義妹との絆を深めたい!

第72話 琴子ちゃんと遊ぶ前に

 あれからローズさんにご馳走して、そのまま酒場に流れたプレイヤー達と二次会をしてログアウト。


 夕ご飯の支度をしているところへ琴子ちゃんが寧々ちゃんを連れてやって来ます。

 今日は二人一緒の日なんですね。

 帰ってきたら手洗いとうがいを促してそのまま夕食を頂きます。

 未だに炊きたてのご飯の匂いがダメなのですが、琴子ちゃん達は和食よりも洋食を好むので今の私にとってはとっても有難い存在です。

 スクランブルエッグにホットサンド、コンソメスープを添えて軽めに。


 食事後はリビングでだらっとしながらゲーム内での出来事を語り合うのが最近の日課になってきました。

 はじめのうちこそバトルコックはやめた方が無難である。そう言っていた彼女でしたが、結果を形に出したら考えを改めたのか「確かに姉さんには必要なスキルかもですね」と概ね同意してくれます。



「そういえば寧々ちゃんは私のビルドについてはどう思います?」

「祐美さんは何やっても祐美さんにしかならないと思うので、あたしからは特には」

「それ、褒められているのかしら?」

「褒めてます、褒めてます! ほら、琴子も何か言って!」

「えー、寧々が勝手に自爆したんじゃん」



 お気に入りのぬいぐるみを抱っこしながら琴子ちゃんはぶーぶー言ってます。



「そこをなんとか」

「はいはい、貸し一つね」

「ぐっ……こんなところで貸しを作るのは癪だけど、仕方ない」



 何やら葛藤した様子の寧々ちゃんに、勝ち誇る琴子ちゃん。

 あの、私そこまで気落ちしてませんからね?



「こんな事で貸し借りだなんてやめて下さい。私そこまで気にしてませんから、ね?」

「祐美さんがそういうなら……」

「姉さん、寧々は甘やかすとつけあがるタイプだから。一見引き下がったように見えて心の中でガッツポーズしてるから」



 そうなの?

 ふと覗き込むとちょっと焦った顔でそんな事ないですよと返してくる。

 どうやら本当の事のようだ。

 この二人のやり取りは私と茉莉さんに通ずるものがありますからね。

 表情を見るだけで案外わかるものです。



「もう、琴子は余計なことばかり言いすぎ。だから見た目はいいのに未だに彼氏の一人もできないんだよ!」

「んなっ!? それとこれとは今関係ないでしょ! それに寧々だって今居ないじゃない」

「あたしはほら、引く手数多だけど釣り合う男がいないだけだから。結構告白はしてもらうのよ? あんたと違ってね」

「ぐぬぬ~~!」



 あらあら。琴子ちゃんの顔が般若みたいになってしまいました。ダメですよ、嫁入り前にそんな顔をしていては。

 お前が言うなですって?

 失礼な。私はそういう気持ちは人前では見せないようにしてますからね。だから大丈夫です。ええ、きっと、たぶん。平気ですよね?



「はいはい、この話はここでおしまい。寧々ちゃんもあまり琴子ちゃんをからかわないであげて」

「はーい」

「うわぁあああん、姉さん、寧々がいじめるのー」



 パンパンと手を叩き、話を終了させると琴子ちゃんの腰の入ったヘッドバッドをしてきました。

 あぶない!

 私はそれをひらりと躱して態勢を崩した彼女を掬い上げます。

 もう、あのまま直撃したら大事な赤ちゃんにまでダメージが行くところでしたよ?


 ほらほら、いい歳なんだから泣かないで。嘘泣きで濡れた彼女の瞳は直ぐに乾き、すりすりと抱き寄ってきては「もう離さないぞー」とばかりにギュッと抱きしめられてしまいました。

 その光景を目の当たりにした寧々ちゃんはなんとも悔しそうに地団駄を踏み、私を奪い取るように琴子ちゃんへ攻撃を仕掛けて行きました。

 私から琴子ちゃんを剥がした後は、同じような位置どりでしたり顔をしてました。仲良いですね。


 そんなこんな他愛のないやりとりを経て、彼女達は自分達の部屋へと戻って行きました。いつでも遊びに来てくださいねと言ってからは遠慮なく、それこそ御飯時になると遊びに来るのは何故でしょうか?

