短編38話  数あるうちらのお店やもんっ

帝王Tsuyamasama

短編38話  数あるうちらのお店やもんっ

 たしか次は理科の時間だったな。しかも移動教室だ。教室出るときストーブ切るから帰ってきたときさみーんだよなー。

 うちの学校は学校指定のセーターやベストを着てもいいが、まぁ今は二月なので男子全員学ラン&女子全員セーラーである。中に着込んでるやつもいる。俺は中に着るんじゃなくてウィンドブレーカー羽織る派だけどな。これも学校指定のやつ。

畑斧はたおののチョコとか斧で割ってんじゃねぇ!?」

 先週、次は実験するぞって先生言ってたな。小学生のときガラスのでかい注射器みたいなやつ壊して怒られたなー。

「フン! 割るんじゃなくて裂いてやろうか? その四寺しでらの減らず口を!」

 理科の教科書おっけーっと。ノートもおっけー。教科ごとにノートの色分けてるからすぐわかるぜ。ちなみに理科は黄緑にした。

「おーこわ! 黙ってりゃ美人なのに、かぁ~もったいないもったいない!」

 筆箱もだいじょぶっと。なんで箱じゃない布的なへにょへにょ筆箱も筆箱っつーんだろうな。俺のは銀色のカンカンの箱だから筆箱で間違いないだろうけど。

「あらそんなに美人かしらぁ? じゃあもっと笑顔にさせてくれるかしら? 四寺の泣き顔を見ながらね!」

 お、かさがこっち振り向いたから目が合ってしまった。

「うひぃーーー!! こんなおっかねぇやつのチョコレートとか爆薬でも仕込まれてんじゃね!?」

 今教室で前の席にいるのはかさ 十々子ととこだ。

 髪は肩にぎりぎり掛からないくらい。ちょっとふわっとした髪型。ちょいおとなしめだが表情とかは明るい。身長は女子の中でも少し低めかな。

 なぜか小学校のときからクラス委員のポジションによくなってしまっている。本人はもう慣れたと言っているが、そんなことでいいのだろうか?

「それはいいアイデアだねぇ……どれ、ちょっとその口貸してみ? なぁにちょっと爆発するだけさ。すぐ終わるよ。痛みがね……」

 笠が教科書やノートや筆箱を持って立ち上がり、俺の右隣に来た。再び目線を合わせてきたので、俺もその流れで同じく教科書ノート筆箱持って立ち上がる。

「ぉおおぉい目が本気マジじゃねぇかこいつやべぇぞ逃げろぉぉぉ!!」

 なんか四寺しでら 巻矢まきやらしき人物が風を巻き起こしながら教室から飛び出していったような気がするが、まぁ気のせいってことにしておこう。

「フン。おととい来やがれ!」

 ……畑斧はたおの 鮎菓あゆかのセリフが響いてきたような気がするが、それも気のせいってことにしておこう。

 この俺、雪之井ゆきのい 召太しょうたと笠は一緒に教室を出ることにした。もう一人後ろからついてきたような気がするが気のせい気のせい。


「ったくあいつ年々口悪くなってない!?」

 廊下を歩く。窓の外をちらっと見る。今日もいい天気だな。

「あ、鮎菓ちゃんも、結構きついような……?」

「あれはあいつが悪いのよ! あいつみたいなふざけたやつは言いくるめてなんぼよ!」

 今日も学生たちがこの中学校で授業を受けたり給食食べたり部活をやったり。ああ今日も平和な一日だな。

「もうちょっとのんびりしてもいいようなー……?」

「いーや。ああいうやつは下手したてに出ればつけあがる一方よ! 弱味を見せちゃだめ! 常にあいつの上に立って徹底的に優位を保つのよ!」

「そういうものなのかなぁ……? 雪之井くんはどう思う?」

「今日もいい天気だな」

 俺の左隣で一緒に歩いている笠が聞いてきた。とりあえず答えておいた。

「ゆ、雪之井くん?」

「てか召太ぁ!!」

 キィーン。いや俺一人がキーンする分には別に慣れてるからいいが、学校の廊下でその爆音は注目されて当然だ。前を歩いている他の学生たちがこっちに振り向いたってことは、後方からも同じくらい視線弾幕飛来中だろう。

「か弱い女子があほんだら男子からいじめられてんだよ!? ちょっとは助けなさいよ!」

「優勢な状況で援軍要請とかどんだけ四寺家を滅亡させたいんだよ」

「なにぃ? 召太、まさかあんた、私を裏切ろうってんじゃないだろうねぇ……?」

 俺はここでひとつため息。右手に持ってた荷物は左手に持ち替えて、空いた右手を鮎菓の頭にぽんっ。

「今日木曜だろ、ハヤシ持ってくわ。五時半な」

「わんっ!」

 きっと鮎菓のおめめはきらきらしてるんだろうけど、そんなのこれまでにたくさん見たから今はとにかく理科室へ向かうこととしよう。

 鮎菓は女子の中ではなかなか身長が高く、俺とほぼ同じ身長だ。昔は鮎菓の方が高かったな。髪の長さ自体は肩を少し越すくらいなのは昔から同じ設定だが、だいたい右か左か後ろかにくくられてることが多い。くくる位置が定まっていないことについて本人は『気分!』と語っている。

