殺神者
ヤオヨロズ
第1審
ゼウス神が死んだ。
白のパレットに赤のインクが垂れる。
安らかな顔をしながらも胴体は赤く染まって、ベッドの下には血が滴り落ちている。
「ゼウス様!ゼウス様!どうか御返事を…」
と、側で涙を流しているのはゼウス神の側近であるオーディンである。
「しかもよりによって今日は大結天の日だ。
こうなってしまってはまた次に持ち越すしかあるまい。」
オーディンと同様、ゼウス神の側近であるヴァルキリーは泣きながら震えた声で話す。
「大結天」とは100年に1度、世界の創造主であり、天界の6つの国を治めるそれぞれの神が集う日である。
オーディンはゼウス神の部屋をヴァルキリーに任せ、大結天が開かれる大広間の扉を叩き、開ける。 ギィィと軋むような音が純白で簡素な部屋に鳴り響く。
「皆のもの、どうか慌てずに聞いてほしい。たった今ゼウス様がお亡くなりになられていた。」
震える声を押し殺して冷静に落ち着いて伝える。
「嘘だろぉ!!」
と、声を荒らげるのがエビル家37代目 豊穣の神 エビル=アゾリッヒ
「黙れ!」と、エビルを叱るのがヴァグニ家28代目 力の神 ヴァグニ=アゴラ
「だからお二人とも静かに」
とオーディンが場を治める。
「けっ!これだから脳筋ヴァグニ家は」
エビルはそっぽを向いているが明らかに聞こえるような声で喋る。
「若気の至りもここまでとは」
ヴァグニも応戦する。
それを面白げに聞いているのがジェモ家11代目 知恵の神 ジェモ=ダルク
「皆さん、まずはお話を聞きましょう」
事の全容を知りたいセポーネ家14代目 慈悲の神 セポーネ=アロエは
そして、そして関心なさげにオーディンの方を向く双子の神。
それぞれ、セルガ家初代 生の神 セルガ=ライ
2代目 死の神 セルガ=レイ
「すまなかった、こんな事態だと言うのについ、感情的になってしまって」
ヴァグニは申し訳なさそうな顔をしている。
「じゃあ、俺がペルセポネに伝えてとくよ。久々の特大葬式にしといてって」
レイは好青年のような見た目に沿った口調で事態を飲み込んだように思える。
「しかしぃ、オーディン様の慌てっぷりを見る限りぃゼウス様は殺されたんじゃなかろうかぁ?」
6人の神の中で最も年長者のジェモが言う。
「そ、そうなんです。さらには大結天の会場には各国の当代しか招き入れていませんので…」
「ってことはこの中に犯人がいるという事になりますね…」
「はい…セポーネ様の仰る通りです」
やはり各国の神々は検討はついていたのか特段、焦るものはいなかった。
しかし緊迫してお互いに疑いを持っているのは額をなぞる汗に現れていた。
「お、俺は絶対殺してなんかないからな」
「エビル君、まだ誰も君だと決め付けている訳じゃないじゃろぉ」
「どうせ犯人の目当ては天地創造の指輪だろ。あれさえあればこの世界を創るも壊すもなんでも自由にできる」
「それなんですが、ゼウス様の指には指輪がついたままだったんですよ。その他の現場証拠も今、天裁員たちに調べてもらっているのでじきに犯人も浮かび上がってきますよ」
先程とは打って変わって安堵の表情を滲ませるオーディン。
「1度皆でゼウス様の部屋に入らせてもらうのは可能か?」
「…。でもヴァグニ様のお願いとあれば特別に…」
少し嫌そうな面持ちで承諾する。
「大変感謝する。では向かおう」
緊張を保ちつつ神々は白く長く続く廊下を静かに歩く。
冥府への架け橋を渡っているとも知らずに。
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