第43話 ミュウさんエルフになる<1>
『と、その前に』
「どしたの?」
『今回はドライアド以外で挑戦します』
「なんでまた?」
「そうですよ、ああ……もしかして例のアレはミュウ君でしたか?」
「例のアレ? ミュウさんもしかしてあたしのいない時に何かやった?」
うっ、察しのいい。
シャルロットと出会ってるあたり何か感づいたな?
わたしはマリさんから視線を逸らし、そんな事より、と作戦を立案する。
「と、言うことで、今回私はエルフで行きます」
サブ種族をエルフに変更した事で交信による会話は終了、通常会話に切り替えます。いくらか注目を浴びてますがどうしてでしょうか? 精霊ではなくなったというのに、納得いきません。
「また唐突だね。それで、あたしの役目は?」
「マリさんはフリーで良いですよ。隠して研いでいた爪をみんなに見せびらかしてください。私はこっちでやりくりします」
そう言ってサブ種族がスキルスロット制である事を説明してから、手のひらから糸を出現させた。因みに「糸使い」としてのジョブはないので、完全に「糸使い」の劣化版である。しかしこれらの優秀なところはスキル取得ポイントが少ないところにある。魔法というのは使うたびにMPを消費するが、糸を使用しても糸自体の消耗はあるけどMPの消費ない。
故に万能である。最大効率はドライアドだけど、別にこれらはエルフでも使えます。
だから今回はエルフとして参加する事にしました。もちろんステータスポイントは知力極振りです。
飛んだり跳ねたりしなくても、糸が有能である事を少し示してあげましょうか。
ジョブがない事による補正がないのは痛いですが、別に問題ありません。
スタミナが半減している事をみんなに伝え、一旦お昼ご飯を食べようという事で、一同は冒険者組合の酒場になだれ込みました。一度ちゃんと食べて見たかったんですよね。
「ゲンさん、串焼き多めに頂戴。遠征に行くから」
「お前さんがた、早速来て一体なんだ?お、棟梁がこっちに顔出すのは珍しいな。建築の方はもう良いのかい?」
「はい、ミュウ君のおかげで無事、完成まで漕ぎ着けました」
「そういえば、今日はミュウちゃん居ないのか? 色々問い詰めてやろうと思ったのに」
「まぁ、問い詰めるだなんて酷い言い草ですね」
「ん、お嬢さん見かけない顔だな……ネームはミュウ……どこかのちんちくりんと同名とは奇縁もあったもんだ。オレはシグルド。ここいら一帯の料理クランの副料理長をしている。なんかわかんないことあったらオレに聞きな。相談に乗ってやるぜ」
「まぁ」
ちょっと誇らしげに、シグルドさんはそう言います。
どうやら私がドライアドのミュウであるとは思いもしないようですね。
効果はバッチリです。
しかし後ろでマリさんがお腹を抱えて笑ってます。これじゃあせっかくごまかせても台無しです。ウッディさんなんて何度も咳払いしてごまかしてますもん。二人して酷いんだ。
「はい。では早速料理の腕をふるっていただいてもよろしいですか? オススメを人数分……3人前お願いします。あと彼女の非常食を希望通りの数で」
「あいよ! 厨房ー、追加発注だオラ! 別嬪さんのご注文だぞ、気合い入れて作れや!」
「え、どこどこ?」
「ほら、6番席だ」
「うひゃー、あんな美少女いたんすね。二陣っすか?」
「オラ、口を動かす前に手を動かせ」
「酷いっす!」
なんてやり取りが厨房から聞こえ、酒場の他のテーブル席からも少し注目を浴びてしまいます。
「なんだか騒ぎになってしまいましたね」
そう言って苦笑すると、
「ここまで無自覚なのも珍しいけどね。ミュウさんはもうすこし自分が美人さんであることを自覚したほうがいいよ?」
「えー、そういうのはお世辞ですよね? 私この年まで異性に声をかけられたことなんてあんまりないんですよ?」
「そりゃ家柄もあるし、身分差考えたら声なんてかけられないでしょーが」
「そうなのですか……ウッディさんは平気なようですが?」
「…………」
すぐ横を振り返って見ると、あれ?
「緊張して固まってるみたい。ミュウさん、罪作りな女だね」
うーん、もう少し自然に振舞って欲しいのですけど、それも難しいみたいですね。
しばらくすると腕によりをかけたという名目で熱々の湯気が立つ大皿が届けられました。ウェイターは見ない顔ですね。
どうやら調理を担当した方のようです。
それどころかお皿に盛りつけられている量は、明らかに三人前以上あります……ちゃんと収益を計算しているのでしょうか? そういうのはサービスとは言わないんですよ?
