十草物語

リンダ3月

表紙をめくれば



 赤き月 仰ぎ見ゆれば

 白がねのみねいただき 鈴のこえ

 あづさ弓射てば 月の落ちけむや

 菜はたおりて 紅葉きぬ

 盃うくは 菊と月

 うるはしき君 などか此処にあらざらむ



 

 赤い満月を 仰ぎ見ると

 白雪冠する山頂をも越える(苦しい)心地であるのに、

 鈴の鳴るような(どこか懐かしい)声が聞こえてくる

 この弓を引けば あの月は沈んだだろうか

(そうこう考えているうちに)

 菜の花を手折たおった春は過ぎ 紅葉が燃える秋が来てしまった

 盃には菊と月が浮かんでいる

(共に酌み交わしたい)親しきあなたはもういないなどと、

 どうしていえるだろうか

 いいや、ずっとそばに(あなたはいる)


元乃芳もとのよし大神おおかみ神社所蔵版十草とぐさ物語ものがたり写本冒頭部より

※下段著者私訳

 

――――――――――

八戸はちのへ 幹匡みきまさ(20XX)『〈十草とぐさ物語ものがたり〉を紐解く―月落つきゃらくむらの伝承と山神信仰』p.16, 京古けいこ弥田やた出版社


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