第4話 ないしょになる事

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 「ねえ」と回答を催促するように言われたとき、やっとまともに思考ができるようになった。


 白崎メグミがわたしの腕を噛む?

 何故?


「なんでそうなるんですか」

 疑問はそのままの形で口から出た。

「嫌?」

「質問で返すのやめてもらえますか」

「先に質問に質問で返したのは、コトリちゃんだよ」

 白崎メグミが、わたしの左手首をつかむ。


「すこしだけ、いいでしょう? 内緒にする」


 その言葉を合図にするみたいに、力任せに身体ごと引き寄せられた。

 わたしの左肩を撫でさするように、白崎メグミがTシャツの袖に手をすべりこませる。素肌に触れた手がひんやりと冷たくて、肩がこわばった。

「コトリちゃんの腕、やわらかい」

 袖が捲り上げられる。適当に結び直したため緩んでいた包帯は、あっけなく解かれてカーペットに落ちた。

「細いのに不思議」

 白崎メグミは耳元で息を吹きかけるように囁いた。淡い栗色の髪が、首を撫でるのがくすぐったい。


 そして、わたしの左腕に噛みついた。


 噛みつく寸前、口を大きく開けたときにちらりと見えた八重歯は、物語に登場する吸血鬼を連想させた。

 白崎メグミの歯が、わたしの肌に食い込むのがわかった。自分でそれをするときとは違う種類の痛みが走る。わたしは悲鳴に似た声をあげそうになるのを、咄嗟に我慢して顔をしかめた。

 噛みつかれている二の腕も、支えるために掴まれている手首も、痛い。

 痛くて、生暖かい。

 きもちがいいかなんて、わからない。

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