霊威学園へようこそ~Necessary EVIL story~

霧雨

第1話「鋼鉄」

__西暦2320年。この星の全人類は急激な進化の果てに「異能」を持つようになった。「異能」は強かれ弱かれ人それぞれ。ある人は「指から光線を放つ」異能。ある人は「右手からカレーパンを生み出す」異能。


 その上文化も発展した。空を見上げれば人は飛び、会社にはあらゆる場所へ瞬間的に移動できる携帯テレポーターや人間には不可能な計算も可能なAI。人類は今まで以上に発展していった。


 あ、自己紹介が遅れたな。俺の名は「斬月 禮(ざんげつ れい)」。霊威学園3年B組の一生徒だ。能力は「鋼鉄」。まぁ簡単に言えば周囲の金属を集めて操る、って感じだ。射程は半径20m。単純なものならなんだって変形できる。


 そんな能力を持つ俺は…退屈していた。毎日同じことの繰り返しでうんざりしている。朝起きて朝食食って歯を磨いて顔洗って学校行って受ける必要のない授業受けて昼飯食べて…あとはわかるだろ?また授業受けて帰って夕飯食って風呂入って便所行って寝る。な?退屈だろ?


 はぁ、いっそのこと隕石でも落ちてくれたら。そう思っていた。そう、これは俺…いや、俺たちの「必要悪」となる物語。


<6月12日>

「はぁ、退屈だ。なぜ行く必要もない学校に行く必要があるのだ。」

またいつもの、だ。大体最新の技術で勉強なんてしなくてもいいじゃねーかっていうかもしれないが、この時代の学校なんてものは「絆を深めるためだけ」に存在する。事実勉強のカリキュラムは「知識マイクロチップ」といわれる全人類の脳に埋め込まれたマイクロチップで事が足りる。よって勉強する必要なんてものはないのだ。


「そんなこと言わないでくださいよ、先輩。今日は何の日かわかっています?」

俺の隣にいるのは「七瀬 躯(ななせ むくろ)」、俺の1年後輩にあたる。能力は「風圧」。読んで字のごとく「利き手である右手から周囲を吹き飛ばす風を起こす」ことだ。閑話休題。


「今日はあなたのクラスに『転校生』が来るそうですね。」

そうだった。

「ああ、知ってる。」

今日は転校生がやってくる。こういう場合に限り、大体絶世の美少女で、そいつ中心に物語が進行していく。そう思っていた。

「……でしたっけ?」

あ、聞いてなかった。まぁいい。同じクラスだ。名前なんかすぐわかる。

「あ、ああ。…ってそうこうしているうちに着いたぞ。」


俺たちの目の前にはザ・近未来チックな建物。なりこそは学校だが、全体的に黒と青ベースの色の外観で、単純な構造。これを自分の語彙力で表せないのが少し悔しいところである。


「そうですね。では、また。」

玄関前で躯と別れた俺は、上履きに履き替えて足早に教室に入った。


このとき俺は知らなかったんだ、転校生が物語を動かすのではなかったことを。そして、この裏でうごめく…「黒幕」とでもいうべき存在を。


第2話「虚桜」に続く。

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