放課後のパルプンテ

おぎおぎそ

融合召喚ミルクティー

融合召喚ミルクティー 前編

 ゴトン! という少々大仰な音と共に現れたのはペットボトルのアイスティーだった。

 いや、現れたというよりかは、わざわざ自分で自販機に硬貨を投入してまで手に入れたのだから出現させたと言った方が適当なのかもしれない。まあ、そんなことはどうでもいいけど。

 校内に数台しかない自販機、それも部活動の開始前ともなれば多少の混雑は致し方あるまい。上手く掴めないお釣りの二十円とマジックテープ型の財布(アディダス製。税込み二千九十円)を右手に、左手には召喚したアイスティーを持ちそそくさと自販機の前を後にする。


「おっ! コパン君じゃん!」

 ふいに背中から声をかけられビクッとする。はずみで十円玉が一枚手のひらから零れ落ちた。落ちた十円は何回かバウンドした後、声の主の方へと吸い込まれていく。

 硬貨の行く末を目で追っていくうちに、自分を呼んだのが誰であるかを僕は始めて認識した。同じクラスに生息する陽キャ君だ。名前は忘れてしまったが、まあどうせキラキラした名前だろうし、こちらから話しかけることは一生無いだろうから問題は無い。むしろ名前を覚えていることにより「んだてめぇ気安く呼んでんじゃねーぞ」と因縁をつけられる恐れがある以上、名前を覚えておかないのは最良の自己防衛策と言えなくもないだろう。いや、言えねーよ。


「ここの自販機使ってるなんて珍しくない? コパン君って部活勢だったっけ?」

 そんなことを考えているうちに、陽キャ君は僕の十円を拾い「ほい」と手渡してくれた。僕は陽の香りが染み付いた十円玉を受け取りペコリと頭を下げる。

「いや、やってないけど……」

「だよね! 普段この時間にチャリに乗ってるの、グラウンドから良く見かけるし!」

 ケラケラと笑う陽キャ君。どうやら自分の番が来たようで、自販機の前で人差し指を遊ばせている。


 この世の陽キャには二つのタイプがいるというのは全人類が共通して認識している事実だと思うが、どうやら彼は善玉タイプの陽キャのようである。僕みたいな人種にフランクに話しかけられるのは大体このタイプで、基本的に礼節をわきまえ誰に対しても分け隔てなく接してくれる。修学旅行の班分けとかで、クラスで一番大人しい子と同じ班に組まれて、その班のリーダーとかやらされてるイメージ。


 対して社会問題となっているのが悪玉タイプの陽キャだ。奴らは基本的に内輪ノリだけで生きており、一度コミュニティから外れるとそこらの根暗と同程度のコミュ力しか有していないことがもろにバレる。そのくせ陰キャに対する当たりがキツい。恐らくこれが同族嫌悪というやつなのだろう。傍から見たらクッソ寒い会話しかしてないという点で見れば、オタクも悪玉陽キャも大差ないからね。


 自販機のラインナップが人差し指で一通りなぞられた後、ゴトン! というやっぱり大仰な音と共に現れたのはペットボトルのミルクティーだった。少し屈んでミルクティーを取り出した陽キャ君はそのまますぐに一口飲む。

「俺らはさ、ほら、運動部だから水分補給のためにここの自販機よく使うんだけど。なんてったってグラウンドから一番近いし」

「え、これ運動中に飲むの?」

 このモッタリ系ドリンクをハードな運動中に服用するとは。陽キャの嗜好回路には恐れ入るものがある。

「え? 普通に飲むけど……?」

 どうやら陽キャ君には僕の質問の意味が理解できていないらしい。

「……甘くて美味しいよ?」

 違う、そうじゃない。


 いや、まあ別にその喉に引っ掛かるような甘みを運動中に味わうのが好きならそれはそれで僕は一向にかまわんのですよ。ええ。ただ、運動部の水分補給というといわゆるスポドリ的なやつがどうしても想像されてしまうわけでして。


「ていうか、コパン君もアイスティー買ってるじゃん! これが本当の『茶飲み友達』ってやつだな!」

 そう言いつつ、陽キャ君はミルクティーをもう一口含む。対して僕の口からは乾いた笑いが漏れ出た。

「は、ははっ……」

「…………」

「…………」

「……ウェーイ!」

「うぇ、うぇ~い……!」

 何だこの会話。……異文化交流って難しいね!

「んじゃ、俺そろそろ練習始まりそうだし行くわ! コパン君も帰るんでしょ?」

「あーいや、僕はまだやることがあるから……」

 そう言いつつ、僕はアイスティーのキャップを開けた。

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