第35話 みんなでDIY<3>

 と、言うわけで「食事の後は運動だーっ」と言い出したマリさんとわたしは、組合の呼びかけに集まったはいいものの、やる事がなくて手持ち無沙汰の無駄飯食い……もとい荷物持ちをぞろぞろ引き連れて雑木林……イマジンの街の西門付近にある、農耕区の伐採ポイントへとやって来ました。



「よーし、じゃあ第一班はミュウさんとパーティ組んで待機」

「「うぇーい」」

「んじゃあ、ミュウさん頼むねー」

『はいよー。まずはかるーく行くね。バッグ満タンになった人から交代でー』



 わたしはマリさんの背中からヒョイっと降りると住民達にパーティ申請を飛ばしてパーティを組みます。

 今回は精霊装備状態だと都合が悪いので、単品として扱ってもらってます。何しろ要求数が千単位ですからね。巻いていきませんと。

 メンバーの住民からは子供扱いされたり、実力を疑われたりもしてますが気にしません。

 マリさんの様に種族貢献度に貢いでませんからね。不信感を抱かれて当然でしょう。特に住民からは精霊ってイタズラ好きって認識ですし、そう思うのもわからなくもありません。



『はーい、じゃあ伐採行くよー。みんなはバッグの中身だけチェックしててー』

「「よろしくー」」



 パーティメンバーの住民さんがいい返事を返してくれました。

 名前も特に聞いてませんけどノリのいい……調子のいい人たちですね。


 さて、こちらも頼られている以上お仕事をしませんと。目標を絞ってスキルを置いて行くだけの単純作業です。

 精霊は詠唱やリキャストに縛られて魔法やスキルを行使する、というよりも特性としてダメージが一切出せないのでそれらの煩わしい前置きを破棄してすぐさま設置できるんですよね。だから単純作業なんです。


 精霊眼で捉えた視界には30もの樹木を捕捉してます。それらの根元をうまく残して行くのがポイントです。根っこの方は後から有効利用するので残しておかなければいけません。

 バヅン! という手応えと共にメンバーの方へ振り返ります。



『取り敢えず30本行ったけどどんな感じですかー?』

「は、え? ホントだ! いつのまに?」

「何をしたのかさっぱり見えなかったんだけど」

「あー、ダメダメ。ミュウさんの能力は企業秘密だから。詳しく情報が欲しい時はあたしを通して頂戴。

 それよりもアイテムバッグが満タンになった人は手をあげてねー。あたしからミュウさんにストップかけるから」

「「うぃーっす、まだ平気っす」」

「だって、ミュウさん。もうちょい行って平気だそうよ?」

『オッケーじゃあもういっちょ行くよー?』



 ずっしりと大地に根下ろし、龍脈からMPを即チャージ。準備は満タンですよ。

 わたしの今の種族LVは先週ログアウト際にレベリングしたおかげで10になってます。そのおかげでステータスがこの様な伸びを見せていました。


 種族LV1→10

 魔力サークル:半径5メートル→半径14メートル

 MP:510→2850

 知力:100→550


 その他は伸びませんので割愛いたします。


 本来精霊は知力と精神特化の万能種族だったりしますが、ドライアドは少し異なります。

 まず精神に補正が一切かからない代わりにMPに100、更にLV1上がる毎に100づつ加算されていくMPのモンスター。その最大容量はプレイヤーでありながらもレイドMOBクラスを悠々と越える規模に到達します。それ故に他の精霊よりもだいぶ死にやすくなってるんですけどね。

 計算方式はLV10の場合ですと、

 LV1毎に10伸びるので=【100】

 MPの初期値が100でLV1毎に100伸びるので=【1100】

 知力の方は初期値が50でLV1毎に50づつ増えて行く計算式ですね。だから550もあります。

 それのおかげで知力1につきMPが3加算が生きてきますので550×3=【1650】

 しめて合計で2850になる訳です。


 とはいえ精霊に実際のところ知力魔法攻撃力は関係ありません。あくまでMPブーストの役割として重要だったりします。


 さて、わたしがこの豊富なMPを使って何をしているかというと、ここで『エクストラジョブ:糸使い』が活躍します。

 これは糸の放出量が最大MPに依存すると言うもので、精霊眼と魔力サークルと合わさると暴力的な能力を発揮します。

 広げた魔力サークルの中で精霊眼で全てを透過できた上で、精霊はMPの限り何個でもスキルを置くことが可能だったりします。くくく、これを悪用しない手はないでしょう。


 そこで取り出したりまするはジョブLV10で覚えた『鋼糸』と毎度お馴染み【ノック】~。

 これをこの様に組み合わせて新たに誕生したのがこちら! 

