クマさんと、アレの事
……えっと
こ、これってあれですか……2人で同じ部屋に泊まって、同じベッドで寝る、って事なんでしょうか……
部屋の中を見つめながら、顔が真っ赤になっている僕。
それはシャルロッタも同じでした。
部屋の入り口で固まっている僕達に、宿の店主はニコニコ微笑み続けています。
「ジェナ様から、夫婦用の部屋を用意しておくようにと仰せつかっておりましたので、とっておきのお部屋を準備させて頂きましたよ」
そんな店主に、僕とシャルロッタは、
「「別々の部屋でお願いします」」
と、同時に告げていきました。
* * *
店主や、気をつかってくれたジェナさんには申し訳ないと思ったのですが……さ、さすがに、いきなり相部屋というのはさすがに色々と問題があるといいますか……
すったもんだの挙げ句、どうにか別々の個室に変更してもらえた僕達は、それぞれの部屋へ入っていきました。
この宿なのですが、思いのほか快適でした。
部屋が広くて清潔なのももちろんなのですが、一番ありがたかったのはお風呂の存在でした。
シャルロッタの村では、毎晩寝る前に絞ったタオルで体を拭くのが一般的でして、湯船につかることが出来るのは週に1,2回だったのですが、この宿では毎晩お風呂に入ることが出来るそうなんです。
共同風呂とはいえ、生前お風呂が大好きだった僕にとっては最高の環境といえました。
まぁ、だらだらお風呂に入りつつ小説を読んだりスマホをしたりするのが好きだっただけなんですけどね。
ただ、シャルロッタの村で毎日お風呂に入れないのには理由があって、十分な水源がないらしいんです。
シャルロッタの村の近くには川がなくて、地下水をくみ上げて飲料水を確保しているそうなんですけど、村人全員が毎日お風呂を使用してしまうとあっという間に水不足になってしまうもんですから、村の中を5ブロックに区分けし、順番にお風呂を使用するようにしているそうなんです。
村長のシャルロッタもこの仕組みに当然参加しているわけでして、そんなシャルロッタの邸宅に居候させてもらっている僕も同様なわけです。
「はぁ、極楽極楽……」
時間が早かったのもあって、宿の風呂には僕しかいませんでした。
大きなお風呂を貸切しているみたいで、なんだか気持ちいいですね。
足を伸ばせるのもすごく嬉しいです。
僕が元いた世界の、マンションのフロは風呂桶が小さすぎていつも体育座りの要領で入っていましたから……
お風呂を済ませた僕は、同じくお風呂を済ませたシャルロッタと合流して、宿の食堂で少し早めの夕飯をすませた。
確かに美味しかったんだけど……味に関しては正直なところ、ピリに軍配があがります。
身内びいきを抜きにしても、ピリの料理の方が美味しと僕は思いました。
これは、宿の料理がまずいと言うわけではなくて、それほどピリの料理が美味しいのが一番の理由といえます。
これには食材の差も影響しているかもしれません。
最近のピリの料理には流血狼のお肉が使用されています。
流血狼って、凶暴かつ凶悪なもんですからなかなか捕縛されないため、当然そのお肉は滅多に出回らないわけですが……そのお肉の味は僕の世界で例えるなら、A5ランクのお肉に相当するほど美味しいお肉なんです。
そんなお肉を、料理上手のピリが調理しているわけです。
美味しくないわけがないじゃないですか。
……しかし
僕と向かいあって食事を食べているシャルロッタなのですが……
お風呂上がりのため、髪の毛をアップしているシャルロッタ。
いつも髪の毛で隠れているうなじが露わになっているものですから、その破壊力たるや……もう、すごいです、はい。
視線が強制的に釘付けになってしまうといいますか……
……そういえば、姫騎士物語でもこんなイベントがあったなぁ
ゲームの中では、姫騎士達を管理サポートするマスターという立場の僕が、千里眼スキルを使用して入浴中のシャルロッタの様子をこっそりのぞき見したり、他の姫騎士と会話している内容を神の耳スキルで盗み聞きしたり……愛情ポイントを常に最高数値にしてあったゲームの中のシャルロッタは、いつもは見せない乙女の表情で……
