ゲーム内でも新婚生活

第58話 新婚生活

 どうもこんにちは、私です、祐美です。

 今は充実した生活を送れています。


 とはいえ多くのハプニングがつきまとう忙しない毎日。つい先日帰ってきました婚前旅行も、サプライズから始まりましたからね。

 招待した彼は楽しそうでしたが、私の方がテンパってしまいまして……

 なにせ着の身着のままで行ったものですから、なにやら周りから注目を集めて気恥ずかしかったのを覚えております。

 ですが目下、私の中にわだかまっていた不安要素が解決されたことにより、晴れやかな気分で旅行を楽しめたのが良かったですね。

 旅行中、こんな毎日がずっと続けばいいのにと思ったことは一度や二度ではありません。

 ですが、そんな日々はあっという間に過ぎ去りました。



 私は孝さんと共にマイホームへと帰ってきたのです。

 そこでは前と何ら変わらない生活が待っていました。

 彼は私たちを養うために仕事に行き、私は任されたこの家を守る生活に。


 ただ唯一変化したことと言えば、私が彼の恋人から奥様に昇格したことでしょうか?


 今までは共に同棲していた義妹の琴子ちゃんや、その友達の寧々ちゃんが居たことにより私達の距離感はまだ遠いものでした。ただでさえお見合い結婚ですからね。あまり良く思われていなかったのでしょう。


 ですが努力の甲斐あって琴子ちゃんとは無事仲直りしました。

 彼女の友達の寧々ちゃんとも仲良くなって、これから彼と義妹との楽しい毎日が始まる……そう思った矢先のことです。



 彼女が……琴子ちゃんが一人暮らしを始めると言い出したのは。

 当然孝さんは猛反対。しかし私は彼女の話を聞いた上で、陰ながら応援する事にしました。


 いつものわがままではなく、考えあっての申告ですから。孝さんのように頭ごなしの否定に私が乗っかってしまっては彼女はきっと塞ぎ込んでしまうでしょう。

 だから私ぐらいは彼女の味方になりたいと、そう思ったのです。

 孝さんはぬるい環境で育ってきた妹を厳しい環境に放逐するのは気が気じゃないのだと言いますが、彼女はもう20歳の大人の女性です。

 私としてはいつまでも兄に頼ってはいられないという彼女の気持ちを汲み取って、なんとかできないかと進言しました。


 そこで孝さんの目の届く範囲でなら許可していただけませんかという折衷案を持ち出して、無事に和解に結びつけました。


 琴子ちゃんは一人暮らしするといっても、友達の寧々ちゃんとのルームシェア。

 それに頻繁にマイホームへ遊びに来るので前とさほど変わらない生活が続いていました。


 そんな忙しい日々が終わると同時に私の妊娠が発覚。孝さんから「安静にするように」と厳命されて、今はベッドとトイレを往復する毎日を余儀なくされています。

 シャワーを浴びる時はたまに遊びに来る琴子ちゃん頼りの生活です。

 そんな私を気遣ってか、孝さんは最近外食が多くなってきました。

 せっかく私の手料理を振る舞おうとしても『今無理をして母胎に影響してはまずい。僕は大丈夫だから、祐美は元気な赤ちゃんを頼む!』そう言われてしまっては従うほかありませんでした。



 ◇



 たまに来るツワリは重いのですが、そんな毎日来るものじゃないので実は私、暇を持て余しています。

 そんな時はPCからホログラフ画像を開いて妊婦仲間の茉莉さんにつなげてお喋りが日課になりつつありました。


 彼女は妊娠仲間でもあり、古くからの親友。共に同じゲームで遊んだことのある心の友とも呼べる存在です。

 そんな彼女が時を同じくして妊娠したとは偶然とはかくも恐ろしいものですね。

 ですが奥様としては数年先輩ですので学ぶべきことは結構多いんですよね。

 ……役に立つかどうかは別ですが。



「ポチッとな」



 その掛け声でPCが使えるようになりました。

 これでシステムのロックが外れるのですから技術は日々進歩していくものですね。音声認識ですので掛け声はなんでもいいのですが、普段発しない言葉の方が保護をかけやすいのだそうです。これは茉莉さんの受け売りですけどね。


 顔も直接観れるので電話やメールよりも安心感が段違いです。

 どちらかといえば、今までは秘密裏のやり取りでしたのでそちらを活用してましたが、結婚式に招待したこともあって顔見知り……どころか共通点が見つかったので孝さんから許可が貰えました。

 彼ったらうちの両親に負けず劣らず過保護なんですよ?


