四十二話『機械兵科の闇』

 

 そう彼等はそんな依頼を最後に押し付けて行った。

 それが『例の件』だ。


 ……もっとも、私はその詳細すら知らないが。

 帝国に侵入出来たのは彼等のお陰だ。手伝っておくことにしよう。


 だから今は機械兵科に向かっている所だ。

 ───何やら喚く、リアルを連れて。


「え、ちょちょちょちょっとシール?!」


 その声には動揺の色が滲み出ている。

 多少裏返った様な声でそう言う彼女に、私は淡々と応えた。


「……何でしょうか」

「『何でしょうか』じゃ無いわよ!どこに行くつもり?!」

「機械兵科ですよ?さっき言いましたよね?耳ついてます?」

「……付いてるわよっ!!───と言うか、そこ行ってどうするつもり!?」


 そこら辺で焦りの気持ちが散ったのか、リアルは落ち着いてそう言った。

 いやまぁ、未だ少し……この状況に困惑している様ですが。


「別に。差し迫ったモノは有りませんが、視察をしたいので」

「視察───ああ。シールはこう言うの興味無いと思ってたわ」


 ……何やらもう呼び捨てにされている様ですが。

 まぁ『シール』は偽名なので無視しておく事にしましょう。


「逆に私どんな科に行くと思ってたんですか」

「軍事科と工業科よ。その戦闘力なら尚更でしょ?」

「……女性の強さはあまりひけらかすものでは無いかと」

「逆に強過ぎたら英雄よ?……あ、因みに私は軍事科と機械兵科掛け持ちしてるわ。

 軍事科の説明聞きたかったりする?」


 目を輝かせて聞いてくるリアル。

 私の事を、既に友達とでも思っているのでしょうか。


 距離感がバグってますね。

 ……利用出来るなら、それはそれで有難いですか。


「……いえ、全く。私は機械兵科の説明を聞きたいのですが」

「……分かったわ。でも」


 断ってそう言うと、リアルは顔をしかめた。

 上っ面で了承したは良いけれど、少し躊躇いを覚えているらしい。


 何故か。

 その理由は、すぐに明らかになった。


「──────親から勧められ、入ったは良いけれど、あまり行ってないのよね」

「何故ですか?」

「そりゃ異常過ぎるのよ、あそこに居る人達」

「異常……?」


 リアルの表情は固く、重苦しい。

 怪談を語る様に、その声は小さかった。


「一年前は良かったのよ。

 天才だ何だと騒がれてる人間が二人も入ったからね。

 その時には、私も毎日通ってたんだけど……。

 ある日突然、崩れ去ったのよ。───ユリスの所為でね」


 彼女は冷静に語りを勧めつつも、何かを恨む様な目付きを何処かに飛ばしていた。

 そこに踏み込んでは不味い。


 そう悟った私は口を噤み、黙って彼女の言葉を聞き届ける事にした。


「機械兵科は文字通り、機械兵オートマタを作成・研究する科。

 それがどうして、あそこまで落ちぶれちゃったんだろうか……」


 リアルは最後に深い溜息を吐くと、喋りを止めた。


「色々と闇が深い科なのですね」

「ええ。あそこが一番、帝国らしく、残酷な科よ。だからシール。

 止めはしないけど、もし加入するとしたら……相応に考えた方がいいわ」

「分かってます」


 ……だが、しかし。

 私はそのユリスとやらと会わねばならない。


 それが『貸し』を返す為の条件だから。

 だから私は、リアルに機械兵科の門戸の前へと案内してもらう。


「……私も付いて行くけど───気構えといてね」


 そんな忠告が聞こえようとも。

 面白そうなので。


「ええ。理解してますよ」


 ドアノブに手を掛け。

 捻る。


 ───そして私は、その奥の光景を目にするのだった。

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