「……あ、あれ?」
この時、僕はハッとなりました。
……千里眼スキル
……神の目スキル
「……って、これって、今、僕がこの世界で使用出来ている魔法のことじゃないか!?」
思わず声を出してしまった僕。
そんな僕の様子を、向かいに座っているシャルロッタが怪訝そうな表情で見つめています。
「どうしたのじゃクマ殿? 何かあったのかの?」
「あ、い、いえ……なんでもないんです、はい」
笑顔でごまかしながら、食べ物を口に放り込んでいった僕なのですが……
間違いありません。
僕がこの世界で使用出来ている不思議な力って、姫騎士物語のマスターが使用可能なスキルに間違いありません。
姫騎士のフォローを出来るように、マスターの身体能力は常に強化されている設定でしたし……これで、僕の異常な身体能力の説明がつきます。
そして、千里眼スキルと神の耳スキルなのですが……これって、スキルを使用するのにスキルポイントが必要だったんです。
そのスキルポイントは、イベントをクリアしたり、時間経過で溜まっていく仕様だったのですが……これで、僕がこのスキルを時々使用出来なくなる理由もわかったような気がしました。
……姫騎士物語のマスターの能力を持って、この世界に転生してきたってことなのかな……
とはいえ……千里眼スキルと神の目スキルって、姫騎士のご褒美ボイスとご褒美ムービーをゲットするためのご褒美スキルだったのですが、まさかこんなに重宝することになるなんて……
* * *
宿の一階で食事を終えた僕とシャルロッタは、この日は早めにそれぞれの部屋へ戻っていきました。
前日、夜通し荷馬車を飛ばしたもんですから2人とも疲労困憊だったんです。
「ではクマ殿、お休みなのじゃ」
「うん、シャルロッタ。お休みなさい」
廊下で挨拶を交わした僕とシャルロッタ。
シャルロッタが部屋に入ったのを確認してから、僕も自分の部屋へと戻っていきました。
そのまま寝てしまいたかったのですが……その前に僕は神の耳魔法を使用していきました。
まずチェックしたのは山賊のラビランス。
ドラコのどっかん魔法からどうにか逃げのびていたラビランスは、
「あの声の男め……覚えてなさい。いつか絶対に仕返ししてやるんだからね」
なんかそんな事を呟きながらどこかに潜伏している様子でした。
とりあえず、動きだす気配はないみたいだし、しばらくの間はこうして定期的に動向をチェックしておけばいいでしょう。
あまり長時間魔法を使用していると、また魔力切れを起こしてしまいますからね。
本格的にこの魔法を使用してラビランス達を追い込むのは、王都からの援軍が到着してからってことでいいんじゃないかな。
次に僕は、ミリュウへ呼びかけました。
『ダーリン!待ってたの!』
僕が語りかけると同時に、ミリュウは嬉しそうな声をあげました。
なんのかんの言っても、僕のことをすごく慕ってくれているというか……むしろ恋愛感情の相手とみてくれているっぽいミリュウ。
その好意がすごく嬉しいというか……彼女いない歴=年齢の僕にとっては、ドギマギしてしまうことこの上ないシチュエーションなわけです。
そんな事を意識してしまった僕は、時折声が裏返ってしまったり、思わず噛んだりしてしまっていたのですが、そんな僕にミリュウは
『ダーリン、そんなに慌てなくても大丈夫なの』
『あはは、ダーリン可愛いの』
そんな優しい声を返してくれます。
これが、僕が生前勤務していた会社だと……
「は? 先輩うざいんですけど?」
「話しかけないでくれます? 脂肪がうつると困るんで」
同僚であるはずの女性社員達……当然みんな僕よりも10才以上年下だったのですが……そんな彼女達に辛辣な言葉を浴びせかけられ続けていたわけでして……
そんな僕に、こんな天使が舞い降りて来た……あ、いや、ラミアなんですけどね?
