本番30 井の中の蛙《かわず》


 

 1990年代後半の日本。

 1995年1月17日の関西地方を襲った阪神・淡路大震災で、その時二十歳の成人式を神戸市で迎えたその男。

 晴着はれぎを着た新成人の中、彼は晴着はれぎを着て、その成人式に参加しようとした。

 井の中のかわず

 彼は今でいうLGBTQの男性だった。

 女装した彼は、全ての人に笑われた。

 彼の晴着姿を、全ての若者は嘲笑し、彼を笑いの道化にした。

 彼はその時、復讐を誓ったのだそうだ……。



 1995年1月17日未明。

 阪神・淡路大震災。

 彼は嘲笑の対象になった事で、彼を擁護する人間達は大勢いたろう。


 彼は、地震の時……。


 悪魔に変貌した……。


 彼は怪我をし、倒れている女性を襲った。


 怪我をした女性を強姦したのか?

 

 死んでおられる女性を死姦したのか?



 彼は、酒を呑んだ鬼としての薔薇族だったのか?


 1997年2月から5月の一連の児童殺傷事件の犯人とされた中学生ではない。


 1974年、1975年生まれ世代。

 関東からの流れ者。

 1991年の窃盗事件後、前科の付いた彼は自宅に戻れず、裁判後自分で関西地方へ流れた。


 彼の落ち武者のような髪の毛。ダウン症のような容貌。漢字を読めない等の軽い学習障害は、彼を障害者として無罪にするのでは無く、彼は有罪審判を受け、彼には前科が付いた。


 容姿で笑われた障害者。


 世間は彼の味方になる筈だった……。



 彼は1995年1月17日の阪神・淡路大震災で暴走したのだ。



 彼は成人式で嘲笑された事を、終生忘れないと誓ったのか。


 怪我した状態で襲われた女性が、成人式で彼を笑った人間だったかどうかは分からない。


 彼は大地震を待望するようになり、彼には大災害が、女性を襲う好機としか映らないようになり、災害情報のニュースでほくそ笑むようになった。


 彼を擁護すべき人間は、彼が女性を死姦した鬼畜である事を知らず、関西から関東へ戻った彼の容姿を嘲笑する人間を敵対視し、彼を擁護し続けたのだ。


 彼は、鬼畜として関西で生きていた。


 彼は、鬼畜の裏の顔を隠し、関東で生きている。


 彼は、吉田鬼九子と名を変えた。


 彼の終生の友達は、カメラだった。


 親の持ち物だったかは知らない。


 彼を運動会で撮影したカメラだったか知らない。


 彼は自撮りをせず、相手の反応で、自分の容姿を確認しようとした。


 相手が自分に優しければ自分はかっこいい。


 相手が自分が優しければ自分が可愛い。


 ただ、彼へ態度を冷たくする存在が……。


 ネコニコ便の配送補助だったシーラと言う男もそうだった。


 彼は、鬼九子が小学校時代に住んでいた団地で彼を見知っていた男だった。


 鬼九子の母は、彼が水頭症という頭蓋に水が溜まる病気で生まれた事を言えず、シーラという野球が下手な少年にバットで頭を殴られたという嘘を付いた。


 障害を持った我が子に恨まれないよう、その母親は嘘を付いたのだ。


 バットで殴られた訳もないキヨシ。


 医者は彼のカルテを知っている。


 彼は医者を敵対視し、母親を信じた。


 嘘を言った母親を信じた彼は、野球の下手の少年シーラを、付近の高校野球チームが県予選を勝ち抜けない元凶とし、シーラを地元から追い出そうとした。


 シーラという少年が、その親の地元へ引っ越した後、シーラの周りに出没し、彼を嵌めようと裏工作をし、1991年には彼の自宅へ侵入。


 家へ侵入した後、裏庭で怪我をし、出血多量で病院へ搬送。そこで病室内で逮捕された……。


 事の経緯を親に言えない彼は、関西地方へ流れた。


 マツキヨというドラッグスーパーと同じ苗字になっていた彼を庇護していたのは、同じような障害を微かに持つ宗教家。


 毒入りのお菓子が関西地方でばらまかれた時期、1984年から仏教系新興宗教を起こした、彼の育ての親。


 アウム真理教という、毒ガス製造、警察庁長官狙撃事件等、1990年代日本を恐慌に導いた悪魔教団。


 悪魔教団施設内。


 教祖の初婚の相手だった女性は再婚。連れ子の姉と弟。


 弟は女装し、女装している姿だと快活に。


 男の姿と陰湿に。


 吉田鬼九子と名を変えたキヨG……。


 アウム真理教が、富士山麓の施設の撤去、教祖の死刑執行後も、製造した毒ガス、サリンを隠した場所の秘密を、彼に隠し。


 三つに分かれた教団が、彼に逆らえないようにした。


 吉田鬼九子は、女装し、キリスト教系新興宗教に潜り込み、アウム真理教から三つに分かれた宗教団体が起こす毒ガステロ、生物兵器テロの予定日を、キリスト教系新興宗教に教え、その日本のハルマゲドンで、キリスト教系新興宗教を自分が救ったという、



 三文芝居を、


 彼の計画の中、


 彼のノートに


 赤い文字で


 平仮名で


 記していた。




 吉田鬼九子は、


 鬼畜だった……。



第30話  了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る