 早速レシピ登録までしちゃいました。


 じゃーん! 

『レシピNo.005:全自動伐採機』~! 

 因みに他は

 No.001はイマジンの街全景マップ

 No.002はクレーン式位置合わせ移動装置

 No.003は緊急射出型巻き取り式エレベーター

 No.004が誰でも安全移動、低反発空輸便

 です。

 人形はレシピ登録してないんですよね、作りも甘かったし、要改善案件だったりします。


 さて、それの使用方法は伐採対象に鋼糸をぐるぐると巻きつけて、その両端をノックで強めに弾くと言うものです。

 それらを認識範囲内の “全ての樹木へ” 設定します……しました。

 さてさて、ズーの巨体すら浮かせるその反発力は樹木にどれほどのダメージを与えるのでしょうか? 

 頭の中でパチンと指を鳴らして(実際はできない為)、スキルを一斉に行使。


 ズズズズン……

 手応えどころか地響きが聞こえてきましたね。振り向くと何事だとパーティメンバーどころかマリさん以外の住民は慌てふためいてました。

 やば、やりすぎちゃった? 



『あはははは、大丈夫、大丈夫だから落ち着いて?』



 笑ってごまかしてみたけど、無理でした。マリさんに頼ってなんとか場を収めてもらいます。さすがCランク冒険者様だね。頼りになる~♪ 



「ミュウさん、取り敢えず向こうで休憩入れつつ宥めながら言い聞かせてくるからその間に現場を復元させちゃってて。

 夢だと思わせるのにはその方がいいから」

『ああ、そこでわたしのレベリングもすると』

「そういう事。これからの事業にはミュウさんのレベルも重要になってくるからね」

『どうして?』

「ゆくゆくはダーリンもこっちへ誘いたいの。ミュウさんと同じ様に少しでも長く一緒にいたいからさ、だから協力してくれない?」



 両手を合わせてお願いのポーズでミュウさんは頭を下げてきました。もーしょうがないなー。



『そういう事なら……わたしもマリさんを頼るからお互い様だね』

「へへへ、ミュウさんのそういう気前のいいところ好きだよ」

『ふふ、調子いいんだから』

「じゃあ行ってくるね、後お願い!」

『はーい』



 腰を抜かして恐慌状態に陥った住民さんとマリさんを見送った後にチャチャっとフィールド復元を施していきます。


 その前にフィールド復元とは? 

 フィールドに適応した精霊の全MPを消費して伐採や採取ポイントを文字通り復元、活性化させる事です。


 これにより破壊された自然は全てとは言いませんが元どおりになります。

 そして復元した状況に応じて精霊へ種族経験値がガッツリ入ってきます。

 今ですと復元二回でLVが2上がりましたし。ちなみにこの復元て、かけすぎるとフィールドやエリアに効果を及ぼしすぎてMOBの強化につながったりするのでやりすぎ注意なんですよ。

 だからこの様にあえて伐採や収集によってエリア破壊、もしくはダメージを与えてからすると効果的だったりします。

 主に取得経験値的にですけどね。


 ホクホク顔でレベリングしてますと少し立ち直った住民を連れたマリさんたちが帰ってきました。

 さっきよりやや立派に立ち並ぶ雑木林を見てさっき見た光景は夢だと飲み込んだ住民達。マリさんナイスフォローです。

 心の中でハイタッチしながら作業を続けていきます。

 それよりも……



『ねぇマリさん』

「なーに?」

『ここの伐採について組合から許可もらいました?』



 そう聞いた直後そっぽを向いて口笛を吹き始めましたよ、この子。

 曲がりなりにも町の敷地内。どこが管轄しているかはわかりませんが許可は必要なはずですよね? 