 いえ、ここで生活してからというものの、外出するときは孝さんと同伴でしたから分かってはいたのですけど……もう少し私を信用してほしいものです。


 さて、繋がったようです。どうやら彼女も暇しているようですね。いつになくアホっぽい顔を晒していました。


 今日も小手調べの惚気から始まり、ご近所トラブルの対処法を聞きかじりしながら話題を振って行きました。

 いえね、ある意味彼女がどう対処してきたのかが楽しいのであって、それが私の役に立つのかと言われれば「全く」とお返しできる内容なのですが。

 なにせ住んでいる環境が違いますので参考にもなりません。ですが彼女が聞いてほしそうな顔で訴えてくるから仕方なく。ちょっと自慢気味に天狗になってる顔がとても面白かったのは内緒です。


 さて話は変わりまして、最近ログインできていない<Imagination βrave Burst>についてです。せっかく仲直りできて、また来週なんてノワールに言ったきり全然ログイン出来てないので気になってたんですよね。

 彼女はログインしていたらしいので本日はそっちのお話を聞こうかなと話題を振って観たところ……



「それで……IB2は今どんな感じですか? 流石に身重でプレイするのは気がひけるといいますか、私だけの体じゃありませんので」

「ああ、それ。丁度よかったわね、垢凍結中で。運営も祐美にゆっくりしろって言ってくれてるのよ」



 垢……凍結、中?

 思ってもいない返事に一瞬思考を、それこそ凍結(フリーズ)させてしまいます。

 え、なんで? どうして? 意味わかんない!



「えっと……ごめんなさい。話が見えてこないのだけどどういうことでしょうか?」

「ありゃ、知らなかったの? 知っててハネムーン行ってたのかと思った」

「知らないよ! だってハネムーンの話を聞いたのも当日ですし! その、楽しかったですけど……みんな元気かなーってちょっと気にかけてましたし」

「あー……旦那さんもそういうタイプの人種か」

「その言い方酷くありません? せっかく友人側で式に招待したのに、茉莉さんの旦那さんが孝さんの友人の席に座ってる時は大層驚いたんですからね」

「あれはほんと、偶然だって。おんなじ日に式に来賓されるなんて珍しいねーって言いながら家を出て「あれ? おんなじ式場なんだ、奇遇だねー」ってエントランスでバッタリ会って、同じ時間に呼ばれて違う部屋へ招待されたのにまさかの同じ式よ!? それを幸雄さんたらずっと苦笑してたの。あたしの気持ちがあんたにわかる?

 少しはっちゃけるつもりだったのが出鼻くじかれて失笑されっぱなし……末代までの恥よ! うわぁああああん」



 なんてやり取りを交えながら。気になっていた状況を聞いていく。



「──で、本スタート開始したはいいんだけどね。やっぱり街の発展だけを引き継ぎでキャラデータリセットは本スタート組にとって平等って意味では良かったけど、MOBの状態も引き継いだもんだからそりゃもう負け続けたわけよ」

「ありゃ。アーサーさんとかが中心に立ったりとかは?」

「あの人達も頑張ってるんだけどねー。っていうかあたし達がいなくなった後釜という全方向からの期待に押しつぶされてるよ。あたしもこんなだからプレイ出来ないし、祐美のパワーがなければあたし程度一プレイヤーに過ぎないし。後方支援という意味で掲示板でアドバイスしてるけど、見本を見せてくれって無理強いばっかりしてくるから「そんなもん自分で解決しろ」って言ってそれっきり」

「あらら。アーサーさんは茉莉さんみたいに心臓に毛が生えてるタイプには見えないもんね。だから言われたことをストレートに受け取っちゃうんじゃないの? ああ言うのって受け流しが必要よね?」

「それ酷くない? まぁ、言いたいことはわかるけど。今まであたし達に甘えてきたツケが回って来たのよ。いい気味」

「うん、まぁそれはそうなんだろうけど。やっぱりあの世界の基本ルールは弱肉強食なんだよね。だから本来なら強者が暴れた後の世界はリセットされるべきなんだよ」

「そうなんだけどねー。その問題の強者がやりすぎて垢凍結中でいいスタートをきれなかったなんてβ組が叩かれる始末よ。β組ってそれだけが本サービス始まっての強みじゃない?」

「そんなの私に言われたって知らないよー。努力が足りないだけじゃないですか。ドライアドであそこまで立ち回ってみせたのにまだステータス云々言う輩が居るんですか?」

「困った事にMMOにはそういう輩が多く居るのよ。それでもゲンさん達が取り計らって上手く回ってる。やっぱりあのゲームの料理って言うのかな? 他のゲームとは別物らしいんだよね。祐美も食べてみてわかるでしょ?」

「うん。プロがどうこうよりも元気が貰える気がするんだよね。今度はそっちの道で後方サポートしようかな? どうせアカウント凍結中ならやれないから情報をリセットして一から全く別のネームにしちゃってもいいし」

「それだとせっかくノワールと仲直りしたのが水の泡になっちゃわない?」

「それはもう平気。自分のお腹に子供が出来たって実感が出来てからはすごく落ち着いたの。それまではちょっと気が気じゃなかったって言うか……うん、色々と不安定でした。今はあの子が元気にやっているのがわかればもういいかな」

