第31話 んんんんんっ???

 井達さんとジェシカさんのマンションの玄関を抜けて広いリビングに入ると、部屋は真っ暗。でも大きなテレビ画面でジェシカさんと綾香さんがホラー映画を大音量で観ていた。


 フッカフカのラグにクッションがいくつかと綾香さんとジェシカさんが転がっている。こっちに気が付いていない。


「帰ったぞ! 」と、井達さんが部屋の明かりを全灯した。


「おじゃまします」


「コースケ。あれ? ワンコ! 」


「…………」


 呑気なジェシカさんと気不味そうな綾香さん。


「学校サボったスクールガールズか? 」


「うらやましいでしょー」


 テンポが噛み合ってない井達さんとジェシカさん……大丈夫かこの人たち。


「綾香さん、帰ろ」


「…………」


 綾香さんはもじもじとして僕の顔を見てくれない。


「そう、コースケ、ちょっと考えたんだけど。私はアヤカとロスで結婚すればいいんじゃないか? ロス、同性パートナー解禁した! 」


「「んんん???」」僕も井達さんも一瞬にして混乱する。


「ちょっと待て、お前また変なことぶち上げたな。話がややこしい」


「だって、ワイナリーのオーナー、子どもいる方がいいって言うから、アヤカと結婚した方が早くない? 」


「またお前都合じゃないか」


「違うよー! アヤカの事は私が幸せにするし! 子どもといっしょにファミリー作って、ずっと! 」


「……ちょっと待て」


 井達さんが目を瞑りこめかみに手を当てて、間を置いて文句を言う。


「……お前、ついこの間俺と再婚してって言った口で、なんで綾香と子どもを『ずっと』幸せにするって言えるんだ? 意味が分からん」


 井達さんがわんこ以下っていうのは、マジだった。


「でもー、アヤカが悩むような男なんかいらないでしょー」


 あ、それ、僕のことか。いきなりボディーブローをかまされて死にかける。


「本人の前で言うな」


 井達さんが僕を指差して、やっとジェシカさんが僕がいる理由に気がつく。


「お——っ! ワンコ!? 」


「……要です」


 井達さん、ジェシカさんに変なインプットしないで欲しい。同情しかけたけど止めようかな。


「カナメもロスに……」と、ジェシカさんが言いかけて、井達さんがボディーアクションでストップをかけた。


「と、言うわけだから、これ以上ややこしくなる前に帰った方が良いぞ」


「そうする」


 と、井達さんが言うのと同時に綾香さんが立ち上がった。僕は綾香さんの荷物を持って、そそくさと二人で帰ることになった。


 その後、井達さんとジェシカさんがどうなったかは知らない。


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