あら、誰かと思ったらルークじゃない」
『赤ずきん』が構えた銃の先……。
そこには銃口を当てられ、引きつらせた笑顔のまま両手を挙げて固まる、幼馴染の少年がありました。
ルークは余程驚いたのか、いつもは上手く隠れている、人狼族特有の耳と尻尾が出ていました。
「こ、こんにちはぁ。……あの……ええっと………その………あ、『赤ずきん』 さん?……えーっと…………この銃、下ろしてくんない?」
「え?ヤダ」
それはもういっそ、清々しいまでの即答でした。
ルークの頼みはバッサリと切り捨てられました。
「え〜だってだよ?いきなり後ろから声がしたら……びっくりするじゃない?」
「だからって!相手見ずに銃口向けることはねぇだろ普通⁈」
「え〜だってほら、私一度オオカミに食べられた、か弱い少女だし?」
「その後、助けてもらった猟師に憧れて、猟師に弟子入りした奴のどこが、か弱い少女だよ⁈」
「え〜違うよ〜。私が憧れたのは、猟師のおじさん達じゃなくて、そのおじさん達が持っていた銃よ!」
そう、『赤ずきん』は以前猟師に助けてもらった時、猟師達の持っていた銃に憧れ、その日のうちに猟師達に弟子入りし、かれらに認めてもらえるほどの腕前にまでなったのでした。
「ちなみに、今構えている銃は、腕前を認めてもらった時にもらった時にもらった銃なの! ね?素敵な銃だと思わない?」
「………どちらにせよ……どこかか弱い少女だよ!!」
「…………そうねぇ…まあ、もう、か弱くはないかしら?………でも、私とおばあさん丸呑みにしたのあんたの身内でしょ?」
「その節はうちの馬鹿従兄がすいませんでしたぁぁぁぁ!!!」
ルークは銃口を向けられたまま土下座をしました。
それは、つい『赤ずきん』が「まあ、清々しい」と小さく呟くほどの清々しいものでした。
「まあ、あの日は、新月だったし……しょうがないかな?………」
ルークのような人狼族は普段、普通の人間と何ら変わりない生活を送っているが、新月の日は人を見境なく、喰ってしまうので、人狼族は森にしか現れず、新月の日は村にこもって出てこないのが人狼族の掟でした。
あの日……。
ルークの従兄は当時、まあ、言ってしまえば掟や大人に反抗したい言わゆるお
幸い、食べられた二人はなんともなかったし、『赤ずきん』も気にしませんでした。
『若気の至りと不幸な偶然が重なってしまった結果だったね、ドンマイ』というのが『赤ずきん』の家族の見解で、あまりにお気楽、楽観的すぎる見解に「それでいいのかよ被害者…」と謝ってきた人狼族の長達全員が頭を抱えたのは言わずもがな……。
………一方加害者側、ルークの従兄は、罰として村の奥にある小さな小屋から一生出れなくなり。今もひっそりと暮らしているらしいのでした…………
そんな感じで物思いにふけっておりますと、銃口の先のルークが声をかけてきました。
「………あの………まだ、銃下ろしてくれないの…かな?…………おーい『赤ずきん』さん?…………ソルフさん?おーい…ソルフ?……」
「………ま、いいわ、今日はこのくらいで勘弁してあげる」
そう言って『赤ずきん』 ソルフ はルークに向けていた銃をしまった。
ルークは立ち上がって服についた土を払うと、『赤ずきん』の持っていたバスケットを持ちました。
「今日もおばあさんの家だろ? 持つよ」
「え、あ、ありがと」
そして、二人は他愛ない話をしながら、おばあさんの家まで一緒に歩いて行きました。
*******
しばらくして目的のおばあさんの家に着きました。
ルークは『赤ずきん』にバスケットを渡しました。
「じゃあ、俺はこれで、またな」
「うん、ありがとね、荷物持ってくれて」
ルークは少し先に戻って振り返り、手を振ると、来た道を戻って帰って行きました。
『赤ずきん』はルークの姿がみえなくなるまで手を振って見送りました。
そしてルークの姿も見えなくなると……。
おばあさんの家の扉に背中でもたれかかり、その場に膝を抱えてしゃがみ込み、顔を伏せました。
そして、勢いよく顔を上げると…………。
「なんなのよ………もう、なんであそこで……なんであそこで
と叫び、真っ赤になった顔を隠すように被っていた真っ赤なケープのフードを引っ張って、その後しばらく、声にならない声を出しておりました。
******
一方、ルークはもう一度振り返って『赤ずきん』のおばあさんの家が見えなくなると、いきなり頭を抱えてしゃがみ込み、ばっと顔を上げるたかと思うと…………。
「なんでだ……なんでいっっつもこうなるんだよぉぉぉぉ!!」
と情けなく叫んだのでした。
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