 両手で彼女のほっぺを引っ張ったらようやく観念したようです。直後青ざめながら泣きついてきました。やっぱり無許可だった様です。



「うわぁああ、ミュウさんが頼りだから! 頑張って元に戻しといて!」

『いや、そりゃこっちも助かるけどさー』

「でしょでしょ?」



 直ぐに笑顔になりました。嘘泣きだった様です。全く、調子のいいことばっかり言って。まあ、言われなくたってやるんですけどね。


 バヅン! バヅンバヅン! と伐採しつつ、復元でもっさり生やしての繰り返し作業。よーし、ここ復元したらもういっちょ行くよー。

 え? もう終わりですか? 

 もうちょっとやりませんか? 

 後もうちょっとでLVも上がるんですけど。

 もう木材を置く場所がない?

 それじゃあ仕方がないですね。

 と、言うことで伐採作業は終了することになりました。

 不完全燃焼ですが気を取り直して行きますか。だってマリさんの事だからこれでお仕事終了なんてわけないですしね。

 いやー、誰かの為に仕事するのって気持ちいいね! 



『お疲れ様~』



 ホクホク顔でみんなの場所へ戻りますと、少し驚いたようにざわめかれました。どうかしたのでしょうか? 



「いやー、お疲れお疲れ。ところでどれぐらい行ったの?」

『LV28くらいですねー』

「おー、進化先でた? 種族進化」

『ん? 精霊に進化なんて……』



 何を言ってるんでしょうか? そう思いながらステータスを読み込みますと、ありました。おやおや、精霊にもこのようなシステムが増えたのですねー、驚きです。

 そこには……


 LV20→ドライアドⅠ(知力+5)

 LV25→ドライアドⅡ(知力+10)

 LV30→ドライアドⅢ(知力+5、MP+5)

 LV50→ドライアドⅣ(知力+10、MP+10)

 LV70→ドライアドⅤ(知力+15、MP+15)

 LV100→ドライアド+(知力+30、MP+30)


 見事にドライアドオンリーです。進化もクソもないです。ただ一つ気になるのは一番最後の+表記。それまでが英数字なだけにとても気になります。

 もしかしたら精霊の格が上がったりなんて……そんなうまい話がこんな序盤から転がってるはずありませんね。

 現実を見てどのタイミングで進化するかで補正に違いは出て来ますが、どうしましょうかね? ここはわたしを運用しているマリさんに相談してみましょう。何か方向性が見つかるかもしれません。



「あったでしょ?」

『うん。補正をいっぱいつけるんならこのまま100まで上げろって』

「100? ああ、精霊って進化しない代わりに基礎LVの上限値高いもんね」

『そうみたい。どこまであげたらいいと思う?』

「うーん、限界までかな? 今更少しくらいの補正ついたところでミュウさんの真髄が見れるのは範囲以外ないでしょ?」

『ふふ、マリさんはわたしのことわかってくれてるから好き』

「へへへ、そんなに誉めないでよ」



 そんなありきたりな話をしながら歩いていると直ぐにウッディさんの監督していた現場に到着しました。

 そこでは積み上げられた予想以上の木材の数を見上げながら茫然自失としていたウッディさんが頭を抱えながら膝を折って唸っていました。日射病かな? 



「やあ、棟梁。うちのリーサルウェポンはどうよ? 凄いでしょ」

「凄いっていうか、集まってくれたプレイヤー全員にお土産として詰めて帰してもお釣りがくる桁ですよ。なんですかこれ、千どころか万に届きそうじゃないですか」

『がんばれ』

「はぁ、そんな他人事な」

「実際他人事だからね」

「ヒデェ」

「んで、お望み通り素材は揃えたけど後は何が足りない?」

「そうですね、今設計図みんなに配って加工してるところだけど」

『お手伝いいる?』

「どこまでできるか見させてもらっていいですか? なに、丁度ここには何十回失敗しても構わないくらい素材は豊富にありますしね、わはははは」



 ウッディさんは乾いた笑いをあげながら、やるだけやってみろと言いました。

 へー、そういうこと言っちゃうんだ? 

 これは挑戦状と受け取るよ。

 わたしは心の中で静かに炎を燻らせながら、木材の一つに糸を絡みつけていた。

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