じゃんけん

バケツ

じゃんけん

「じゃんけんしようぜ」

 今日もクラスで有名なニシダがまた誘ってくる

 その頃はまだ新しいクラスになったばかりだというのに人見知りせずドンドンと友達を増やしていたクラスのお調子者のニシダは何故かクラスメイト全員とじゃんけんをしていた。俺を除いてだが

「そんなに俺とじゃんけんしたいのか?」

「アズマ以外とは全員戦ったんだ。後はお前だけなんだよ~。頼むってじゃんけんしよ?」

「ヤダ」

 俺にまた断られなんでだよ~と嘆いているニシダを放っておき俺はトイレに向かう

 なんでクラスで目立たないような俺とまでじゃんけんをしたがるのか意味が分からない

「なぁ、なんでじゃんけんしたがらないんだよ」

 不意に後ろから話しかけられ尿が止まる

「…はぁ、じゃあ今日放課後に北公園でしよ。今まで断ってた分報酬も持ってこい」

 俺は仕方がなく行くつもりのない約束をする

「マジで? おっしゃ! 絶対な! 俺は一番の宝物持ってくから」

 そこまで喜ぶことかと引くぐらい喜ぶニシダを見てちょっと良心が痛む

 …まぁこれで俺が現れなければ諦めてくれるだろ

 その後、ニシダはいつもみたいにじゃんけんしようと話しかけてくることもなく俺は誰にも話しかけられることなく静かに小学校から帰る

 帰ってからは家でゲームをするのがいつものルーティーンだ。勝っては負けて、相手の対策をしてストーリーを進める。しかし今日はいつものように上手くいかない

 やはりニシダが気になる

 幼稚園の頃にじゃんけんに負けてバカにされたからとちゃんと話せばよかったのかもしれないがそれは小学4年生のアズマにとってとても恥ずかしいトラウマだった

「ちょっと公園に行ってくる」

 そう親に声をかけると俺は北公園に向かった

 陽が傾き始めている今、ニシダがいるとは思えないが確認しない限りは気になって夜も眠れなさそうで仕方がない

 午後5時を知らせるチャイムが地域全体に鳴り響く中、北公園につく

「ホントにいるとはな、ニシダ」

 俺が驚き声をかける

「遅いぞアズマ、そんなに報酬を選べなかったのか?」

 想定外の返事に再度驚かされる

「お前、マジで来ると思ってたの?」

「うん」

 人を疑うってことを知らないのか?コイツ

「まぁいいや早くじゃんけんしよ」

 どこまでもじゃんけんにこだわり俺とじゃんけんしたがるニシダに根負けした俺は諦め

「分かった。俺が用意する報酬は次の給食のフルーツな」

「俺は俺の宝物」

 ニシダの言う宝物とやらに興味はない。さっさとじゃんけんして帰ろう。俺はそう考えながら握り拳を構える

「じゃあこっちの掛け声で始めるぞ」

 ニシダは心底楽しそうに構えている

「最初はグー」

「「じゃんけんポン!!」」

 俺は力を込めて握り拳を出す

 ニシダは掌を見せている

「よっしゃ!!」

 ニシダは勝利の雄たけびを上げる

「じゃあ」

 おれはさっさと帰ろうとするがニシダに腕を掴まれる

「なんだよ」

 俺が嫌そうに聞く

「またやろうぜ、アズマ」

 ニシダの嬉しそうな笑顔に一気に毒が抜けた

「分かった、良いよ」



「報酬は果汁100%のリンゴジュース二本」

「いいぜ」

 今日はニシダが報酬を準備した

「今日は俺の掛け声な。最初はグー」

 俺の気合の入った掛け声とともにお互いに腰のあたりまで下げた握り拳を固く握り構える

「そういえば今日で3か月になるぜ。こうやって定期的にじゃんけんし始めて」

「そうだな、そんなになるか。でも、そんなこと聞いて集中力切らそうったってそうはいかないよニシダ」

 今日もお互いやる気に満ちている

「もう一度掛け声からやるか」

 俺はニシダに笑いながら言う

「最初はグー」

 見るとニシダも笑っているが目は真剣そのものだ

「「じゃんけんポン!!」」

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じゃんけん バケツ @ein_eimer

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