8-4
エルナと交互に魔物を倒しながら、日本橋を抜けて墨田川までやってきた。
幸いなことに両国橋は健在で自由に行き来ができる。
「う~~~っ!」
小さなエルナが橋の上に乗り捨てられた戦車にしがみついていた。
「なにやってるの?」
「持ち上げられるかと思ったのじゃが、さすがに無理じゃった」
恐ろしいことをさらりと言いやがって……。
戦車なんて何トンあるかわからないんだぞ!
「頼むから俺のことを潰したりしないでくれよ」
「安心いたせ。『剛力』のスキルはオンオフが可能。寛二の腹をつまむときはオフにしておいてやるわ」
当たり前だ。
砲丸玉をぐにゃりと握りつぶせる女に、俺のデリケートな皮下脂肪を同じパワーでつままれてたまるか!
そんなに大切な物じゃないけどさ。
エルナのパワーがあれば銀行の瓦礫もどかせそうだけど、時間がもったいないし面倒なのでレベル上げを優先することにした。
隅田川を渡れば錦糸町まではもうすぐだ。
細い路地から出てきたイモムシのような魔物に魔弾丸を撃ちこんだところで、再び俺のレベルが上がった。
「寛二ばかりいいのぉ……」
「それだけエルナのスキルが上級ってことなんだろう? 次のレベルアップを期待しなよ」
持ち上げつつ、かわす。
それが大人の付き合い方。
レベル :10 → 11
弾数 :12発 → 12発
リロード:7秒 → 7秒
射程 :30メートル → 32メートル
威力 :21 → 23
命中補正:15% → 17%
モード :三点バースト、フルオート、??? →三点バースト、フルオート、???
上がったのは射程、威力、命中補正か。
どれも大事な要素だから嬉しいな。
命中補正って、100%になったら絶対に外すことはないってことだろうか?
このままいったら、かのゴルさんもびっくりな伝説のスナイパーになれそうだ。
葛城ちゃんもなにやら羨望の目で俺を見ているぞ。
「反町殿はすごいですね。ダブルの能力を持つスキルは滅多に発現しないんですよ」
ダブルというのは二つ以上の効果が期待できるスキルのことだ。
たとえば神大のスキル『覇王』もダブルの一つだ。
半径50メートル以内にいる者のスキルを封じることができ、さらに格闘系の能力を発揮するらしい。
敵のスキルを封じておいて、身体能力がアップされた状態の格闘技でボコるなんて無敵もいいところじゃねぇか。
「でも、不思議です。私の知る限りダブルの能力者は、みんな大きなコミュのリーダーです。どうして反町殿は違うのですか? それだけの能力があれば大勢の人を導けるでしょうに……」
葛城ちゃんはどこか咎めるような口調だった。
でも、リーダーとか言われても困ってしまう。
そんな面倒なことはやりたくないし、皆の生活に責任をもてるほど真面目な人間じゃない。
「それくらいにしてやってくれ、葛城よ。人には向き不向きがある」
意外なことにエルナが助け舟を出してくれた。
「でも……」
「王などというのは国のために非情に徹することが必要になる。じゃが、この男にそんなことは不可能じゃ。国よりなにより娘が大事な男じゃからな」
その通りだ。
「力を持つ者は、その力を皆のために使うべきではないのですか?」
「それはお主の勝手な言い分じゃ。お主と寛二、どちらが身勝手かのぉ……」
葛城ちゃんは何も言い返さなかったけど、納得しているようには見えなかった。
「お主が心酔している新王とやらは立派な男のようじゃな」
「それはもう!」
「それに比べて、この男はお世辞にも立派とは言えん」
自覚はあるからわざわざ言うな。
「じゃがの、私は王族ゆえ、そのような立派な男は山ほど見てきたのじゃ。そして、そのような立派な男は大儀のために愛するものを切り捨てる」
エルナと葛城ちゃんの視線が真剣で打ち合うように交錯していた。
「お主は切られる側になっても耐えられるのじゃろうな?」
「もとより。新王様の大望のためなら、この命、惜しくはございません」
「さようか……お主にその覚悟があるのなら何も言わんさ」
エルナの雰囲気が急に弛緩した。
「じゃが私は新王などよりもこちらの寛二の方が好みじゃ。なんといっても信用できる」
まさか、エルナは………………デブ専?
「新王様とて信義を重んじる方です……」
「あるいはそうかもしれん。じゃが、可愛げはないじゃろ?」
「可愛げ……ですか?」
意表を突かれたように葛城ちゃんがキョトンとした表情になった。
「うむ。可愛げじゃ」
一方でエルナはさも満足げだ。
だけどな、言いながら腹をつまむんじゃねぇ!
「一人一人を愛しすぎる男に王は無理じゃ。個人に肩入れしすぎれば全体が歪む。ゆえに寛二にリーダーなど務まるものか」
うん、なんだかよくわからんけど、俺は倫子が大切だからリーダーには向いていないってことだな。
それともう一つわかったことがある。
エルナは俺を認めてくれているようだ。
つまり、俺はエルナをもっと大切にしなきゃならないってことだ。
でも、困っちゃうんだよな……。
免疫がないせいか、俺は惚れっぽいんだよ。
あんな美少女が俺のことを好きになってくれるわけがないって、理性ではわかっているんだ。
だけどさ……。
それとも、もしかして本当にデブ専?
そんな質問ができるはずもなく、俺は悶々とした気持ちを魔弾丸に籠めてフルオートで発射した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます