龍王の契約者に花嫁を

ぐち/WereHouse

第一話 元旦と大晦日と好きな人

 元旦の午前九時頃。とある有名な神社の分院の付近にあるコンビニの前のベンチに遼太郎は座り、甘い缶コーヒーを飲んでいた。

 遼太郎――鎌倉 遼太郎(かまくら りょうたろう)は、高校二年生の男。顔立ちは整っていて、モテそうな風格があるのだが、龍のような恐ろしい眼つきをしており、初見の人出は絶対怖がってしまう。だが、怖がるのも次第に馴れていくので、時間はかかるものの友人はいる。

 そして、その友人達とは前日の大晦日で男だけのパーティーをしていた。

 胸のデカいクラスメイトの話だとか、可愛い女の子グランプリだとか、先生の真似をしてみたり、テレビゲームをしたり、恋愛相談などもした。

 これだけでも結構盛沢山な内容なのだが、極めつけが、時刻が零時となった瞬間に好きな人、もとい、芸能人だとか歌手だとかの写真にキスをするといったなんともカオスな事も起こった。

 そのまま時間だけは流れ、気が付けば約束の時刻となってしまったため、遼太郎は一睡もしていない状態でいるのだ。

 遼太郎は大きなあくびをしたり、眠い目をこすったりして、人が来るのを待った。

 すると、「コツコツコツコツ」とハイヒールの音がした。その方向を見ると、約束の人が来た。

 「はぁ、はぁ」と吐息を漏らしながらも、ゆっくりと呼吸を整えて、


「待った?」

「いや、全然、ちょうど来たところだよ」

「そうなんだ!じゃあ神社に初詣へ行こうよ」

「うん」


 そして、遼太郎と約束の人、秋穂は二人並んで神社へと向かった。

秋穂――榊原 秋穂(さかきばら あきほ)は小柄な体格の女性で、顔立ちが整っており、美人と言うより可愛いと言える。

 遼太郎は秋穂の真面目で一生懸命のところに惚れて、こうしてデートまで行き着けたのだ。

 それまで道のりは長く、ここまで来るのに半年かかっている。

 同級生の中では好きになったらすぐにアタックして付き合うという猛者?もいる。

 秋穂が遼太郎の目に怖がる様子はなく、逆に、


「見たことない眼つきしてる。ユニーク!」


 て、ニヤニヤしながら言われた。


「そう言えば、隣のクラスの烏丸くんとうちのクラスの小春さんが付き合ったの知ってる?」

「ん?初めて知った。へーでも、前から付き合いそうな雰囲気はあったから、まぁ、お幸せにって思うよ」

「そうだよね、あの二人なんか、満更でもなさそうで、見ていて微笑ましいもんね。私もお幸せにって思ったよ」


 遼太郎と秋穂は、鳥居前の石階段を上り、鳥居をくぐり、右側にある手水舎で身を清め、本殿の方へ向かった。その途中、周りから距離を取られたり、「怖い」って声も聞こえたが、聞こえないふりをした。秋穂からは、「大丈夫、カッコいいよ」って言われて遼太郎のメンタルは治った。

 本殿に着いたのだが、そこには、少し列が出来ていて、待つことにした。秋穂から、


「ねぇ、遼君は何を願うの?」

「……」

「?」


 ――榊原さんと付き合いたいって言えるわけないだろ。


 遼太郎は心の中で思いながら、


「学業成就辺りかな」

「学業成就かぁ~。そっか来年はもう受験だもんね」

「そうそう、最近点数落ちてきたから調子を取り戻さないとで」

「私も期末考査で点数落ちて、赤点取っちゃったんだよね」

「へぇ~、大変だね。頑張りなよ」

「うん!」


 そうこうしているうちに順番が回り、遼太郎は財布から五円を出して、賽銭箱に入れ、秋穂は五百円を出して賽銭箱に入れた。それを見た遼太郎が、


「え、榊原さん、五百円もいれるのか?」

「え、うん。なんか一杯ご利益がありそうだと思って……」

「五百円ってのは、これ以上硬貨(効果)がないって意味になってふさわしくないらしいぞ」

「へぇ、そうなんだ!遼君って物知りなんだね」

「そんなことはないよ、ただ、今日の事とかで、勉強してたら神社に興味が湧いてね」

「今日の事を勉強?」

「な、なんでもないから!」


 遼太郎は焦って言葉を取り消した。

 そして、二人はお守り売り場に向かった。秋穂から、


「ねぇ、学業成就のお守り買うよね?」

「うん」

「これはいいの?」


 そう言って秋穂は遼太郎に恋愛成就のお守りを見せた。遼太郎は冷静に


「友達に必要かもな」


 て、言ってニコッとした。秋穂はそれを見て、


「他人の心配してる暇あるの?」

「……だいぶ、ない。てか切羽詰まってる」

「…買っとく?」

「……買っとく」

 

 遼太郎は、学業成就と恋愛成就のお守りを購入した。巫女さんに「キャっ」叫ばれて少し凹んだ。秋穂も、学業成就と恋愛成就のお守りを購入していた。

 それを見て、遼太郎は、


――あぁ榊原さんには好きな人がいるのかな。


 そして、嫌な妄想が広がって、急いで頭を横に振り、妄想を消す。それを見た秋穂が、


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。大丈夫」

「……本当に?」

「うん」

「そっか…あ、おみくじがある!」

「お、本当だ」


 遼太郎と秋穂はおみくじ売り場でくじを買った。

 遼太郎はおみくじを開き運勢を見ると、そこには龍吉と書かれていた。


――龍吉?


 そう思ったが、大吉の変わりかと思って何の気にすることもなく、恋愛の部分を見る。

 そこには、『一年以内に結婚せねば、汝の命は消滅す』と書かれていた。

 遼太郎は、最近の神社はユーモアなのだろうと思った。

 秋穂はというと、顔を真っ赤にして、見ていた。遼太郎が、


「どうかしたのか?」


 と聞くと、「な、なんでもない」、て恥ずかしそうな顔をして言った。

 遼太郎は心の中で、『く、可愛い』と思った。秋穂が、


「おみくじ結びに行こ!」

「分かった」


 そう言って、松の木まで行き、おみくじを結んだ。遼太郎が、


「どうする?どっか買い物にでも行く?」

「い、いや、寒いから早く帰って、暖かい部屋で過ごしたいよ」

「分かった。じゃぁ、市内方面に向けて帰りますか」

「うん」


 石階段を降り、駅に向かおうとした。下に降りた時、時間が昼頃になっていて、人が多くなっていた。

 人混みの中を遼太郎は、秋穂をリードして進む。眼つきがここぞとばかりに役立つと思ったが、人混みの中、遼太郎の顔を見る人はおらず、分け押し入って行くのに一苦労した。

 やっと人混みを抜けることができたと思った瞬間、背中になにか冷たさを感じたとともに、だんだんと視界がぼやけてきた。

 周りは「キャーーっ」と叫び声が聞こえ、秋穂は遼太郎に向けて、「死んじゃだめ!生きて!」と叫んでいるだが、遼太郎は、落ちていく意識の中聞き取れず、そのまま眠りへと落ちてしまったのだ。

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