非日常に溺れる日々は

櫛木 亮

第1話 陸で溺れる僕は

 目が覚めると、天井に向かって幾つもの輪が淡く上がっていく。カーテンの隙間から入る朝日に照らされて、寝ぼけた眼と長いまつ毛にきらきらと眩しく絡まる。僕の目に映る光が、まるで海のてっぺんに恋する人魚のようだった。



 今朝は寒い。

 誰だよ、三月はもう暖かいとか言った奴は。こうやって暖かいと寒いを繰り返して春は本当の春を迎える。


 四階の窓からぼんやりとした街が見える。


 隣の部屋の息遣いは変わらず聞こえる。生きている証。君は美しく年をきっちりと刻んでいく。日を追う事に白くなる肌は透明な骨董品のようだ。そんな君を僕は愛しているよ。


 そう、どんなときでもね。


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