18.体育倉庫にて
自室、俺はベッドの上に寝転びながら携帯で文字を打ち込んでいた。相手は月城先輩である。
『……それで私にも一応聞いたということね。私って頼られてるわね』
『先輩ですから頼ってみようかと。それとこっちだとなんだか先輩まともに見えます』
『それは普段の私はまともに見えないということかしら?』
『それは、そうですね』
『正直ね、まぁいいわ。本題に戻るけど祝さんについての相談よね? 彼女がどうかしたって言うのはどういうことなのかしら?』
この様子だと月城先輩は今日の四葉を見ていないのだろう。
『言葉通りの意味です。先週とはまるで別人というか人が変わったみたいで。実は双子で今日は四葉じゃない方が登校してたとか言われる方がまだ納得です』
『なるほどね、一先ず明日そこらへんをさりげなく彼女に聞いてみるわ』
『流石先輩頼りになります』
『私に任せなさい。これくらいお安いご用よ』
四葉のことなら同姓である先輩にも一応相談した方がいいと思い話してみたが、この選択はどうやら正しかったようだ。明日中には四葉の態度がどういう意味なのかがはっきりするだろう。
しかし翌日の昼休み、俺の期待していた返事は来なかった。実際には月城先輩から返事は来たのだが内容はたった一言、『昨日のことだけどやっぱりあなたが悪いわね』というよく分からない返事がきているだけだった。
これはあれか? 四葉の態度の変化は俺が悪いということなのだろうか?
詳しく聞くため先輩に『どういうことですか?』とメッセージを送るが、向こうからの反応は一切ない。既読マークがついているので見ているはずなのだが。
そんなことを思っていると突然俺の携帯は振動し月城先輩ではない誰かのメッセージを受けとる。携帯の通知タブを見るとそこには『凛君は気になりますか?』という四葉からのメッセージが表示されていた。
これってもしかして、いやもしかしなくても月城先輩に相談したことだよな。
何故彼女にバレたのかはともかく、これは良い機会だ。彼女に対して逆にどういうつもりなのか聞くため俺はそれから『気になる。これから時間あるか? 少し話がしたい』と携帯に打ち込む。そして数秒後、向こうからも『分かりました』という返事が返ってきた。というかその返事が来たときには……。
「どこで話しましょうか、凛君」
四葉は俺の席の目の前にいた。彼女が今浮かべている笑みは傍から見ればとても魅力的に映っていただろう。しかし今の俺には感情が読めない彼女が怖く見えた。
「ああ、それで話す場所だがいつもの……」
「その事なんですが私に任せて下さい。昼休みには誰もいないとっておきの場所があるんです」
そうして連れていかれたのが、体育館から少し離れた位置にある倉庫。彼女はその体育倉庫の目の前で立ち止まりこちらを振り返る。
「ここです」
「確かに授業じゃないと中々来る場所ではないけども別にいつもの場所で良かったんじゃ……」
「たまには気分を変えてですよ。それに外だと少し恥ずかしいですし……さぁ鍵は開けたので入って下さい」
「鍵を開けたってわざわざ鍵を借りたのか?」
「いえ、委員会でいつもこの体育倉庫を使ってるので鍵は元々私が持ってます。そんなことよりも早く中に入って下さい」
「あ、ああ」
昼休みにこの倉庫の近くに誰もいないんだったら別に体育倉庫の外でも良いのではないかと思ったが、なんとなく今の四葉には口出しすることが出来なかった。
こうして彼女に言われるがまま体育倉庫の中に足を踏み入れた俺だがそこは薄暗い場所だった。
「なぁやっぱりここは暗いから外で話さないか?」
暗い倉庫の中を見てしまえば外で話したいと思うのは当然、しかし彼女はなんでもないように扉を閉めながら言う。
「そうですか? このくらい暗い方がいいと思いますけど」
そして彼女はそのまま扉を締め切り、最後にサッカーボールが入っているボールかごを扉の前に持ってくる。
なんでそんな邪魔になるようなところにと思ったのも一瞬、彼女はそれから満足そうに一言だけ呟いた。
「これで誰も来られませんね」
「誰も来られない?」
「はい、来られませんね」
ニッコリと笑う四葉は一歩ずつ俺の方へと迫ってくる。
これはもしかしなくてもピンチなのでは……。
そう思ったところで既に遅かった。四葉に肩をポンと押され、背後にあったマットに倒れ込む。それと同時に彼女に馬乗りになられた。
「凛君も気になるんですよね?」
そう言いながら四葉はブレザーを脱ぎ、ブラウスのボタンに手をかける。これはまずい、反射的に俺の脳は危険信号を発していた。
「な、なに言ってるんだ? 四葉。悪ふざけが過ぎるんじゃないか」
宥めようと四葉に語りかけるも『ふざけてなんてないですよ』と真面目に返されるだけ。その間にも一つ一つブラウスのボタンは外されていく。
「それとも凛君は今更嫌だって言うんですか?」
そこから体を少し移動させた四葉に窓から差し込んだ僅かばかりの光が当たる。そこで見えた彼女は蕩けた表情をしていた。
「凛君、いい加減諦めてください」
「ちょっと待ってくれ、流石にそれはおかしいだろ」
「何がおかしいんですか? どこもおかしいことなんてないです」
完全に出来上がっている四葉に俺は言葉で抵抗する以外為す術がなかった。四葉にされるがまま、俺は制服のボタンを彼女に外されていく。
「今からでも遅くないから、考え直さないか?」
「考え直す? そもそも考える必要なんてないですよ」
そうしてついに俺の制服のボタンは全て外れ、俺は制服の下に着ていた薄着が四葉の目に触れる。同時に彼女のブラウスのボタンも全て外れ、白い下着とまるで陶器のように白い肌が俺の目に入った。
「では始めます」
こうなれば本当におしまい。もうどうにでもなれと俺は思い切り目を閉じる。感じるのは四葉の胸の感触と彼女の肌の温もり、そして聞こえるのは彼女のまるで猫のような気の抜けた声だった。
「凛君の膝の上に座ったときからずっと気になってはいましたが凛君の体温は高いですよね。ぬくいです」
四葉の安心しきった猫のような声に恐る恐る目を開けると彼女は俺に張り付いていた。そう、まるでコアラのように。
「あの四葉さん?」
「はい、何ですか?」
「今更ですけど四葉さんの気になるというのはどういう意味で……」
「もちろん凛君の体温の高さに決まっています。まさか凛君自身も気になっていたとは。でも私の体と比べてみて分かりましたよね。凛君の体温は相当高いです。やっぱり体温を測るのは直接肌同士に限りますね」
そう言って再び張り付く四葉に俺は思った。もしかしたらこの子、俺が今まで気づいていなかっただけで相当な変人なのかもしれないと。
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