チョコーレートガールに迫られて
ぴで
第1話 チョコレートヒューマノイドのアリス
二月十四日、男ならこの日がどれだけ重要な日かわかるだろう。
僕らは魔法にかけられたかのようにこの日だけは体が重くのしかかり、神経が研ぎ澄まされている。
ただ女子に声をかけられただけでも何かあるんじゃないかと思ってしまう。
そう、一年で一度のチョコレート会社の陰謀で作られた愛の告白をしても誰も責めない日だ。
女子から呼ばれる事なく学校も普通に過ごし、机や下駄箱をのぞいたが何もなかった。
僕の隣の席の気にかけている橘(たちばな)さんも話はしたけど特に何もなかった。終わった。
トボトボと帰り家の前についた。なぜだか甘い香りがする。母さんがチョコーレートを作ってるのかもしれない。
母からチョコがもらえるだけ僕は幸せなんだ、ははは。
門をくぐり家の中に入る。玄関で靴を脱いでいると奥の部屋からじいちゃんが出てきた。
「修(おさむ)、帰ってきたか」
「ただいまじいちゃん」
「その反応じゃと今日はダメだったみたいじゃな」
「ほ、ほっといてくれよじいちゃん!傷ついてるんだから!」
「そうだろうと思ってお前のために良いものを用意していた。ワシの部屋に来い」
うちのじいちゃんは発明家だ、呼ばれたがあまり良いことが待ってないのがいつものパターンだ。
じいちゃんの部屋に入るとさっき匂ってきた甘い香りがよりいっそう強くなった。
「そこのカプセルを見るんじゃ」
目の前には人が入れそうなくらいの大きいカプセルがあり、いくつもの配線でごちゃごちゃしていた。カプセルの中は曇っており中は見えない。
「出すぞわ」
「い、い、一体何を?」
カプセルから空気の漏れるような音がし、ガラスの曇りも取れてきた。
カプセルの入り口を開けると中から何かが出てきた。
「はぁ、やっと出れた出れた。実験は成功ね」
「そうみたいじゃな、よくがんばった」
中から出てきたのは女の子だった。褐色の肌に髪はツインテール。短いチェックのスカート、半袖のYシャツにカーディガンを羽織っている。
「あんたがオサムとかいう男ね、あんたのために生まれてきたのよ、感謝しなさい」
「えっ?ちょっと待ってじいちゃんどういうこと?」
「これは修がバレンタインにチョコをもらえないだろうと思ってワシが密かにこの日まで開発したチョコレートヒューマノイド。つまりチョコ人間じゃ」
「チョコ人間!?」
「そうじゃ、チョコとAI技術と錬金術をちょっと混ぜて作りあげた自立型チョコレートガールじゃ、さぁお食べ」
「お食べってなぁ、しかも顔がなんだか僕の同級生にそっくりな気がするんだけど!?」
「それはそのはず、修が好きな同級生の橘さんに似せておいたから」
「な、なんで僕が橘さんを好きって!?てか
同級生の姿したチョコに飛びついたりしたら変態じゃないか!」
「ワシの孫じゃし変態だろ?ちなみに修がこっそりエッチな画像を見てるのをワシは知ってるぞ」
「なんで履歴ちゃんと消してるのに知ってるんだよ!さっきから僕にはプライバシーってもんがないのか!」
「まぁ詳しい事はこの子に聞いてくれ、ワシは徹夜したから眠いんじゃ。二人で遊ぶなりなんなりしてくれ」
そう言われ僕達は部屋を追い出された。
チョコレート人間。そうは言われても女の子の姿をしているんだから女子は女子。
女の子の顔を見ると、同級生の橘さんそっくりだ。ついみとれてしまう。
「あんた博士の言ってた通り冴えなそうね、ほんと見た目からしてモテなさそうだわ」
「な、初対面で失礼だな君は!」
「そりゃなんとでも言うわ。せっかく生まれてきたのにまさかこんなダサイやつだったとは。あんたに食べられるなんて嫌よ」
顔は確かに橘さんだが、性格は全然似ていなかった。橘さんは僕のような人間から何まで包んでくれる聖母のような性格だ。それに比べてこの子は。
「嫌なやつだな君は!誰が食べてやるもんか!」
「それはあんたが決めるんじゃなくて私が決めるの、それはそうとどこか連れて行きなさいよ」
「今日僕はそんな気分じゃないんだ。一人で行ってくれ」
「あんたもしアリスが誰かに食べられたりしたらどう責任とってくれんのよ」
なんてうるさいチョコーレートだ。
「あぁわかったよ、どこか連れて行けばいいんだろ?じゃあ行くぞ、靴は妹のやつ履ける?
「わかればいいのよ、靴は割と同じくらいのサイズだわ。大丈夫」
「はいはい行きますよ、そうそう…なんて呼んだらいいんだ?」
「私の名前はアリス・バレンタイン・シュガー、まぁアリスとでも言いなさい」
こうして僕はアリスとどこか出かける事になった。
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