ああ、窓に! 窓にオフトゥンがっ!!!

ちびまるフォイ

オではじまってンで終わるもの

「お、おい……あれ……なんだ?」


びたん。びたん。


コンクリートの道路の上に白い長方形がはねている。

バタフライ泳法のようにはねながらこちらに向かってくる。


「うあぁあ! お、オフトゥンだーー!!」


逃げ遅れた山田はオフトゥンに飲み込まれた。

その暖かな包容力はあらゆる抵抗力を奪ってしまう。


「山田! 早くそこから出ろ! 戻れなくなるぞ!!」


「う~~ん……うるさい……あと5分……」


「山田ーー!」


助けようとしたときだった。

後ろから覆いかぶさるように布団が襲ってきた。


「うわぁーーースヤァ……」


まもなく人類はオフトゥンの脅威へとさらされた。



『みなさん、世界各地でオフトゥンが猛威を奮っています!

 けして外には出ないでください! オフトゥンに飲み込まれます!』


道路を行き交う車よりもオフトゥンは多く街に現れた。

通行人を捕布団ほしょくし、眠りの監獄へと幽閉する。


「ちょっと! どうしてバスが動かないの!?」


「運転手がみんなオフトゥンに飲み込まれたんですよ!

 電車を使ってください!」


「電車も動いてないからこっちへ来たんじゃない!

 早くこの街をでないとオフトゥンに……きゃああ!!」


バスの窓には白いオフトゥンがバンと張り付いた。

まもなくバスに隠れていた人を飲み込んでしまった。


「あなたーー! この子を連れて早く逃げっ……スヤァ」


「も、もうだめだ……。こんな辛い思いして起きるくらいならいっそ……」


街では逃げ遅れた人がどんどんオフトゥンの中に滑り込む。

恐怖で震え上がるよりも安眠を求めて自らオフトゥンへ進み出る人も出てくる。


国の上層部は対策に打って出た。


「ようし、目覚まし作戦を開始する!!」


国のトップは暴走するオフトゥンと同じ量の目覚ましを出した。

これでオフトゥンに飲み込まれた人も目が覚める……わけがなかった。


「総理! 目覚ましがどんどん破壊されていってます!」


「なんだと!? そんなにもオフトゥンは凶暴なのか!」


「いえ、オフトゥンに飲まれた人が目覚ましを破壊しているようです!」


「くそっ……! 心地よい惰眠に洗脳されたのか……!!」


「総理……我々も早くここから逃げましょう!」

「バカ言うな! 自分だけ逃げられるか!」


「お困りですかな?」


「あ、あなたは!?」


「わしはオフトゥン博士。長年オフトゥンを研究しておる。

 いつかこんなパンデミックが怒るんじゃないかと思ってな」


ひげをはやしたおじいさんが訳知り顔でやってきた。


「それじゃ、あなたはこの事態を収集できるんですか。

 今や誰もがオフトゥンに飲まれてしまっているんです」


「わかっておる。解決方法は知っている。

 わしひとりでは解決できる規模ではないからこうしてここへ来たのじゃ」


「それで解決方法というのは!?」


「温めるんじゃよ。この世界を」


「あ、温める!?」


「オフトゥンから出られなくなるのはひとえにその暖かさ。

 じゃが、もし外が暑くて寝汗がひどい布団じゃとどうなる?」


「それだーー!!!」


人々をオフトゥンから救うために衛星エアコンが打ち上げられた。

これで地球環境の温度変化をピンポイントで変えることができる。


「いけ! 設定温度25度!!!」


ブゥン、という低音とともに衛星エアコンが起動した。

みるみる地表温度が上昇していく。


「う、う~~ん……」


オフトゥンに飲まれた人は寝苦しそうに寝返りを打ち始める。


「やった! 効果が出ているぞ!」


「ふっふっふ。じき布団も剥がされるじゃろうて」


空調が行き届くほど、オフトゥンの中の人は汗をかきはじめる。

オフトゥンをはがそうと動き始めるものも出てくる。


世界が救われたかに思えた。


「は、博士!? これはいったい……!?」


オフトゥン侵略も収拾するかに思えたときだった。

寝苦しそうにしていた人がどういうわけかふたたびオフトゥンに潜り込む。


「バカな! こんなにも暑いはずなのに!」


「いや……これは……冷感シートじゃ!

 環境変化にオフトゥンが適応して進化してしまったのじゃ!」


「な、なんてことだ……我々はオフトゥンの脅威を遠ざけるどころか

 むしろ進化を促してより恐ろしい化け物を作ってしまったのか……!」


寒くなれば暖かく包み込み、暑くなれば冷やしながら包み込む。

やわらかく温かいオフトゥンからはもう誰も逃げられない。


人間のあらゆる英知が敗北した瞬間だった。


「博士……」


「もう終わりじゃ……なにもかも……。

 人間がオフトゥンに抗おうとしたのがすべての間違いだったんじゃよ……」


あとはただオフトゥンに飲まれるのを待つだけ。


いつ来るかもわからないオフトゥンに怯えるくらいなら

いっそ自分からオフトゥンに入って安眠できたほうがいい気さえする。


「なんじゃ……これは……?」


博士はモニターを見ながら目を見開いていた。


「博士、いったいどうしたんですか?」


「わからん。どういうわけかオフトゥンから人が解放されていっとる!」


「博士がなにかしたのでは?」

「そんな策があったのならやっとるわい!」


「それじゃ、いったい……」



我々は長らく忘れていた。


どれだけオフトゥンに飲まれていようとも。


必ずオフトゥンから開放する偉大なる恐怖の象徴がいることを。


そして、その名はーー。





「あんたいつまで寝てるの! さっきから何度も起こしてるでしょ!!」




オカンは抵抗するまもなく布団をはぎ飛ばした。


この世界にはまだ最後にして最強の防衛ラインがることを思い知った。


ありがとうオカン。

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ああ、窓に! 窓にオフトゥンがっ!!! ちびまるフォイ @firestorage

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