現状の悪魔
伊井友野
短編
なんだか文字が書きたくなった。冷たい夜。人間は理性的でないので不十分だ。回りから外壁を取っ払えば僕はバカ。泣いたって帰ってこない。好きなものを追い続けて行き止まり。壁には登らせてくれない。引き返そうと思ったけど足元を見たら谷だった。深すぎた。僕はとりあえずその谷の端に座った。暗闇が僕を注視する。あーーーーー!
叫んでみた。帰ってこない。壁にもたれて崖を見下ろす。飛び込んでみたいけど勇気はない。でも飛び込まなければこのまま骸骨になって死ぬのだろう。
僕の人生そんな風に死ぬのは嫌だと思った。今は白骨になって死ぬか飛び込んで死ぬかの二択だろう。
この時、どちらかというと僕は後者選択したい。なぜなら飛び込んで死ぬのはどんな感じか知らないなら。興味がある。そういえば投身自殺というものがあった。駅とかビルの屋上から身を投げ出すから投身自殺らしい。世間はなにかと彼らの自殺の理由を問いたがる。誰もわからんのに。僕は死んだらどんな感じか知りたかった。と言ってもらった方が納得できる。さて、もしも飛び込んださきが湖なら僕はとりあえず生き延びたことになる。
僕はこれまでずっと谷のそこは固い地面だと思っていた。なにも見てないのに。知らないのに。
先入観というものは怖い。そう思った途端なんだか本当に湖が広がっているように思えた。ワクワクした。気がつくと普通に飛び込んでいた。どんどん加速する。すると、突然頭に激しい痛みを感じた。刹那意識が途切れた。地面だったみたいだ。こうして僕は死んだみたいだ。it's a bad end,
however、何日か死んだ意識のなかにいた。暗闇。たくさんの時が流れて、僕は本当に死んだのかと思うようになった。そう思うと目を開けることができた。ところどころ壊れてはいるけど、なんとか生きていたみたいだ。案外なんとかなるもんだと思った。谷底は暗闇でなにも見えない。このまま崖を登ってもなにもないのだからこのまま歩き始めよう。一歩目は本当に重かった。二歩目はもっと重かった。だけどそのうち慣れてきた。気づいたら僕は走っていた。この瞬間を僕は生きているなかで一番幸せに感じた。これまで泥のように生きてきたけど道はあった。頑張れないのはつらい。しんどくても走れているのは楽しい。この道を走り続ければ一緒に走ってくれる人もいるかもしれない。
人生なんてこんなもんだ。重かった一歩目に思いを馳せて。
現状の悪魔 伊井友野 @riaearth11
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