奇妙な原稿

葵流星

奇妙な原稿

蝉は鳴く…。

愛を求めて…。

蝉は鳴く…。


外は、晴天で雲一つない空が浮かんでいる。

けれども、この部屋に居る私にとってはあまり関係のないことかもしれない…。

なぜかというと文化祭の時に部活…そう文芸部員としての作品を作る必要があったのだ…。

そして、原稿用紙とノートパソコンをにらめっこしているのにも訳があるのだ…。


遡ること、一週間前。

今日は、夏休み前最後の活動だった。


「さて、今年も来ました。文化祭のテーマ決め。今年は部員も増えたから去年より作品数も多く、部誌も厚くなることでしょう…。前置きは、ここら辺にしてそれぞれテーマを決めましょう!」


そんな感じで、部誌のテーマを決めることになった。

今年は東京オリンピックもあるし、架空の選手でも作って書こうとかその時は思っていた…それまでは…。

何が起きたのかというと…くじ引きだった。

確かにこれならそれぞれの作品…もとい小説のテーマは被らないだろう…。

確かにそうだ…。

部員が10名いるならそれこそ妥当だろう…。

去年は、8人だったので1つのジャンルに2人で分けられていた。

その時は、八坂先輩と一緒に推理小説についてどういう作品にするか話し合いなんとか文化祭の前の提出日までには書き終えることができた。

また、小説とは別に詩を書く必要もある。


では、どんなテーマが俺に当てられたと言うと…。

『変わった世界観での物語」だった。

タイムスリップではなく、SFでもなく、恋愛小説でもない…。

そんなテーマだった。


「変わった世界観での物語って、どういう感じの?」


俺は、部室で自分が引いたくじの中身を言った。

このくじ引きでは一人一人両面白い正方形の紙に読んでみたいテーマを書いて回収し、混ぜてから部長が1から10と書かれた封筒にそれを入れて後は好きな番号を選ぶという少々手間のかかるくじ引きだった。

一年生の5人が先に選んで、俺は8番を選んだ。

その8番の封筒の中身がこれだった。

なお、これを書いたのは一年生の谷崎さんだった。

彼女は、くじの内容の通りちょっと変わった作品が好きだった。

彼女と俺は、ほぼ対極のような嗜好だったのだ。

とはいえ、くじ引きで決まってしまった以上は仕方がない。

先輩としての意地を見せなければ…。

そう思っていた矢先…俺は、挫折した。

そして、今に至る。


歪み、歪み…。

人の歪み…。

精神世界…。


…彼女に勧められた本を読むがやはり特異な世界観を想像するのは難しかった。


俺は、しばらくノートパソコンを眺めているとふとっ、何やら興味深いサイトの記事を見つけそこへ飛んだ。

そして、やけに星が多くついているレビューのゲームのネタバレを見た。

ふとっ、思ってしまった…。

参考になるかもしれないと…。

日本製のゲームで、どうやらパソコン対応のゲームだった。

お金はかかるがどうも気になってしまい…翌日、そのゲームを購入し遊ぶことにした。

ゲームのアイコンがパソコンのデスクトップにまるで、このアプリケーションは安全ですよとばかりに飾り気のない文字でDead And Respawnと書いてある。

余ったお金でセール中だった他のゲームも一緒にノートパソコンにインストールした。


早速、ゲームを起動した。

すると、画面が黒くなった。

あまり性能の良いノートパソコンではないので処理落ちかと思った。

だが、一応ゲームの推奨スペック以上はあった。


一瞬…赤ちゃんの顔が見えたような気がした。


はじめから、続きから、オプションと3つのメニュー。

背景には、夕日に照らされる町が見えていた。

そして、俺ははじめからを選択しゲームを始めた。


また、画面が暗くなりぼんやりと中心から白い光が現れ画面を全て真っ白にする。

トンネルから出た時のような眩しさが終わると荒いドットの風景が現れた。

サイトのネタバレによるとメッセージが隠されておりそれに触れると別の場所へと行けるのだという…。

ただ、見渡す限り何も見えなかった…。

陽炎なのか奥の方は霞んでおり、先は見えない…。

俺は、ただ真っ直ぐ操作しているキャラクターを移動させた。

すると、ピンク色の街灯が見えた。

俺は、それに近づきメッセージを探した。

街灯の根本に何やら文字が書かれていた。

かろうじて読めた文字は、許さない…だった。


…今度は、女の子が見えたような気がした。


次は、夜中の駅のような場所だった。

先ほどは持っていなかった望遠鏡が使えるようになっていた。

そのまま、駅と思わるれる構内を移動する。

しばらくして、俺は線路に降りようと思ったが進めなかった。

奥には駅のホームが何個も見える。

同じようにあそこまでは行けるのだが線路には降りれなかった。

そこで線路を望遠鏡で覗いてみると…。


覚えていないの?