そんな彼女との会話はホントに楽しかったんです。
次に僕はピリへ呼びかけた。
ただ、残念ながらピリはもう就寝しているようでした。
そういえば、ピリが経営している食堂って毎日夜明け前に準備を始めているって言っていました。
そのため、日頃から早めに就寝しているんでしょう。
「ピリ、お休み」
そんな彼女に、そう言葉をかけて魔法を終了しようとしたのですが、
『う~ん……クマ様……愛してる……』
ピリが寝言でそんな事を口にしたもんですから、僕は自分の顔が真っ赤になるのを感じていました。
ミリュウといい、ピリといい……こんな僕のことをこんなに思ってくれて……ホントに僕ってば、果報者です。
なんて事を思った僕だったんだけど、ここで顔を左右にはげしく振っていった。
「いかんいかん……ぼ、僕はシャルロッタのために頑張るって決めたんじゃないか」
そう呟きながら、頬をバンバンと叩いていく僕。
そのまま寝てしまおうと、ベッドに入っていったんだけど……
「あ、そうだ……」
最後に、ドラコに神の耳魔法をつなげていった。
すると
『うわぁ! クマ様、私ともお話してくださるのですかぁ』
ドラコは、嬉しさを抑えきれないといった感じの声を上げました。
その言葉から察するに、ドラコは僕が神の耳魔法を使用していることは察していたようです。
それもそうか……ずっとひとりぼっちで、森の奥で寂しくすごしていたドラゴンのドラコ。
今も、誰かに姿をみられないように森の奥で一人寂しくすごしているはずですし、その寂しさを紛らわすために、神の耳魔法を使って僕の様子を確認していたのでしょう。
基本、どちらかがその相手に向かって話しかけない限り、神の耳魔法が自分に対して使われているかどうかわからないんですよね。
そういえば、姫騎士物語では、うっかり声を漏らしてしまって覗いているのが姫騎士にバレてしまうっていうイベントが多かったなぁ……
「気軽に話しかけてくれてよかったのに」
僕がそう言うと、ドラコは、
『いえいえ~、私なんて何にも楽しい話も出来ない、内気でシャイな女の子ですし……それにクマ様の貴重な時間を私なんかのために使って頂くのも申し訳ないといいますか~……』
思いっきり謙遜した様子でそう言った。
「僕だってそんなもんだよ。お、女の子とそんなに話をしたこともないし、面白いことだって言えないし……」
『うふふ~、クマ様ってばお優しいのですね~、私なんかに気を遣ってくださって恐縮です~……でもでも、ホントにそうだとすると、私達って似た者同士ってことになっちゃいますね~』
嬉しそうにそういうドラコ。
どうも僕達は似たところが多いみたいで、大した話はしていないのに、話が妙に弾んでいった。
妙に盛り上がったもんだから、僕とドラコは結構長めにお話した。
ドラゴンなドラコだけど、心は乙女といいますか、すごく純朴で内気で可愛い女の子なんです。
ドラゴンじゃなかったら、きっとモテモテだったろうに……いや、雄のドラゴンにもモテモテなんじゃないか?
……なんかそう考えると、少しもやっとしてしまう僕。
別に、ドラコと付き合っているわけでもないのに……なんでだろう、仲良くなった女の子が他の男の子と仲良くしている姿を想像するだけで、なんかもやっとしてしまうというか……僕なんかがそんな感情を持つなんてなんておこがましいだろう?、と、自分で自分に突っ込みを入れてしまったものの、そう思っている自分がいるのもまた事実なわけで……
なんかこの夜は、いろんな感情が僕の頭の中を渦巻いてしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます