閑話 夢見た地
「そういえばよー、なんで日向達は日本で転生したんだ?」
期末試験前、学習棟の部屋で呟いた樹の疑問にその場に全員の手が止まる。
「そういえばそうだよね。ギルはイギリスで生まれたのに、なんで他の三人は日本だったの?」
おやつとして寮の自室で作って持ってきたピーチパイを切り分けて渡していた心菜の言葉に、日向は懐かしそうに目を細めながら言った。
「多分だけど……前世のあたし達が行きたかった国だったからだと思う」
「行きたかった? 日本に?」
「ああ。当時は日本が『黄金の国』と呼ばれていたからな。国を一度も出たことのない当時の俺達にとっては魔法の次に惹かれるものだった」
かつて、日本は『ジパング』という呼び方が西洋のあちこちで広まっていた。
曰く、ジパングは莫大な金を産出するし、王の宮殿は金でできている。
曰く、ジパングで暮らす人々は礼儀正しく穏やかである。
曰く、埋葬の方法は火葬か土葬、火葬の際には死者の口の中に真珠を置いて弔う風習がある。
現代では半分嘘であると分かっているが、日本に行ったことのない人々はその話を信じ、やがて『黄金の国』と呼ばれるようになった。
アリナ達は貴族で、国に一生仕えると決めた。だからこそ、日本の話は彼女らにとって未知に溢れた国だったのだろう。
「今だからあの話は全部嘘だって分かってるけど……前世を思い出したからか、ちょっとショックなんだよね。あんなに目を輝かせて行きたかった国が自分の想像とは違っていたって」
「…………」
「……でも、こうして日本に転生したのはよかったと思ってるよ。金よりも素晴らしい、素敵な友人達と出会えたから」
「「日向……!」」
日向の言葉に感動した二人が、一緒になって目の前にいる親友を抱きしめる。
「重いし暑いよ~」と言いながらも離れない恋人を見ながら、悠護は何故か拗ねているギルベルトの方を見る。
「そういえば、お前だけが日本に行くこと拒否ったよな。『私は王族だから、絶対にこの地から足を離れない!』とか言って」
「言うな……あれはただの見栄を張っただけなんだ……」
当時のことを思い出して絶賛後悔中の王子を見て、悠護は慰めるように肩を叩いた。
「ま、いいじゃねぇか。こうして憧れの日本に来て、再会したんだから。むしろお前が今世でもイギリスを治めてくれりゃ俺達も安心だ」
「……悠護。貴様、怒らないから本音を言ってみろ」
「お前だけ仲間外れで笑えるわ」
「貴様ぁあああああ!!」
「怒らねぇって言ったじゃん!?」
変にギルベルトを煽った悠護が、怒りで即死率一二〇パーセントの雷撃に打たれそうになる。
それを見て日向達が慌てて止めるのを、様子を見に来た陽が呆れた表情で見ていた。
「なにやっとるんやあの子らは……」
ぎゃーぎゃーと騒ぎながらも笑顔を浮かべ合う彼女達を見て、陽は微笑ましそうに見つめた後、足音をなるべく立てないように静かに立ち去るのだった。
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