そう線路に赤い文字がスプレー缶で書かれたようにあった。

すかさず、望遠鏡を外して線路を見るがやはり何も書かれて居なかった。

もう一度望遠鏡を覗くと画面が赤くなった。

いや、赤くなったのではなく文字で埋め尽くされていく。

真っ赤になり、黒くなる…。


…老婆だろうか。


見覚えのない顔の人物が見えた。


次は、どうやら住宅街だった。

散策してみるのもいいかもしれない…。

望遠鏡で見渡すとどこまでも続くのかと思いきや家の塀あり、行き止まりになっていた。

近づいてもやはり塀でその家と同じように塀がこちら側を向いていてどこにも入り口も出口もなかった。

仕方がなく、入ることができそうな家の門の前に立ち望遠鏡を覗いた。

2階建ての家で赤い屋根の家だった。

とりあえず、門の周りや道路を調べるが文字はなく、標識も存在していなかった。だが、上の階の窓には人影のような物が見えた。

俺は、誰かがいるのではと家の門を開けた。

庭付きの家には顔のついた実のなる木から小声で何かを話しているのだろうかぶつぶつと音が消えるように聞こえる。

木目のような古びた外観からは何故か視線を感じ、怖くなり俺は家の中に入った。

家はそこまで広くはなく、柱時計の振り子の音が良く聞こえている。


俺は、リビングルームと思われる部屋に入った。

テレビが置いてあり、他にもソファや新聞、ごみの入ったゴミ箱などまるで人が今もいるような感じだった。ソファには座れるようになっていて、リモコンを使いテレビをつけた。


テレビには、犬の格好をした人物と犬の主人がフリスビーで遊ぶ映像と露のついたコーラのCMが流れた。

映像を見た私がリモコンを置くと、リモコンは音を立て床に落ちた。

白く綺麗だった部屋の壁に子供が書いたような幸せそうな家族の絵が現れた。

部屋全体を満たすように父、母、女の子の3人が楽しそうに手をつないでいた。

部屋を後にして、今度はお風呂に向かった。

脱衣所を通り抜け、浴槽を望遠鏡で覗くが文字は見当たらない。

浴槽を出て、脱衣所の鏡を見るとそこには3つ穴のようなものがある何かが鏡に写っていた。見間違いだろうと…他の部屋に移動しようとするが入ってきた扉もお風呂場への扉もまるで壁のように何も音がしなかった。

おそるおそる鏡を見ると今度はその顔が笑顔のように見えた。鏡の洗面台の真正面にゆっくり移動する。

顔のようなそれは動くことなくこちらを見ていた。

すると、その顔は急に消えた。だが、辺りを見渡すと入ってきた逆の場所にある扉にはそれが描かれていた。

まるで、その女の子ような落書きは自分を誘うようにその場所に立っていた。

彼女を無視して再びお風呂場に入ると浴槽の白く濁った水の中に赤い文字で扉を見てっと書いてあった。

どこにも行く場所が無いので彼女の描かれている扉を見る。

望遠鏡で覗けということなのだろうか…。

吸い込まれるように彼女の手の暗闇の部分に視線は向かって行く。

また、暗くなった。


誰かのお墓が見えた。


今度は、メルヘンチックな光景が広がっていた。

角をはやした黄色い顔が描かれたブロックが宙に浮いていて、事故だったのだろうか潰れた車の前に痛そうな顔を浮かべた黄色い顔の書いてあるブロックがあった。

地面にも正方形に区切られたマスの一つ一つに黄色い顔が書いてあった。

彼らの上を歩くと顔の表情が変わり、その場でジャンプすると彼らは両目を閉じた。

ここには、三角形が集まってできた人モドキや目のついたトラばさみが楽しそうに転がっていたり、木と風船が楽しそうにお茶会を楽しんでいた。

奥では、楽器たちが隊列を組みパレードをしているようでその音が聞こえる。

だが、極めつけは大きな棺桶だった。

黒く白い十字の描かれた棺桶が地面に突き刺さっていた。

棺桶に茶色の扉を発見した俺は、扉の中に入った。

扉の中には、少女の人形がたくさん置いてあり、どこか身体の一部の無い操り人形も所々に浮いていて、当たるとその人形も揺れた。

その人形たちの間に赤い色の棺桶があった。

棺桶を開けるとそこには、たくさんの赤ん坊の人形が全てこちらに顔を向けていた。

顔が変に汚れていた。

だが、人が入っていたらちょうど心臓の部分にあたるであろう部分には本があった。

本を取り、開くが白紙のままだった。


本を閉じると、今度は平原だった。

何もない…。

ただ、音がした。

音はどこかから鳴っているのだろう。

何やら黒い物体がこちらに近づいていた。

逃げるが相手の方が速いのか追いつかれ、そして、飲まれた。

また、黒くなった画面が今度は白くなった。

祭壇のような場所に開かれている本があった。

本に近づくと、何か文字のような物が3行書かれた。

そして、また画面が暗くなると今度はタイトル画面まで戻ってきた。

どうやら終わったらしい…。

だが、まだ終わりではないようだった。


はじめから、続きから、オプションの他に本というメニューが追加されていた。


また、あのわけのわからない空間で文字を探さなければならいのだろう…。


冷や汗をかいたのだろうか…。

Tシャツは俺の汗を吸い込んでいた。


相変わらず蝉が鳴いている。

あと、少ししたら日暮も鳴くだろう。

ああ、いい作品が書けそうだと思った。




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奇妙な原稿 葵流星 @AoiRyusei

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