第十一話「レネ」

「いやぁ、久しぶりですねぇ。何年ぶりぃ……ですかぁ?」


 耳元で鳴る小煩い声。

 無駄に高い囁き声……随分と聴き慣れてしまっている。


「戦争振りだ。───君とは、会いたくなかったが」

「酷いです!私はエクセルさんとしか会えないんですよ?!

 妖精さんを敬遠しないで下さい!!」


 この掌サイズの女性、この様に自称妖精を唄っていて。

 ……思えば、二十年以上前か。


 彼女は気付けば私の横に居て、語りかけて来た。

 それ以来からの付き合いなのだが。


 彼女は、世界中を見渡せると宣っている。


 まぁそれは本当らしいのだが、お喋りが好き過ぎる性格の所為で、胡散臭く見える。

 静かにしたい時ほど煩くしてくるので、いつもこちらから同伴を断っている。

 しかし私が呼べば彼女の方から、即飛んでくる。


「で、なんの様ですかぁ?」

「あの荷馬車に元々積まれてあった積荷を、盗んだ犯人を知りたい」


 彼女は私の前に滞空すると、嫌らしく笑った。


「これ帝国兵のモノですよね。エクセルさんが盗んだのでは?」

「荷馬車自体はね。……濁さずに、答えて下さい。知ってるんでしょう?」


 深い溜息が聞こえた。


「お喋りしてくれないんですねー。まぁ良いです。知ってますよ」

「今回は話が早いですね」

「エクセルさん、最近気が立ってるみたいですし、気を悪くしたら殺されそうで……」

「そんな事はありませんよ、レネ」


 レネの顔がぱあぁっと明るくなった。

 あ。墓穴を掘った。


「え、良いんですか!?じゃあ今日はですねー!ちぇ──────」


 重ねられる、要らない無駄話。

 こうなったら、彼女を止める術は無い。


 耳を劈く様な世間話を聞き流しながら、私は。

 自身の選択に、後悔していた───。


 それが───終わり。

 数時間程、話に付き合わされた。


 夕陽が、木の間から垣間見えて来てもいる。


 この長過ぎる話に慣れている私も、困り物だが。

 話し終えたレネは、顔色を変えない私に向かって笑った。


「あ、そうだ。盗んだ人の場所ですよねー」

「ああ。事実どこに?」

「うーん」


 レネは、唸りながら思い出す様に、頭を抱えた。

 ああ、これは演技である。


 彼女は些細なことすら鮮明に記憶しているから。

 何故そうするかは不明。キャラ維持に熱心なのでしょう。

 そうして彼女は言った。


「ああ。レジスタンスですね。この近くにある農村に根を張ってますよ」

「やはりか……。聞くが、やはり帝国軍への決起の為に?」

「まぁ多分そうですねぇ。帝国軍の圧政支配は年を増して強くなってますし」

「元々抱えていた、人口減少の問題は?」

「顕著です。───虐殺も、しばしば」

「そう───か。帝国らしい」


 気付けば、拳がぎゅぅっと強く握られていた。

 荷馬車を一瞥して踵を返し、僕は辛くも囁いた。


「以前は無鉄砲に過ぎた。……だからレネ、君の同伴を許そう」

「やったぁ!!!」

「……否応に、だが」


 重ねて、彼女に聞こえないよう小さく囁く。


 言い切った、その後悔はある。

 しかし彼女が居なければ、私は直ぐに死んでしまうだろう。


 ツアーを殺す為ならば。

 帝国に、復讐する為ならば。


 ストックの数も知れぬ今、これが最後の生やも知れないのだ。

 妥協すべき、だ。


「……なら!その道中に、お話したい事が───」

「分かったよ。女子トークといきましょうね」

「あ!確かに女性になりましたよねー!体もピチピチになって──────」


 はぁ。

 ……この苛つきにはメリハリを付けよう。

 そうだ。忘れる事にする。


 ───少し、不安は残りますが……。

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