閑話『とある日の朝』
高校入学式を三日前に控える日の朝。
テーブルを挟み、俺の対面に座っているのは恋詠だ。
二人の間にあるテーブルの上にはチェス盤が置いてある。そう、今チェスをしている。
ついこの間、「チェスも多少できるぞ」なんてほざいていた自分を殴りたい。
今のところ全戦全敗。恋詠との対戦は軽く十戦超えているが、未だに勝てていない。
確かに俺が弱いのかもしれないが、チェスアプリのAIのレベル最大に勝てるくらいにはできるんだが、それでも恋詠には及ばないようで……。
「はぁー」
次の一手でチェックメイトになると自覚したところで、俺は大きなため息をついた。
「那月くん、チェックメイトです」
そう言って、恋詠はクイーンを動かした。
「参った。マジで勝てねぇ……なんでそんなに強いんだ?」
「私が小さい時、ずっと病院にいたんです。その時会った男の子から教わりました」
「ふ、ふーん。恋詠に教えるくらいなら相当うまいんだろうな」
別に恋詠に対して恋愛感情を持っている訳では無いが、『昔会った男の子』と聞いて、心の中がモヤモヤし始めた。
「いえ。その子はすごく下手でしたよ。始めたての私に負けるくらいですから」
「面白い奴だな」
俺のツッコミに「でも……」と挟み、恋詠は続ける。
「負けても負けても、『もう一度』と言って何度も対戦してくれたんです」
「俺みたいなやつだな。すげぇ変わってる」
自虐を込めた俺の言葉に、恋詠はほんの少し頬を緩ませて答えた。
「はい、顔も少し似てます」
「なんだか複雑だ」
病院でチェス、か。珍しい出会いもあるもんだな、と内心呟く。
「あ、もう少しで占いコーナーが始まります。テレビつけてもいいですか?」
「もうそんな時間か。いいぞ」
朝のニュース番組で朝七時から占いコーナーというものが始まる。
占い好きの恋詠はこれを見るのが日課らしい。
『てんびん座のあなた! 今日はとてもいい日になるでしょう! そんなあなたのラッキーアイテムは亀の置物です!』
「那月くん、私一位ですよっ」
「なんかてんびん座っていつも上位なイメージがするよな。これ作ってる奴てんびん座だったり」
「違います、これはてんびん座の運がいいです」
「ふっ、それはどうかな。俺が運勢ランキングを作るとしたらふたご座を一位にするぞ?」
「むっ……」
さすがは天使だ。反応の一つ一つが可愛い。思わず少し遊びすぎた。
「そこまで言うなら私と那月くん、どちらが運いいか戦いましょう!」
なんか面白くなってきたので、俺もこのノリに便乗することにした。
「受けて立とう」
◇ ◇ ◇ ◇
恋詠がまず用意したのは本格的なタロットカードだ。
隣には『誰でもできるタロット占い』と書かれた本が一冊。
「こ、恋詠……? 今からタロット占いをするってわけじゃないよな、はは」
「何を言ってるんですか? しますよ」
まさかとは思ったが、恋詠は平然と首肯した。
占いが好きなのは分かっていたが、ここまで本気だとは知らなかった。
「じゃあ始めます」
そう言って、恋詠は本をペラペラとめくる。
使うのは大アルカナと呼ばれる二十二枚のカードらしい。詳しくは知らないが、本にそう書いてある。
「とりあえずシャッフルします」
「お、おう」
なんか戦うというよりも、純粋に俺の運勢を占われているような気がする。
「一枚選んでください」
「じゃあこれで」
「これは逆位置の『運命の輪』……」
引いたのは時計が描かれたカード。
「よくないのか?」
「あまりよくないです……解釈的には現状の急激な悪化やアクシデントという意味合いらしいです」
「それは最悪だな……ま、所詮は占いだしな」
「私の勝ちですね」
「勝負になってねぇ!」
告白してきた元クラスメイトが思ってた以上にポンコツで、逆に可愛すぎて困ってる。 月並瑠花 @arukaruka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。告白してきた元クラスメイトが思ってた以上にポンコツで、逆に可愛すぎて困ってる。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます