本番15 サイバイマン

 


 龍機魔女第13話……。

 

 早乙女チエミ達龍機魔女が最終的に戦う相手がそこにいた。

 

 自分はサイバイマンを産めると豪語したその存在。


 自分の子供が僅か一日でこの世に生まれると思い込んだその存在が、独立して成り立つような事を許した社会が、そこに弱者救済を謳うメシアが、神の側として犯罪者の地獄堕ちを容認しない社会体制を布いた時、薔薇鬼バラキと呼ばれたその存在を社会が抹殺出来ずにそのままだった事が、その惨劇の予兆を潜在的な毒素として周囲は認知していたにも関わらず、そのバラキは東京まで来てしまっていた。

 そう自分で名乗った薔薇鬼が、教えたかった本当の鬼を表現する文章の中で、漢字を熟知している存在と、絵本の中で暮らすような精神が酒で狂う様を表現した名前を、本当に与えなければならない存在を隠そうとした社会の脆弱性が、真の悪魔を倒したいが倒せない神が無言である時、その悪魔を倒す英雄の出現を待つだけで、神自体がその悪魔を倒す事で、自ら悪に染まってしまうなら、ただ神は、悪魔を倒す人間を待っているだけであるような社会であるだけで、誰もが自分に優しくしなければならないと思いこんだ存在が要求する全てを聞かざるを得ないような社会が作り上げた犯罪放置の現状が、法体制を脅威となっていたこの時代。

 関東近郊で、ホップを醸造する工場内に存在する高い塔の上で、自分だけが睥睨する社会だけを自分の足元に置く事でしか、そのプライドを保つ事が出来なかったその存在自体が、その社会の脆弱性を持って、危険を野放しにしておくことでしか、自分達の平穏を保てなかったその都市……。


 神戸市で起きた地震。

 東日本で起きた地震。

 また関西地方で起きた地震。

 関東で起きた地震。


 サイバイマンを産めると豪語したそのバラキが、何回目かの地震で悟った事は、


「僕の種が世界を救う……」


 1億人を切った日本の人口。

 セックスレスになって、自慰行為をする事が宗教的に声高に否定されなくなった時代。 

 サイバイマンを産めると豪語したそのバラキ・ヨシは、亡くなった人間にさえ、サイバイマンを産ませる事が出来ると豪語した後で、そいつの意識は完全に生きながら地獄堕ちしていた。

 亡くなった人間の肛門筋が硬直し、腐敗したガスが腸内に溜まり、死後そのお腹は、決して妊娠した訳でもないのに、老若男女、誰でもそのお腹は膨満する。

 サイバイマンを孕んだように、そのバラキ・ヨシに映った光景を、報道ヘリのカメラが一部始終、俯瞰ふかんしていたのだ……。

 バラキ・ヨシと姉を連れて、新興宗教の教祖と結婚した女がいた。

 教団施設内部で、信者の女性を凌辱していたバラキ・ヨシは、教団を追放、放逐された存在だった。

 新興宗教が起こそうとしたハルマゲドン後、人口が少なくなった時代。

 自分の子種が一日で女性を妊娠させ、数日で育つと豪語したそのバラキ・ヨシは、自分がメシアだと思い込んでいた存在だった。


 彼のノートは今まで彼を虐げていた存在へのデス・ノートと、


 彼が世界崩壊後に作ろうとしていたハーレムへ入れる女性のリストを書いた


 ハーレム・ノートだった。


 彼のノートは輝いていない……。


 他人のデータを盗もうとするバラキ・ヨシのデータには、一つの作品に一つの完成ファイルデータだけだった。



 サイバイマンを産めると豪語したその存在は、バラキとして、悪魔の書に記される程、その宗教の総本山で認知され、霊的なエクソシストは、そいつの昼間の夜として、そいつの夜の昼間として、そのバラキの裏面を、そのバラキの二面性を、その夜に暴いていたのだ。

 誰でも寝る。

 その誰かの夜に、誰かは起きている。

 深夜コンビニのパートとして働いていたその中年男性は40歳半ばで、コンビニオーナーから発注全般を任される信任厚い存在だった。

 深夜パート後に、午前中の弁当の発注を済まし、オーナーがいない時の店舗運営まで出来るそのベテランパート社員は、正規社員並みの給料を得ながら、週に3回、声優学校の講師を務めていた。


