その保護施設は「幸せの街」

@buchi_fu

第1話 その保護施設


母が父親に殺され、父親はすぐ逮捕された。


俺の妹は小学3年生で、

両親が"消えてしまう"という事実を受け止めきれずに放心状態。

俺だって似たようなものだ。


良い、父母だったのだが。


ニュースにはなったが、割とすぐに報道されなくなった。

生き残った俺らに対して記者が来るとか考えていたがそれも無かった。



「なあチナミ、もうすぐ保護施設の人が来るから、安心しろよ。」


「…うん、お兄ちゃん。

……でも怖い…。」



お隣の稲田さんの家に4日間は泊まらせてもらってた。

ご飯もくれたし、とくに変なこともしなかったから良かったのだが、露骨に嫌な顔をしている。

と言うより、怯えているような。


嫁さんと離婚したとか、DVしてたとかそんな話を両親がしていたような。興味はなかったからそこまで聞いていなかったが。



寝室で俺たちは一緒に寝ている。


すると、インターホンが鳴った。

…インターホン?

「ぴんぽーーーーん。」


これ、よく聞いたら声な気がする。随分真似が上手なようだが、恐怖しか感じない。


別の部屋で寝ていたはずの稲田さんはすぐに出ていった。

既に寝に行ってから時間が経っていて、あのぐらいの音なら起きないんじゃないかとか思った。寝付けなかったのか?


「ぴんぽーーーーん」


「チナミ、待ってな」


「え、お兄ちゃん…」

俺は1人こっそり見に行った。バレないように、音を出さないように。


少し近づくと、会話が鮮明に聞こえた。


「そちらにサナトくんとチナミちゃんが、

ちゃんといますよね?」


「はい…。私はしっかり…世話をしましたから…」


保護施設の人だ!違いない。

稲田さんの家にずっといるわけにもいかないし、

両親が消えてからすぐに俺のスマホに連絡してきたのがその"幸せの街"って名前の保護施設で、そこに行くのは決まっていたから俺たちは待ち望んでいた。


一応ネットで調べたが、レビューがついてたり、「星いくつ」って評価があったりはしてなかった。が、確かに音翌島ってとこにあるらしい。

その島の名前で検索したら、何も出てこなかった。



「では、連れてきてください。」


稲田さんが寝室へ向かってきた。

俺は急いで戻ろうとするが見つかる。

保護施設の人は俺の近くに来た。


「サナトくん!こんばんは。夜分遅くにすみません。」


「いたのかサナトくん。それじゃあ、チナミちゃんを連れてきてくれないかい。」


「あ…、はい。分かりました」

俺がそう答えてすぐ、


「稲田さん?サナトくんに仕事を押し付けるんですか?あなたが連れてきてください。チナミちゃんはまだ小さいですから、抱っこで。」


「ひっ!…はい、分かりました。ごめんなさい。」


ごめんなさいって、オッサンが言うと変な響きだな。

というか、別に俺が連れてくるのに。

抱っこ?それはおかしい。

だが、俺はそこで口出しできなかった。

なんというか、異様だった。


その人は、中性的な美しい見た目の人だった。声で男とわかる。

それより、なんだこの不安。

人を数え切れないくらい殺してないとここまでの雰囲気は発せられないだろう。

なんて考えるくらいに、恐ろしさがあった。

鳥肌が立ったまま動けない。



本当に、チナミは抱っこで連れてこられた。

「あの…これ…」


チナミもまたその人の前に持ってこられた。

降ろされたチナミ。とくに怖がる様子はない。いつも通り、不安そうな顔をしてるだけだ。


「チナミちゃん、こんばんは。夜分遅くにすみません。」

「私は"幸せの街"の住人、パナと言います。これから、末永く一緒になると思います。どうか、よろしくお願いしますね。」


パナって、何ジンだ?本名か?

日本人にしか見えないが、あだ名を俺たちに教えたのだろうか。


それより、俺がずっと抱えていた疑問だ。

「あのぉ、パナさん…?

あなたが電話をくれたと思うんですが、なんでボクの電話番号を知ってたんですか?」


普通に考えて変だ。誰から聞いたんだ。


「私はあなたのお父様と仲が良くてですね。電話番号を教えてもらってたんですよ。」


っ!……それはおかしい…!

父は子供の電話番号をすぐ教えたのか?

それで、なんで俺の電話番号なんか聞いてたんだ?質問したかった。


だが、眼光が俺に向けられて、


「サナトくん。あなたの恐怖、よく分かります。母親殺しの父。とても怖かったでしょう。

ですが、幸せの街に来れば大丈夫です。

あなた方をしっかり育てます。幸せにします。」


やっと赤子が産まれたみたいな顔で笑って、

それでこんなことを言うもんだから、黙ったまま喋れなくなった。


「さあ、早速行きましょう。」



外に出ると、車が1台。

そこに乗れとのことだ。

チナミの手を掴みながら、警戒しながら俺は車に乗った。

だって、あの稲田さんが耳元で言ったこと。

あれは何だ?そして、パナさんの変わりようは何だったんだ?




「待てサナトくん。少し聞いてくれ。絶対に逃げるんだ。隙は必ずある。」



「……おい、イナダ。何か喋ったな?」



「えっ…!何も言っていません」


「………」



車の中で、俺はまだ妹の手を掴んでいた。

妹は不思議そうな顔をしていた。

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