しかし熱意は受け取っておきましょう。ありがとう、と言って微笑んだだけで顔を真っ赤にして何度も頭を下げてありがとうございます! なんて言って厨房へ帰ってしまいました。照れちゃって可愛い人ですね。
テーブルを挟んで向こう側にいるマリさんからは「モテモテだね」なんて茶化しが入ります。もう、リアルじゃそっちも美人でしょうに。どうも私達はあまり目立ちたくないという理由からリアルが出ない種族に走ってしまうんですよね。
早速実食。お箸なんてありませんので一般的なテーブルマナーでお肉をナイフ切り分けて、フォークで口に運びます。ハフハフと熱を冷まして一口。いただきます。
すこし熱すぎる気もしますけど、味は割と淡白気味ですね。これがズーの煮込みですか。マリさんなんて無言で食べ進めてますね。そこで私の視線に気づいたのか、自分の方へ引き寄せていた小皿を差し出してきます。
「ミュウさん、これもつけてみなよ。違う味が楽しめるよ」
そう言って渡されたのは、ウェイターさんが後から持ってきたソースの入った小皿。中には色取り取りのソースが注がれており、一口サイズに切り分けたお肉にちょんとつけて口に入れましたら、なんという事でしょうか。
先ほどの淡白さがどこかに消えてしまいました。それを塗り替えるような鮮烈な辛さ。しかしただ辛いだけではなく、ほんのりとハーブも香り、食欲を増進させる効果させられていくようです。
気づけば私もマリさんと同じように無言でフォークを進めていました。美味しいです。
洗練された料理ではありませんけど、素材を生かした技が生かされているのだと感じました。これがゲームの中で味わえるなんて、すごいですね。私はいままでなんてもったいないことをしていたのでしょう。
しかし満腹度はそれほど回復しませんでした。不思議です。リアルでこれほど食べようものなら、確実に次の日に支障をきたすでしょう。満腹度のないドライアドならいざ知らず、エルフの食も細いと聞きますが……すこし認識が甘かったみたいですね。
それからも明らかに発注量より品が届き、困惑しながらなんとか食べ進めていきます。少し払いが心配です。マリさんは平気で「割り勘で」とか言ってくる子なので、いくらまで取られるか分かったものではありません。いままではアイテムもお金も要らなかったので気にしてませんでしたが、普通はそういうところ気にしますものね。やりくり……できるかなぁ?
途中何度も厨房を抜け出して、シグルドさんが様子を伺いにきます。
暇なのでしょうか? 毎回自信作を目の前で披露してくれるんですが、流石にお金そんなにありませんよ?
食事を終えて、お勘定を支払います。
結局満腹度が限界になってしまう前に降参しました。残りは持ち帰り用としてバッグに詰めて貰います。所持品ぐらいしか入ってないので私のバッグはスカスカですよー。
珍しい事に支払いはマリさんが全額受け持つと言ってくれました。明日槍でも降ってくるんでしょうか?
厨房のみんなにも味の評価を伝えますと、たいそう喜んでいました。普通のことですのに、そこまで喜んでもらえるとは何より。喜んでもらえると嬉しくなる気持ちはわかりますから。礼節は大切ですよね。
酒場、及び組合を後にしようとしたところでマリさんに呼び止められます。
まだ何かあるんでしょうか?
「YOU、冒険者登録しちゃいなよ」
だ、そうです。街で暮らすんなら常識なんですって。たしかに今後この種族で活動していくのなら食事でお金を使うのですからそうなりますよね。
それにエルフの時はアイテムバッグもありますからあって困ることはない、という事です言われた通りに申請しました。え……全財産の1/4の支払いですか? はい、どうぞ。
お金は念じた分だけ手元に出現する仕組み。便利ですねコレ。
250Gを支払って、登録完了です。名前のところにアルファベットがつきましたよ。
ミュウ【ランク:F】
これで私も皆さんの一員ですね。少し優越感に浸っていると、すぐ隣ではマリ【ランク:C】とウッディ【ランク:E】がそれを上回る優越感に浸った顔で、ニヤニヤと笑ってます。
おのれ、謀ったな!
一番笑っていたマリさんは「言いがかりだよ~」なんて言いながらパーティ申請を投げてきました。それを受け取りながら「調子いいんだから」と返し、ウッディさんに「まぁまぁ」と窘められて、『パーティ:ちょっとそこまで』が結成されます。
相変わらずマリさんのセンスのなさが光りますね。あながち間違ってないような気軽さで、達成目標がレンゼルフィアとか誰も思いもよらないでしょうからね。逆にそこがいいのかもしれません。
草原エリア1ではいつも通りの風景が広がってますね。初心者が足を運ぶ場所ですから、致し方なし。さぁ、こっちもレベリングしませんと。全身に魔力を行き渡らせ、続いてフィールドに、
魔力サークル展開!
……しかし何も起きなかった!
「…………」
「どしたのミュウさん、腕を突き出したまま固まって。すごく注目されてるよ?」
「い、言わないでください!」
周りのプレイヤーから初心者特有の生暖かい視線を向けられてしまいましたが、平気です。平気だもん……ぐすん。
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