自分が霞きってしまう前に。
銀次
第1話 出会い。
「君は何もできないわけじゃないよ。」あの時、誰かに言われた。今も、その声が聞こえることがある。誰の声か、未だにわからないけど。
僕は私立中学に通う3年生だ。学校は男子校で、共学の方が良かったんじゃないかと、中2の冬から思っている。今は電車の中だが、電車の中でイチャイチャしているカップルはそんな自分をからかっているように思えた。だから、それから目線を逸らすと、どこかで見たことがある女の子を見かけた。正直可愛いなあと思った。そう思ったからだろうか。その日からその女の子のことが頭から離れなくなった。なんていう名前かも覚えていないから相手は自分の顔すら覚えてないだろう。でも、このまま話しかけないまま四六時中その女の子のことを考えている自分が、なんとなく嫌だった。一生後悔する気がした。
だからある日、勇気を振り絞って話しかけてみることにした。全く面識無かったらどうしようなんて思いながら話しかけた。
「あ、あの、ぼ、僕のこと、み、見たことありませんか?」人生でこんなにどもったのは初めてだ。
彼女は、
「うーん。名前は?」顔を見つめながらそう言ってきた。胸をえぐられたような感じがした。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
「は、原田健太です。」
「あー。なんか聞いたことあるかな。よろしく。」
僕はほっとしながら。
「あなたの名前は?」
「私は米田美香。」
「美香さん。良かった!どこかで見たことがある気がして。」
「なるほどー。新手のナンパかー。」美香さんは笑ってからかってきた。僕はきっぱりと否定できなかった。困っている僕を見て美香さんは笑っていた。その日から僕は彼女の笑顔を見に毎日会いに行くようになった。僕は質問ばっかりしていた。好きな料理、趣味、そんなベタな話だけど楽しかった。
美香さんは僕が電車を降りる時、笑って手を振ってくれる。少し照れながら、僕は手を振り返す。その瞬間、心が橙色に染まった。そんな感覚が僕は好きだ。彼女に会って、灰色だった朝が青色になった気がした。
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