「そう……あんたの口からそんな殊勝な事聞かされるとは思わなかったわ」

「ねぇ、茉莉さんはさっきから私に対しての言葉に棘を含んでるって自覚ありますか? なんか凄くイライラするんですけど」

「ダメよー、そう言うイライラは赤ちゃんに伝わっちゃうから、心穏やかにしなさい」

「そんな理不尽な!」



 言われっぱなしで今日の本題へ移行していきます。



「それで、上手くいきそう?」

「幸雄さんのこと?」

「うん。孝さんも誘って一緒に遊ぼうって話。妹の琴子ちゃんからお誘い頂いてるんだけどさ」

「うーん、現状不明瞭なんだよね」

「どうして? 旦那様も確かゲーマーでしたよね」

「うん。でもこれから出産も控えてるじゃない?

 昇進もしたしこれから忙しくなるって言われちゃって」

「そっかー。でも旦那様の言い分にも一理あるよね。うちもずっとは無理だもん。それこそ琴子ちゃんとも時間合わせないとだし。それじゃあ茉莉さんだけでもおいでよ」

「えー、それってそっちのラブラブオーラの餌食になれっていうこと? 祐美って結構残虐なのね」

「ふふっ。どうかしら? 孝さんもゲームは昔かじっていたらしいのですけど今はさっぱりらしいですよ? だから助け合いになると思うので人前でイチャイチャ出来るかどうかはわかりません」

「いーや、あんたは絶対するね。惚気聞いてればわかるもん。人が見てようが口づけぐらいは余裕なんでしょ?」

「それは……まぁ。夢中になってれば他人の視線は気にならないかもです」

「くそっ、リア充爆発しろ! って攻撃されちゃうよ? 祐美はもう少し自分が美人さんであることを自覚しなさい。あんたがその調子だと嫉妬の矛先が全部旦那さんに飛ぶんだからね?」

「そんな……どうすればいいと思いますか?」

「知らなーい。イチャイチャしなきゃいーんじゃないの?」

「えー……」



 そんな言葉を交わして、メッセージを終了する。時刻は17時。琴子ちゃんが帰ってくる(ご飯を食べに来る)頃だ。


 身重……とはいえ妊娠3ヶ月。

 いつもより疲れやすい感じはしますが、日常生活を過ごすのはそこまで問題ありません。母親としての自覚を持って行動すれば大丈夫……という事でお夕飯の準備をしてしまいましょう。


 あとはスープの粗熱が取れるだけ……と言うところで琴子ちゃんと寧々ちゃんが帰ってきます。彼女達はルームシェアという選択を取り入れて、私たちの住む階下を選択しました。一人暮らし……とは名ばかりの目が届く位置に私も孝さんもホッとしています。


 いつものようにうがい、手洗いを済ませて貰って食事を一緒にいただきます。

 孝さんはどうしても遅い時間になってしまうので今は軽く頂いてしまいます。

 その時になってお腹いっぱい……だと申し訳ありませんし。


 食事を終えて軽く談笑。そこで彼女のハマっているゲームのお話を聞くことになりました。

 まぁ私の知ってるゲームなんですけどね、うん。そこでの彼女の振る舞いも……ええ。って言うからフレンドでしたし? やっぱりこの子も見えないところで闇抱えてるんだーって感じてしまいました。

 私が親身になって聞いてくれたのが嬉しかったのでしょうね。琴子ちゃんは、もう少しで安定すると思うから、その時になったらお誘いするね、と元気に自分のお部屋へ帰って行きました。

 寧々ちゃんも玄関までは一緒で、忘れ物があるから先帰っててと琴子ちゃんに促してからこちらに居残る……なんてこともしばしば。



「先ほど琴子ちゃんが楽しそうにお話ししてたゲーム、寧々ちゃんもやっているのですか?」

「うん。どうしてもあの子無茶するから心配なんだ」

「そうですね。寧々ちゃんが一緒なら私も安心です。これからも仲良くしてあげてくださいね」

「もっちろん! ねね、祐美さんも一緒にやってくれるって話、具体的にはいつ頃てもう話してましたっけ?」

「まだですね。あまり長引かれると臨月に至ってしまってそれどころではなくなってしまうので、できれば早めに……が私からの希望でしょうか」

「だよねー。あたし達も頑張ってるんだけどね、先代が偉大すぎて苦労してるの」

「まぁ」



 茉莉さんの事ですかね? ボイスメッセで聞いたことと全く同じ状況です。それから詳しい状況を教えてくれて、その後堪忍袋の尾が切れたルームシェアの同居人に引き摺られて行きました。南無。


 時刻は19時。

 孝さんはまだ帰ってきません。私のお飾り社長とは違い、本物の社長ですからね。時間外活動も多くあるのでしょうね。今日は彼の大好物のブリ大根を拵えてお待ちしてます。

 早く帰ってきてくださいね。

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