 一緒にお料理するというのではなく、食べるだけなので茉莉さんが二人に増えた心地になります。


 家事を終えて孝さんへメッセージ。

 ご飯の準備は終えてありますので食べてくださいねと入れておきます。

 最近はこういう一方通行なやりとりのみ。

 朝は私の不調で食卓で過ごすこともできず、こうして調子のいい日でも気を遣って外で食事を取ってくれる。

 このままじゃダメだとわかっている。

 相談しても考えすぎだと言われる始末。だから私は孝さんと早く一緒に遊びたいと思う気持ちでいっぱいです。


 茉莉さんにボイスメッセで少しだけ愚痴をこぼすと可笑しそうに笑われた。

 そしてがっつきすぎると嫌われるよ、とも。

 がっついているつもりはないのだけど、その押し付けがましい感情こそがっついているのだと言われてちょっと落ち込みます。



「ほら、また落ち込んでる」

「落ち込んでません。ちょっとがっくりしちゃっただけです」

「そういうのを落ち込んでるっていうから」

「むぅ。それより茉莉さん、この後はゲームできますか?」

「あたし? んー……この後はダーリンと食事した後一緒にイチャイチャするから。気を遣ってもらえるとありがたいなって……羨ましい?」

「すっごく」

「あはは、祐美ってば本心剥き出しにしすぎだよ。よく飽きられないね」

「そんな剥き出しになんてしてませんから」



 プンプンと怒って見せると乾いた笑いを返されました。

 彼女からしたら私の感情は一方通行で、彼とちゃんと共有できているのか心配らしいです。私はその質問に上手い返しが見つからず、言いよどんでしまいます。

「ちゃ、ちゃんと出来てますー」そう言い返すのでやっとでしたけど、本当はとっくに気づいてます。

 私の愛情の形はとても歪だって。

 それでもそれは愛の形を作っていて、不器用なりに全力な気持ち。だからそれを他人から非難されようと痛くもかゆくもない。大丈夫、まだ大丈夫。

 彼は優しいから私を心配してくれてるだけ。

 自分に言い聞かせながら反芻して、気持ちを持ち直してグッとガッツポーズを取る。そうして私は再びゲームの中へとログインしました。



 ◇



 今日は単独行動です。

 特にやることもないので街の中をぶらぶらお散歩。

 リアルではすっかり日も沈んだ頃ですけど、ゲームの中ではお昼前。

 数少ないフレンドのログイン状況は壊滅的で、チラリとたまに覗き込んでも一向に増える様子を見せません。

 こういうのって思い過ごしですけどなんだかハブられているようで嫌ですよね。

 ここはひとつ気分転換でもしましょうか。

 そういう事で酒場にやってまいりました。

 厨房にはゲンさんは居らず、シグルドさん達が何やら相談事をしていました。



「こんにちは」

「お、ユミリアちゃん、いらっしゃい。今日はうるさい方の嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」

「彼女は友情より愛情を取りましたので」

「なるほどな。そういや二人とも既婚者だっけか」

「はい。なのであまり人前でじろじろ見るのを止めて頂きたく……」

「あっはは、言われてるぜ、おい!」



 シグルドさんは直ぐ隣にいる同僚の背中をバンバンと叩きながら笑って誤魔化しています。シグルドさん、あなたに言ったのですよ?



