三十二話『戦友』

 検査の際の警備員とは、親密であってはならない。

 検査員と言えども、不審な行動があれば直ぐに場を降りさせられる。


 公平な立場、状況での徹底的な検査を施す為である。

 だから私とエルシーの会話は、機械的な声音でもって保たれる。


 そこに親密性を垣間見せる事のない様に。

 私達はそのまま、検査を始めた。


 入学手続きは、エルシーの手によって行われる。

 名も出生も学歴も。


 入国証を元に、全ての経歴が詐称された。

 だがエルシーは元々、熟練の捜査員だ。


 詐称された情報を『嘘』だと気付かせる様なミスはしないだろう。

 ならば後は検査の際、持ち込んだ武器類が発覚しないかとどうかだが……。


(思ったよりも、同伴の警備員が多いですね)


 銃は持参のバックに入れられている。

 他弾倉も、必要な物資も、全て。


 今現在エルシーによる身体検査が行われているが。

 エルシーは首筋の機械をうまく避けて検査している為、切り抜けられる。


 しかし、次だ。

 ───金属探知機による、手荷物検査。


 時代は変わった。

 だがその折、厄介にもなった。


(どうしたものか……)

(いえエクセル様。ここも切り抜けて見せましょう)


 一瞬の内にアイコンタクトで連絡を取り合い、直ぐに目を背けた。

 警備隊長の視線が痛い。


 エルシーは、傍目にバッグの中身を盗み見た。

 一丁の銃と、五つ程の弾倉。


(銃は後回し。先ずは弾倉ですが───)


 未だ警備隊長の視線は、エルシーに向けられている。

 私はそこで、分かりやすく咳払いを吐く事にした。


 ゴホッ。

 別に体が悪い訳でもない。


 しかし、緊張が高鳴る検査室内で起こる事象としては……。

 多少、警備員達の目を引く事ではあろうか。


(───今、ですね)


 その一瞬の隙を突き、エルシーは。

 目にも止まらぬ速さで、五つの弾倉を自身の体にしまい込んだ。


 それも外から見えない程に、正確に。

 体の起伏が目立つ検査用の服に着替えても尚、彼女はそれを為せたのだ。


 熟練か。

 そして警備員の視線が戻る時には、エルシーは小さく言い放つ。


「……では、これより手荷物の検査を行います」


 未だバッグの中には、銃が残っている。

 機械に通せば確実に警報が鳴り、私が即射殺される。


 但し長引かせるのも、得策ではない。

 敢えて、だろうか。


「他の警備員様も、準備にお移り下さいませ」


 エルシーは振り返ってそう催促し、数人の警備員を検査内容の精査に当たらせた。

 残るエルシーを視界に捉える警備員は、警備隊長含めて三人程か。


 エルシーも作業に当たった。

 思いバックを軽い様に持ち上げ、金属探知機の台に置く。


「検査、開始」


 そして金属探知機を操作する警備員に呼びかけ、台を動かす。

 未だ、銃はバックの中に。


 けれどこれで確実に、三人の警備員しかエルシーを見ていない。

 ───エルシーはそこで、動いた。


 服の裾に隠していた小石を取り出し。

 肩を組む様に見せかけ、背後にいる警備員の───。


 横の絵画目掛けて、親指で石を弾いた。

 その速度は異常で、警備員の誰もが捉える事すら出来なかった。


「……なんだ?」


 故に。

 小石によって絵画が落ち、必然的に警備員の目がそこに集約するのだ。


「幽霊かなんかか?」

「分かりません。とりあえず直しときましょう」


 などと意味も分からず話し合う警備員達。

 そこに。


(──────好機)


 エルシーは、明らかなる隙を見出した。

 流れていくバックを素早く開け、銃を取り出し。


 音を立てず、最小限の動きで、ストックの部分を肘打ちして……。

 それを私が受け取って、奥の棚に迅速にしまう、と。


 他、異物が検出される事もなく。

 私は入学手続きを終え、入校が許可されました。


「流石の手際ですね」

「伊達に二十年以上も潜入捜査員やってませんから」


 学校に銃と弾倉を持ち込み、私の言う存在が侵入できた。

 その手際は大きい。


 やはり信じる者は、戦友ですね。

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