1話 誰そ彼れの少女

序 


 この物語は全てフィクションであり、登場する、人物団体など、全て架空のものです。

 ……まさか。


◇中高生向け雑誌『みかぼし』読者コーナー「実録! わたしの身近であったこわ~い話」より


 これは、わたしが友達のお姉さんから聞いた話です。 


 春休みの暇を持て余したお姉さんと友達のグループは、近所の森に肝試しに行くことになったそうです。

 

 山と繋がった、とても広いその森は、昼間でも陽が差さずうっそうとしていて、近所では自殺の名所として有名なところでした。


 お姉さんと友達グループが、深夜、固まって森を探索していると、奥にある沼の近くで、一人の女性を見かけたそうです。

 

 女性は、ぱっと見普通の恰好をしていたそうですが、よく見てみると何故か全身ずぶ濡れの姿で、友達のうちの誰かが声をかけると、聞いてよ、聞いてよ、とうらめしい声をあげて、お姉さんたちの方へ向かって走ってきたそうです。


 みんなは一目散に走って逃げたそうですが、森を出たところで振り返ると、すぐ後ろを追いかけてきたはずの女性の姿は忽然と消えていて、かわりに水たまりが残っていたそうです。


 後でお姉さんが近所の人に聞いた話によると、森のなかでさまよう女性の話に耳を傾けてしまうと、沼のなかに引きずり込まれてしまうそうです。肝試しにいった人のなかには、実際に失踪した人もいたそうです。

 その森は、いまでもわたしの家の近所にあります。


◇東北学園大学『いざなう女考』文芸部月刊発行冊子『暁』より


(前略)……「いざなう女」は、江戸時代初期から現代に至るまで、日本各地で聞かれる怪談である。

 

 寛文年間の文献によれば、「いざなう女(話によっては、少女であったり老婆であったりする)」は、時折街角や家に現れ、出会った人に恨み言を語ると言われており、語り終えれば忽然と姿を消す。いわゆる典型的な怪談噺の類である。


 一般的には「恨み女」「語り女」などと同一の怪談として分類されることがあるが、この二者との違いは、「いざなう女」が行き遭った人に自身の沙汰を語ったのちに、あの世にさらうという伝承が残されていることにある。


 では、なぜ「いざなう女」の怪談は幅広く日本各地に伝わったのか。なぜ必ず“女”の姿を取っているのか。なぜ“彼女”たちは他者の静聴を求めるのか。


 以下、江戸時代以降の幽霊史の研究者たち、また戦後より日本で急速に発展を遂げた都市伝説の研究者たちの意見を引用し、「いざなう女」について考察したいと思う。[ここで文章は途切れている]


◇二〇××年 ロッジ ある高校生たちの会話


 よぉ、良い夜だな。

 パジャマパーティーって悪くないよな。寝そべりながらお菓子食って炭酸飲んでさ、青春だよな。まぁ、いま着てるのは色気も素っ気もないジャージだけどさ。


 ほら、お前も遠慮せず食えよ。

 今日は泊りがけなんだからさ。こういうのも、悪くないだろ? 


 ……そんな嫌そうな顔すんなって。女子だって二人も参加してるんだぞ? ありがたいだろ?

 ――今の表情は、俺の心のなかだけに収めとく。だから、二人が帰ってくる前に良い笑顔を作れ、今すぐに。


 ……あ、おかえりー。

 いやいや、なんでもないよ。ほら、お二人さんも横になって。今日は酒はないけど無礼講だ! なんちゃってな。


 さーて、電気を消して。眠くなるまで適当にダベろうぜ。

 話題? そうだな……。


 怪談ってのはどう? 高校生の合宿、ホラーはつきものだろ? 『リング』だって冒頭の事件のキッカケは高校生たちのパーティーだしな。あれはみんな死んじゃうんだっけ。ま、いいか。


 じゃあ、まず俺から。


 これは、俺が十歳のころ、実際に体験した話です。

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