世界よ魔女色に染まれ
プラウダ・クレムニク
第1話 赤眼の魔女 誕生
窓から差し込む晩冬の陽光が病室を照らしている。オイルヒータによって温められた室内には消毒薬の匂いが幽かに漂っていた。
鉄枠のベッドに上体を起こした人物がいる。頭部に包帯を巻いており、鼻と口だけしか見えないが、細い首と腕、そして何より膨らんだ胸から女性であることがわかった。
白衣を纏った白髪交じりの東洋人が鋏で包帯を切っていく。その下から現れた彼女の顔は外された包帯よりも白い。そして髪はきれいな銀色をしていた。
「まだ目は開かないでください。部屋を少し暗くします」
医師が言い、隣にいた女性看護師がカーテンを閉める。シャッと大きな音に驚き、ベッドの上の女性はピクリと肩を震わせた。
看護師が手鏡を用意し、ベッドの上の女性の前に差し出した。
「どうぞ、目を開けて」
医師に言われ、彼女はまぶたを上げる。まつげは白く、彼女の瞳は鮮血と同じ色をしていた。
赤い瞳が手鏡のなかを泳ぎ、新しい自分の顔を確認していく。さらにじっくり検分しようと看護師から手鏡を受け取ると、顎を突き出し、鏡の角度を変えて気になっている部分を覗き込んだ。
空を見上げている時ぐらいにしか気にならないであろう顎の下。そこにある傷はすっかりふさがっており、わずかにある赤い筋も消えつつある。右手を顎に当ててみると、しっかりとした硬さがあることがわかった。
「まだあまりいじらないほうがいい。落ち着くまではね。動くかもしれません」
医師が言う。術後はしばらく安静が必要だし、手術した箇所をむやみに触るものではない。
「素晴らしいわ。ドクター・タカツ」
手鏡に映る美少女をうっとりと眺めながら、彼女、ラヴィニア・ウェイトリーが言う。家系的に短い顎――今日まで彼女のコンプレックスになっていた――は整形手術によって是正されていたのだ。
「瞳を黒くするコンタクトレンズもご用意しました。今日から使ってください。その色では目立ちすぎます。そのレンズ、あなたの近眼や乱視も補正してくれますよ」
ドクター・タカツは笑顔で言う。去年、アーカム療養所にやってきたこの日本人の医師は驚くべき手腕で患者を回復させてきた。
今、ラヴィニアはコンタクトレンズをつけると自力でベッドから起き上がり、窓のカーテンを開ける。その自然な様は半年前、ドクター・タカツの治療が始まるまで隔離室で呻きを漏らすだけの肉塊だったとは信じられないほどであった。
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