戦場に散った花は綺麗でした

氷堂 凛

序章 「先人の屍を越えて」

序章 第一話

 五月二十六日 ゼロロクマルマル 東シナ海 海上

「赤城艦長!全艦準備完了です!いつでもいけます!!」

「了解!二速前進ヨーソロー。各艦に通達、我に続け!」

「了解!各艦に通達“我に続け”」

 日が昇り始めた東シナ海はまだ寒い。

 穏やかな海に、我ら呉艦隊が颯爽と海を行く。

 目指すは、フィリピン海レイテ島―そこは、大日本帝国海軍が大敗を喫した場所であり、現在の、革命軍の本拠地。

 そして、今回の作戦において、焼け野原となる予定の場所……


 今日の世界は2020年。第二次世界大戦終結から、75年。しかし、GHQの保護下に日本が入ることに反発した海軍の青年将校らを筆頭とした多くの若者が、横須賀軍港を強襲し、軍用艦を強奪。革命軍と名乗り、東南アジア方面へ部隊を展開。植民地であった、フィリピン周辺を支配する大日本帝国と、本州を中心とする日本国の二つへと分離。

 大日本帝国は本州ならびに四国・九州・北海道及び周辺諸島の支配権の譲渡を主張。

 当然ながら、日本国は要求を棄却。米政府に対し、救援を要請するも、介入はしないとの回答。他組織との争い以前に、国内整備を徹底せよとのGHQの指令を行使。打つ手がなくなり、日本国は国内整備を進める方針へ。

 そして、2013年。東京オリンピックの開催がIOCにより発表されると、同時に大日本帝国側からの武力攻撃が再開。

 世の中は、再度戦争時代へと突入したのである。


「空母かがより通達です。“偵察機に、敵艦あり、距離120海里。警戒されたし”」

「了解。120海里か……総員、第一種警戒態勢。第二警戒序列へと変更。進路220度」

 120海里。ざっと、200㎞ちょっと。三時間少しで砲撃戦開始といったところである。

 当然ながら航空戦もあるため、戦闘開始は二時間少しといったところである。

 今回の作戦は、フィリピン海レイテ島への本土強襲。ここさえ潰してしまえば、もう終戦までは近い。東京オリンピック前に決着をつけたいという、防衛大臣の意向によるものだった。世界が注目する一戦。

 当然ながら、失敗は許されない。今回の作戦には、呉鎮守府のトップである、陸奥海将が不在である。急遽、横須賀へ招集がかかった。この時期に招集など不信感しかないが、陸奥海将にこの作戦を頼まれたのが、私、護衛艦むらさめ艦長 赤城翔太あかぎ しょうた二等海佐。一応、陸奥海将の補佐役として、鎮守府では働かせてもらっている。

「艦長!かがの、出雲三佐から通信が入っていますが……」

「あぁ、つないでくれ」

 出雲和桜いずも さくら……防衛大学校時代の同期で、群を抜く優秀な三等海佐。そして、若いながらも、護衛空母かがの艦長。本人も、航空機を操れるという、なんとも完璧な人間。

「赤城二佐。今回の作戦ですが、敵艦隊の予想進路とは少しズレていますが、発艦時間はどうしましょうか」

「そうだな、ヨンマルはやめられるか?」

「なんとか間に合わせます。本艦は大丈夫でありますが、ひりゅうがどうかわからないので」

「了解した、ひりゅうには急ぐよう伝えるよ、ではヨンマル早めて発艦してくれ」

「了解」

 さてと、一時間ちょっとっと……

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