貴様、プレミアムガチャからかんたんに出られると思うな!

ちびまるフォイ

救いなんてあると思うから落ち込むんだ

「被告、反省の気持ちはないのか?」


「反省? はは、あるわけないでしょう。

 それにこっちは未成年なんですよ。

 どうあがいたって悪いようにはならない、そうでしょ?」


「……そうか」


裁判長はカンカンと鳴らした。


「被告をプレミアムガチャ禁固刑とする」


「プ、プレミアムガチャ!? そ、それだけはーー!!!」


反対の余地なく俺はプレミアムガチャへと落ちた。

プレミアムとは名ばかりでそこはハズレ者を押し込んだだけのタコ部屋。


人口密度ぎゅうぎゅうのシェアハウス生活なんて誰が望むのか。


「よぉ新人。お前もガチャ落ちしたんだな」


「ほっとけ……。まあお前らみたいな行き遅れとは違って

 俺はさっさとこのプレミアムガチャから脱出してやるさ」


プレミアムガチャには突発的に「神の手」と呼ばれる腕が空から伸びてくる。

そこに掴まれた人間は地獄にたらされた蜘蛛の糸のごとく現実への帰還を果たす。


「みんな最初はそう思っているんだよ。最初はな……」


「はあ?」


ベテランの言葉はしばらくしてからすぐに理解できた。

毎日毎日神の手は誰かをすくい上げてゆく。


でもそれはけして俺ではない。


「ちくしょう! なんで俺じゃないんだよ!! 俺を引けよ!!!

 ピックアップガチャにいたときはもっとたくさん神の手が来ていたのに!!」


「こんな寂れたガチャに手を突っ込む物好きなんていないだろう。

 ここが外でなんて呼ばれているかお前知ってるのか?」


「なんて呼ばれてるんだよ」


「闇鍋だ」


闇鍋にわざわざ箸を突っ込む人も少ないに決まってる。

そもそもの抽選回数が少ないのに宝くじが当たるのを待つことになるなんて。


それでも少しづつ周りの人が神の手ですくい上げられてゆくと、

「次こそ自分」などという淡い期待がよぎりはじめた。


「ちわーーっす。これからよろしくッス」


「お前は?」


「ああ自分、プレミアムガチャ落ちしたっす。よろしくっス」


「また増えたのかよ! せっかく人が減ってきたのに!!」


減った頃にまた人が継ぎ足しされるので、

自分より後に追加された人間が先に神の手で救われることもざら。


何度もハズレ経験をするうちに心はすさみ、

いつしか外へ出られるという期待すらもしなくなってきた。


「期待するだけ落ち込むことになるなら、最初から期待なんて……」


もう自分以外は後に追加された人間だけになった。

俺より前の人間はなんやかんや救われている。


いつまでこの賽の河原に閉じ込められなければならないのか。


「おい聞いたか!?」

「出られるかもしれないな!」

「うぉお! ついにチャンスだ!!」


ある日のこと、プレミアムガチャの中が騒がしかった。


「……いったい、なんの騒ぎだ?」


「あ、長老」


俺のあだ名は長老になっていた。


「実は、なにか特別なことがあったみたいで

 プレミアムガチャが今だけ10連無料になるんですよ」


「……?」


「つまりですね、これまでの倍、いやそれ以上に抽選される回数が増えるってことです!」


「おお……おおおおおお!!!」


諦めかけていた希望の光が差し込んだ。

噂は本当でこれまでとは比べ物にならないほど神の手が差し込まれた、


「みんなーー! 一足先に外へ行ってるぞーー!」

「やった! ついに出られるんだ!」

「っしゃあああ!! 解放されるーー!!」


次々に救い出される人たち。

プレミアムガチャへ幽閉されたはじめの頃のように、

神の手が差し込まれるのをまだかまだかと待ちわびていた。


が、ある日を境にぴたりと止んでしまった。


「おい、神の手はどうしちゃったんだ? 前まではあんなに差し込まれていたのに」


「もう期間が終了したんですよ」


「そんな……!!」


またあぶれてしまった。

最大級のチャンスをもってしても救われることはない。


いったい、ここから救い出されるのはいつになるのか。

変に期待したぶん、また気持ちが沈んでしまう。


「もういい……期待なんてしなければよかった……」


またガチャの隅に背中をつけて落ち込んでいようとしたとき、

連続で神の手がプレミアムガチャへと差し込まれた。


「な、なんだ!? 特別な日は終わったはずでは!?」


次々に救い出される人たち。

伸びてきた神の手はがっしりと俺の体を掴んだ。


「や、やったーーー!!」


ぐいに引っ張られガチャの外へと持ち出される。

どんどん小さく見えてゆく仲間たちに手を振った。


「みんなーー! 待っていればいつか救われるんだ! がんばれよーー!!」


外の光がどんどん広がってゆく。

この先どんな世界が待っているんだろう。


たくさんの訓練で強化してもらえて。

いっぱいの装備や装飾品で着飾ってもらえて。

お気に入り登録されたりして大切にされるかもしれない。


一度は諦めた自分の幸せが待っている。


「外だーー!!」


プレミアムガチャの外へ出ると、

そこは簡素でなにもない部屋がまっていた。



「チッ。ハズレかよ」



俺を救い出した神はそれだけ吐き捨てると、姿が消えた。

瞬間、ガラガラと世界の崩壊がはじまる。



「い、いやだ……いやだーー!」


リセマラという言葉の意味を初めて知ることになった。

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