城木しろきさん!」


「なんだ!」


「龍機魔女の第13話の収録、今日なんですよね」


 城木は、つくばエクスプス沿線の地方都市のコンビニの後輩の伊沢遼生りょうせいの方を向かずにタブレットを見つめながら答えた。


「13話か……」


 午前8時は辰の刻。辰とは龍。

 午前10時は巳の刻。巳とは蛇だ。

 午後12時の午の刻。馬小屋の子はイエス・キリスト。

 龍機魔女の逆鱗に触れると、ヤヌスは滅びる。

 ヤヌスの鏡。

 ジャニュアリーとは山羊座の月である1月。

 美少年を見つめる誰かの妬みと、女性からの視線が、ヤヌスの鏡となって、ジャニーズの後頭部に出来た目を、彼らは、自分の昼の闇として。自分の夜の光として、自分が振り返る事がないようにしていた。

 宗教本山のエクソシストは、自分の後頭部にもう一つの顔がある存在を、不眠に陥れ、ヤヌスの鏡を持つ存在の夜を、後頭部のもう一つの存在に支配させないようにしているのだ。

 

 城木が務めるコンビニの客で、一人おかしな存在がいた。

「城木さん。またあいつ来たんすか?」


「ああ、サイバイ野郎な……」


「あいつ絶対ヤバイっすよ」


「昔、沖田君って柔道やってた大学生が夜勤のバイトしてた時、奴が運送会社の早朝仕分けの中年オバサンを使って、強制的に化粧品万引きさせてた事件な? やっぱり、奴が万引き強制の罪に問われるみたいだな。強制的に万引きさせてた事件が、奴の責任能力が有ると判断した警察は、全ての罪で立件しようとしてる」


「化粧品使って、ミドネコだか、シロネコだか、バスト70の微乳とか抜かす女装した男を警察が詐欺罪と、レズ動画撮影のつもりが、女装した男が強姦したとか、そんな罪でも立件されるみたいっす」


「森野高校、オラ高な? オランウータンが森の人だから、通称オラ高が、野球部で結構いい試合する時、このコンビニ周りを高校生の振りして制服着た中年オジサンが、局部モロだしで歩ってた事件」


「バラキ・ヨシはその事件にも関与してるんすか?」


「森野高校が甲子園行くと、こっちの人間が、あいつが神戸市で起こした事件の情報を聞いちまうから、森野高校の信用無くす裏工作だったみたいだな」


「沖田先輩って、その中年オバサンの罪を庇って辞めさせられたって聞きましたよ」


「バラキ・ヨシが、女装して動画を撮る時の化粧品道具だったみたいだけどな」


「万引き強制の罪が立件出来るだけで、学習発達障害だったオバサンに犯罪を強制した罪自体で、奴に責任が発生するって事で、全ての罪の責任能力を問えるって事なら、全部の罪でヤツをムショにぶちこめるって事すっね!」


「なんかな。随分前、俺が声優学校の学生だった時、そいつがいたんだけどな。ノベルズ科に知り合いみたいな人間が通いだした時、なんか龍機魔女の原作をコピーしてパクったとかで、学院を追放された野郎に似てるんだよ。あいつ……」


「あ、覚えてます。そん時確か千葉の方で外人の英語教師の女性が殺されたって事件がテレビでやってた時、丁度城木さん、初めて声優として給料貰ったって寿司屋でおごってくれたじゃないっすか。そん時、そのニュース見た後、BSでそのアニメ見たんすもん」


「……」

 

 龍機魔女。

 丁度茨城県で小美玉の自衛隊基地が茨城空港になった直後、日本と韓国を往復する飛行機が盛んに茨城上空を飛んでいた時期。


 龍機魔女。

 日本と韓国の旅客便の就航は、航空機を誘導する電波の周波数と、その情報が開示されている事を前提にしている訳で、もし朝鮮半島との有事が想定された場合、その航空機の誘導波をそのままミサイルの誘導波へ転用される危険があるという事だった。

 龍機魔女。

 関東から関西への航路の高さと、関西から関東への航路の高さは違う。

 東京を朝鮮半島有事で狙う場合、韓国からの航空便が取る航路の高さと、波型にロブ撃ちするミサイルと航空便航路が交合しないようにする筈だ。

 龍の角が西を向くか、東を向くか。

 龍が頭を下げる時、その首の鱗は剥がれ落ちる。

 アメリカ合衆国大統領は、誰にも頭を下げない事になっている。

 

