屋台
「わあ、人がいっぱいだね」
街へ降りると、それはもう人がたくさん。
老若男女、身分も性別も関係なく、みんな楽しそうに歌ったり、踊ったり。
道端には様々な屋台が並び、お肉を焼くいい匂いや、果物をチョコレートに浸した甘いお菓子の匂いなど、様々な匂いが鼻腔をくすぐった。
人混みに流されないよう、肩にルルたちを乗せて、エレンさんたちの後を追う。
「こっちこっち! この時期にしかダンジョンで狩れない『ジャイアントウルガ』の串焼きがすごく美味しいんです!」
「狩りたてらしいですにゃ~」
二人に引っ張られて、人混みの中を縫うようにして移動する。
本日は一日お休みをもらって、エレンさんとクロナさんと街のお祭りを見て回っていた。
たくさんの屋台やざわめきに、わたしの心も浮き立つ。
「るーう」
「ん?」
「るう!」
ルルが前足で前方をさした。
「うわ、すご!」
「あれですあれ!」
目の前の屋台には、ジャイアントウルガと呼ばれる、牛のような姿をしたモンスターが丸々一頭吊るされて、料理にされていた。
「香草を揉み込んで、甘辛いタレと絡めて食べると、すんごく美味しいんですよぉ~!」
ジュル、とエレンさんはよだれを拭った。
「さ、ゲットにしに行きましょ!」
「私はフレッシュジュースを買ってきますにゃ~」
「了解です!」
三人であっちこっちと動き回る。
街はいつも以上にキラキラしている気がして、とても楽しかった。
三人で並んで、淡い輝きを放つダンジョンを見下ろす。
「本当に光ってる……」
「この時期になるといつもそうなのですにゃ。それがなぜかはわかっていませんけど……」
穴の周りに設えてあったお祭りの用のベンチに座って、屋台で買ったごはんを食べる。ルルたちはフルーツの串を気に入ってはぐはぐと食べていた。
「あー、外はいろいろ大変ですけど、こうしてのんびりできるのは、やっぱりいいですねぇ」
「……」
エレンさんの呟きに、私はふと、アレスと一緒に空を飛んだ時のことを思い出した。わたしはあの異空間で、何か闇に蠢く物を見た。アレスはそれを「よくないもの」だと言った。どこにいるのかも、正体もわからない。けれどそれが今、アルーダに異変をもたらしているのだと。
あれから、やはりアルーダ国のいい噂は聞かない。日に日に魔物の被害がひどくなっているそうだ。外出の規制がかかり、国外へ避難する貴族も多くなってきた。けれどここは嘘みたいに平和だ。あんな闇なんて蹴散らしてしまうくらい、キラキラと輝いている。
「こんなに幸せな毎日が続くといいですにゃ~」
クロナさんがそう呟いた。わたしも同じことを思う。
空を飛んでいたモコモットたちが降りてきて、わたしにさらなるごはんをねだる。それを見て少し笑ってしまった。ふわっと風が吹いて、わたしの長い髪をさらう。
髪を押さえながら、光り輝く街を見た。来年も、再来年も。みんなでこうやって、お祭りを楽しめたらいいなぁ。……いや、わたしはこれからもここで暮らすんだもん。きっと叶うはずだよね。
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