 元気というか爆発してるというか。俺と仲いい女子の中で最も男勝ゲフゴホ男子と勇敢に戦っている女子様だろう。

 俺、鮎菓、笠、四寺の四人は、まぁ幼なじみってやつなんだろうな。

 俺と鮎菓が幼稚園を出て、笠と四寺は保育園を出ている。この地域には幼稚園派と保育園派に分かれるんだが、小学校は一緒になる。その小学校入学のときから俺たちは今の中学二年生になるまで遊んできた。

 それ以外にも大きな共通点があって、この四人の家は四軒すべて飲食店である。俺んとこが洋食屋、鮎菓んとこがスイーツ、笠は和食屋で四寺は中華。そしてそれらはすべて同じ商店街の中にある。

 親同士も仲良しなため、学校以外の場所でも俺たちは一緒にいることが結構ある。

 中学生になると笠は茶道部、四寺はバレーボール部に入ったため小学生のときに比べれば休みの日に一緒にいる率は少し減ったものの、それでも他の友達に比べればまだまだ一緒にいる率が高い方だろう。

 ……てかなによりこの鮎菓だ。まさかまさかの俺と同じ吹奏楽部を選んできやがった。鮎菓とはむしろ一緒にいる時間が超増えてしまった形だ。

 二年生は久々に四人一緒のクラスになったんだが、今は二月、もうこのクラスも終わり三年生でまたクラス替えだ。

 来年も教室内はうるさいのかどうなのか。

 俺は鮎菓頭ぽんぽんを鮎菓頭わしゃわしゃに変更した。残念ながらしっぽの存在は確認できなかった。



 午前の授業を乗り越え、給食と掃除を終え、午後の授業も乗り越え、部活も難なくクリアできた俺たち。

 他の部員たちがのんびり片付け作業ってる中俺はぱぱっと片付け終わり、最後に準備室の扉から顧問の先生にさいならして本日の学校終了。

「さあ帰ろう召太クン!」

「顔崩れてるぞ」

「だって召太んとこのハヤシライス大っ好きだもーん」

 あの速さで片付けたこの俺様のスピードについてくるとはさすがは鮎菓である。

 そんな鮎菓はるんるんで歩き、いやスキップしだした。まだ廊下なのに。

 毎週木曜日は洋食屋のうちが日替わりランチにハヤシライスを選べる日なんだが、鮎菓は物心ついたときからうちのハヤシライスが大好物になってしまっているらしい。

 もちろんうちをほめてくれること自体に悪い気はしないんだが、『好きな食べ物はなんですか?』の質問で事あるごとに俺ん家のハヤシライスを挙げる+そのおいしさを熱弁するもんだから、『そんなにうまいハヤシライス出してんのか!?』と学校中の学生から聞かれることも多々あるという。俺よりよっぽど広告塔だぞこいつ。

「もう何年食べてんだよ。飽きねぇのか?」

「飽きない! もっと食べたい! ずっと食べたい! 未来永劫みらいえいごう大好き!!」

 ちなみにこれただあげるだけじゃなく交換っていう形だ。親視点的にはやはり他のプロフェッショナルな料理人が作った料理はとても勉強になるそうだ。

 俺が知ってるだけでも幼稚園のときからすでに交換はされていたのだが、そんなに長い間交換していてまだ新しい発見があるものなのだろうか。

「そっちは今日何くれるんだ?」

「ゆずフロマージュといちごチョコドーナツ用意したって言ってたよー」

「母さん好きなやつだな」

 鮎菓がいなかったらふろまあじゅってなんのこっちゃってなってただろうな。

 さらにこの交換っていうのはただ交換するわけでもなく、俺がハヤシ持って鮎菓ん家に行って、鮎菓と鮎菓の母さんとの三人で一緒に晩ごはんを食べる流れなのだ。

 俺も鮎菓も一人っ子。特にうちの父さん母さんは晩ごはんの時間は忙しいので、じゃあ一緒に済ましちゃえみたいな流れでこうなってしまった。小学校から毎週木曜ずっと続いてる恒例行事なんだよなぁ。うちの店が年末年始とかで休みの日でもない限りな。

 たまに他の日にも一緒に晩ごはん食べることもあるけど。中学二年になってもこれってことは三年もこのままだろうな。

「召太はハヤシライス飽きた?」

 ちょこっと前を歩いていた鮎菓がこっちに振り向きながら聞いてきた。

「いや……飽きてないかな」

「だよねぇ! だってあんなにおいしぃもーん!」

 なんかくるくる回りながら歩いてるぞこの人。スカートふわふわしてる。バレー部はあってもバレエ部はさすがになかっただろう。

「来週もよろしくぅ!」

「まだ今週分も届けてねぇよ」

 俺が飽きてないのは、鮎菓がにっこにこしながらハヤシライス食べてるところを眺めることなんだがな。

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