アダムに頭を垂れなかったサタンとルシフェル。 

 アダムより、頭が良いと豪語したサタン。

 アダムより、恰好が良いと豪語したルシフェル。


 サタンが龍なのか蛇なのか。

 

 聖書でノアの大洪水があったとされる時、陸地が海中に没した時、電離層と言うプラズマ領域が海面に接し、フタバススキリュウ等の海竜がプラズマ領域で不老不死の存在として生きるようになった。

 地震が起きる予兆として、電波干渉が起き、ハム無線などが一時的に繋がらなくなってしまう。

 

 サイバイマンを産めると豪語する存在バラキの喉仏。

 アダムの林檎とされる喉仏。

 バラキに喉のヒステリー球を作らされた全ての存在が、酒に逃げる時、日本酒と麦の醸造酒であるビールと、どちらがヒステリー球を鎮められるのか?

 タブレットで酒の発注をしている城木は、ノンアルの発泡酒を新規で発注してみた。

 サイバイマンを産めると豪語したその存在が、自転車でコンビニに来る時、購入する品物は唯一……。


 オムツ。


 サイバイマンを産めると豪語する存在は、逃亡する為、トイレに行かないように、いつもオムツを履き、女装し、そして履き替える為のオムツを購入していたのだ。

 女装が違和感なく、またかと思われるようになった時、彼の逃亡が始まり、そして……。


 サイバイマンを産めると豪語する存在は、そうして、その龍機魔女第13話を収録するビルの下に居た。

 つくばエクスレスの秋葉原駅で下車した、サイバイマンを産めると豪語したそのバラキは、公衆トイレで女装のセーラー服を着替え、犯行を決行する姿に変容していた。

 コンビニ夜勤から午前中の発注業務を終えようとしていた城木の元にメールが届く。

 声優学校で城木のクラスで育てた女性声優が初めての収録で緊張しているという文面のメールだった。


 サイバイマンを産めると豪語する存在が、甲高い声と言う事で女性のキャラクターを演じたいと申し出た時の、声優学校の対応は苦慮するものだったが、彼がサイバイマンを産めると豪語する存在だという事を知っていた上層部は、彼を退学に追い込んだ。


 サイバイマンを産めると豪語する存在の喉仏。


 龍がコジラになった時に放射能を吐く。


 龍の顎が上がり、龍の鱗が剝がれないような状態を作る為の龍機。

 龍は安全飛行を心がける為に、その頭を下げた時に鱗を剥がさないように、龍は蛇のようにその体躯を横にする。

 

 サイバイマンを産めると豪語する存在が振るわせる嘘の振動は、彼を嘘つきの悪魔のルキフグとするだけだった。

 ルシフェルとルキフグは違う。

 ルキフグは嘘つきの悪魔でしかない。

 偽名を使って生き延びていた、サイバイマンを産めると豪語するバラキは、職務質問に先程、こう答えている。


「龍機魔女の原作者です……」


 サイバイマンを産めると豪語したバラキは、人の名前を使わず。


「龍機魔女の原作者」の定義を自分に付与し、自分だけが自分に与えた権能で、その自信ありげの態度で、職質を切り抜けていた。

 ただ、彼の唯一の過ちが、公衆トイレでオムツを捨てた事だった。

 詰まったトイレの水が溢れ出した事で、駅周辺の異臭騒ぎは警察への通報となり、彼が決行に及ぼうとする時刻辺りに、毒ガステロ事件が起きた周辺が、またきな臭くなってきていたのだ。


 サイバイマンを産めると豪語した人間が、何処の場所で、仕込んだ後、一日で母胎で大きくなる赤子を自分で目撃したのか……。

 彼の親戚縁者が下を向き、自分の喉の鱗を自分で剥がす中、


 サイバイマンを産めると豪語する存在だけ、下を向かず、自分の喉を晒し、顔を上げ、自信ありげな態度を持たせる姿を鏡で見る事もなく、自分への定義を他人に任せる時、周りの存在の喉の違和感を作らせる、ヒステリックなグラマー=屁理屈を並べたてるそのサイバイマンを産めると豪語する存在の利き手がどちらなのか?

 彼が好きなアイドルに握手を求めようとする時、彼は自分の利き手を使う。

 右手の恋人。

 1990年代に発売していそうなそのアダルティックなビデオタイトル。

 

 サイバイマンを産めると豪語する存在が左手に持つモノは。


「あ、龍機魔女の原作者の方ですか? サイン御願いします!」


 サイバイマンを産める豪語する存在は……。



本番15 了

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