第34話 メンタルいっぱい

 綾香さんの妊娠までバレてしまい、僕と綾香さんが婚約状態を確認されて、綾香さんには逃げ場がなくなって良かったのか……


 僕は成り行きで夫婦になれる事に抵抗がなさ過ぎて逆に置いてけぼりを食っている。綾香さんと気持ちがすれ違っているのかを心配してばかりだ。


 でも、ここからが女子トークで、吹っ切れた綾香さんが僕にまだ見せてない産婦人科の資料を出してきた。


 僕よりも先にジェシカさん、三人の女の先輩が手に取って見てる。ここに来ても置いてけぼり。


「きゃー! かわいい! 」


「ちょっと、写真撮って良いですか? 」


「今日の日付ですよね〜」


 超音波の写真への先輩たちのハイテンションに男の僕はついていけない。そしてなかなか僕の手に回ってこない。


 もじもじと順番を待っていると、綾香さんがテーブルの下で手を握って来た。綾香さんは目を合わせないけど、横顔から嬉しそうな気持ちは伝わってきてくつぐったい。


 綾香さんは嫌じゃなかったんだと分かって、ホッとする。僕の居場所は、ここで良いんだ。


 三人の先輩が超音波の写真に一通りの儀式? を済ますと「僕、まだ見てないんです」とお願いしてみた。


「え、そうだったの? ごめん、パパどうぞ〜」


「要くん、パパだって〜」


 そんなパパ連発をくらって僕の中で何か膨らんで弾けたのか、写真を手に取って見る前に涙がポロポロし始めて制御不能になった。


 綾香さんのビールを代わりに飲んで酔ったせいかも。昨日から、何気にメンタルいっぱいに過ごしてた反動が一気に噴出してしまった。


「要くん泣いちゃった〜」


 先輩たちに頭を揉みくしゃに撫で撫でされて喜ばれて、またネタを提供してしまった。


『要くん、赤ちゃんの超音波写真を先輩たちに先に見られて泣く』事件として。


 赤ちゃんの写真は残像だけ目の裏に焼き付いて、ゆっくり見たのは部屋に戻ってからだった。

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