「それで、注文よろしいですか?」

「おう、ちょっとまってな。今作っちまうから」

「はい、ではこちらとこちらを頂けますか?」



 メニューに並んでいるズーの角煮とホークの唐揚げ。それとエールを無料でいただきます。

 このゲームのエールはアルコール飲料じゃないんですよね。

 ですがまるでアルコールを摂取したような前後不覚に陥ったような錯覚を見せて来るのです。それが酩酊状態だったり、泣き上戸だったり、絡み酒だったりとプレイヤーによって様々な人間模様を描き出します。


 だからこの酒場はこのゲームの闇の一つとして数えられています。確かに闇ですよね、あの惨状は。

 全てを吐き出し切った後には清涼感すら感じるらしく、魅力の一つでもあると言い切るプレイヤーもそれなりにいますが、あんな姿好きな人の前で見せられるほど女子を辞めてないので私としては深酒をするつもりはありません。


 食事を頂き、満腹値を回復させたところでお出かけといきましょうか。

 お皿を片付けて厨房へ持って行きますと、奥でまた何か話し合っていたシグルドさんが「ありがとさん、そういう事はウチらがやるからお代だけで結構だぜ」と返してくれます。

 私は「これが性分ですから」と返し、酒場を出るところで呼び止められました。



「ユミリアちゃん、外はPKがうろついてるから気をつけてな! うちの連中も何人かやられてる。森によく出るって話だが草原も夕方ぐらいになると危ない」



 その忠告に頷きだけで返し、酒場を後にしました。



「ふむ、PKですか。プレイヤーキラー……丁度良いですね、楽しみです」



 良い憂さ晴らしの相手ができました。

 しかし私は一般人。ドライアドのような万能な力はありませんから、MOBで練習だけでもしておきましょうかね。


 南門からふらりと旅立ち、草原フィールドのエリア1へと赴きます。

 ちょっと試して見たいことがあったんですよね。今まではお肉をゲットすることに夢中でしたので、勿体ないという気持ちが強かったのですが、今は特に。

 先日のBBQで価値が薄れたというのもありますけど、それ以上に今の私は蓄積した情報を形にしたくて仕方がありません。


 まずは《漬けダレ》で一体仕留めて。

 アイテムバッグに入った加工肉を取り出して空中から垂らしたタコ糸にくっつけて垂らし、糸をくくりつけたまま振り回します。

 これで防御シールドの完成です。

 強度がないのが欠点ですけど、糸にはこのような応用方法もあるんですよ。



「さぁ、狩りの時間ですよー ♪」



 最大限まで勢いの増した加工肉を対象に向けて発射。糸を切り離すだけで勝手に飛んでいくのでとってもエコ。

 直撃した個体はHPを3割減らして敵対対象を探しています。

 でも残念な事にそんな対象は存在しません。武器を持っている対象にしかヘイトが向きませんので、空中から糸を垂らした場合、一瞬だけその空間がヘイトを取るのがこのゲームの抜け穴。


 その隙に射出した加工肉を回収して空中で振り回します。

 ここで調べておきたいのは糸の耐久度。

 どのくらいの重さまで振り回せるかの実地テストですね。ウサギは平気そう。

 カエルは行けるかな? ヒツジは無理。

 ある程度固まっていた思考をこういう場所で発散、解消しないともやもやが溜まってしまうのですよね。


 結局ホワイトラビットは4回目の投射によってHPを全損させて光に包まれました。そして面白い結果が一つ。


「加工肉で攻撃すると対象に加工の微弱付与が与えられる。そして低確率で加工できる……ですか」


 先日ローズさんに言われたのは加工魔法を付与した相手に伝染する……でしたが今回は加工済みのお肉から感染です。

 ふふ、良いですね。実にいいです。

 こういうのですよ、私が欲しかったのは。

 正直毎回下味つけるのは面倒だったんですよね。MPの消費も激しかったですしね。

 後は加工肉の指定位置確認です。

 現在は目視の範囲に対象のサイズが空いている場合にのみ設置可能。

 しかしそれは地上に置く場合です。


 今の今で試したところ、空中に取り出す事は出来ました。そして重力に引かれて落ちるまでは確認しています。

 なのでこれをもっと上に置いたらどうなってしまうのでしょうか?

 うふふふふ。楽しくて仕方がありませんね。さぁ、やりたい事はまだまだたくさんありますよ。次々行きましょー、次。

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