第四十話『連行』

 入学初日にして大波乱。

 その次の朝に、私は鏡に向かって項垂れていた。


「寮制なのは有り難いとして……はぁ」

「どうかしましたかぁー?」


 一人が使う分にしてはかなり大きいサイズの個人部屋。

 ただ一人洗面台で溜息を吐いていると、レネがやって来た。


「流石にここまで高待遇だとは思いませんよ」

「まぁ良いじゃないですか。これくらいの部屋、王子様なら慣れてるでしょ?」

「確かにそうですが……どこか警戒してしまうんですよね」


 一面ガラス張りの部屋。

 ここに居ると狙撃されそうで、怖いんですよ。


「これくらい普通ですって。さぁ遅刻しちゃいますよ」

「……分かりました。行きますよ」


 遠くから聞こえてくるチャイム。

 朝の日差しが強くなっていくのを感じて、私は部屋を発った。



 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢



 教室に着き、一息。

 適当に授業やなんやらを終えた。


 非常に退屈でしたね。

 確かに授業は高度なモノでしたが、所詮は帝国の知識。


 鉄臭さが前面に出た授業でしたよ。

 と、退屈の意を示している時に、同級生が話しかけて来た。


「ねぇシールちゃん」


 ああ、有象無象の男子生徒か。

「はい」と一応返事して、笑顔を浮かべて振り返ろうか。


「……何ですか?」


 出来れば会話は避けたい所だが、仕方ない。

 一応要件を聞いてみましょう。


「専攻の科は決めたの?」

「専攻……?」

「うん、今から放課後でしょ?その時間を使って、自身が学びたい科を選べるんだよ」


 確かに、エルシーがそんな事言ってましたね……。

 帝国第一は多才な人材の育成の為、多種類の科を用意しているとか。


 とにかく科の種類を聞いてみましょう。

 ───『あの人物』にも会えるやも知れませんし。


「一番人気なのは何の科ですか?」

「そりゃぁ工業科だよ。この国の中枢に関われるからね」

「……では一番人気の無い科は?」

「格差が激しいね───でも、うーん。それなら『機械兵科』かな」


 ───やはりあるのか。

 しつこく無い程度に私は、聞いておく事にした。


「どんな科なんですか?」

「興味あるならやめておいた方が良いよ〜。あれ黒い噂が絶えないからね」

「……黒い噂?」

「うん。最近じゃ───『裏切り者』が出たとか」

「裏切り者……」


 一致している。

 やはり言われた通りか。


「まぁうちのクラスでそこに在籍してるってなると───リアルくらいかなぁ」

「リアルさんが……」


 運がよろしい事で。

 では後の説明はリアルに任せるとして……。


 ───兎に角そこに、目的の人物が居るという事ですね。

 私は狐疑な目を笑顔に変え、男子生徒に感謝しておいた。


「御説明感謝致します」

「まぁ科は二つまで在籍出来るから、じゃ。……出来たら後でお茶でも───」

「はい。ありがとう御座います」

「やった!」


 まぁ後で断っておくことにして。

 私は視線を感じて立ち上がり、教室を出ると同時に。


「───ではリアルさん。機械兵科について、くわしーく、教えて下さいね」


 盗み見していたリアルにそう囁いた。

 だが気付かれていたことに、先ずは驚いてしまったのか。


「え、あ、え?」


 かなりの困惑が見えた。

 しかし、時間が惜しい。治るのを待ってる暇などない。


「難儀な人ですね、なら」

「え、何で、というかどこに───」


 強引に手を握り。

 引きずる様にして私は、リアルを連行して行った。


「ちょ、ちょっと───!!」

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