閑話 秘密の男子会Ⅰ
新島にある黒宮家別荘。
畳が敷かれた大居間には、本を読む悠護とテキストの問題を解く樹、それから《白鷹》の手入れをする怜哉しかいない。
日向と心菜の女性二人は別荘自慢の檜風呂を満喫中で、陽は自室にあるテレビを鑑賞中だ。
外からセミの鳴き声と縁側に吊るしてある風鈴の涼しげな音色を聞きながら本のページを捲っていると、唐突にテキストに取り組んでいた樹が話しかけてきた。
「なぁ悠護」
「なんだ?」
「お前ってやっぱ日向のこと好きだろ」
「ブッ!!?」
突然のカミングアウトに何も飲んでいないのに噎せた悠護は、顔を真っ赤にしながら樹の方を見る。
すでに終えた自分のテキストを写していた樹はニヤニヤとした顔でこっちを見ており、後ろにいた怜哉もチラリと一瞥すると視線を《白鷹》に戻した。
「な、なんで知って……」
「いや見たら分かるって。お前って意外と分かりやすいよなー」
「ぐっ」
確かに自分は分かりやすいかもしれないが、まさか樹に言われるほどとは思っていなかったせいで咄嗟に言葉が出ない。
すると樹は何かを思い出したのか、神妙な顔つきになる。
「そういえばお前、一日まで日向を家に泊まらせたんだよな?」
「? それがどうしたんだよ」
「いや、ここだけの話な。お前あいつにやましいことしてねぇよな?」
「してねぇよ!! つーかそんな真似できるかッ!!」
何をトチ狂ったのかとんでもないことを言い出す樹に悠護は赤面しながら叫ぶ。
それを見て、樹がありえないと言わんばかりに顔を驚愕の色に染める。
「ええええうっそだあー!? 仮にも一つ屋根の下にいたのに間違いなかったとか……絶対ラッキースケベみたいなことあっただろ!?」
「ねぇっつってんだろうがしつけぇな!!」
実は樹の言う通り、お風呂で遭遇&混浴ハプニング☆というラッキースケベイベントはあったが、それについては一生誰も言わないと誓ったため咄嗟に嘘をついた。
樹はその嘘に気づかないまま、ドン引きした顔で悠護を見る。
「えええ……ほんとになんもなかったのかよ……? お前それでも×××ついてんのかよ。今度俺の女友達紹介してやろうか?」
「余計なお世話だこの野郎。早くテキスト終わらせろよ。俺の写してんだろうが」
あまりにも失礼なことを言った樹に怒りを覚えながらも、悠護は視線を本に戻す。
「……そもそも、あいつの気持ちを無視して事に及ぶつもりはねぇよ。そんなのは男の傲慢だろ」
「へぇー、お前も意外といっちょ前なこと言ったなー」
ヒューヒューと口笛を吹きながら悠護に尊敬の眼差しを向けていると、《白鷹》の刃を清潔な布で拭っていた怜哉が樹の方を見た。
「そういう真村くんは?」
「ん?」
「君は、神藤さんのことどう思ってるの?」
まさかの怜哉からの質問に面を喰らったのか、樹は目を見開いたまま固まった。
その間、風鈴が音を鳴らす。風鈴の音が大居間に反響すると、樹はヘラヘラと笑いながら言った。
「どうって……ただのいいダチだよ。それ以上でも以下でもない」
「ふぅん、そう」
樹の答えを聞いた怜哉は訴えるような視線を向けるが、すぐに視線を逸らして《白鷹》を鞘に収める。
チン、と固く澄んだ音が響いた瞬間、廊下に繋がる襖がガラリと開いた。
「お風呂あがったよー」
「お先頂きました」
入ってきたのは、可愛らしい寝間着姿の日向と心菜。
二人は何故かびっくりした様子で固まる悠護と樹、それから何を考えているか分からない視線を向ける怜哉を見て首を傾げる。
「……どうしたの?」
「な、なんでもねぇよ! おいさっさと風呂入るぞ!」
「あ、ああそうだな、入ろう! ほら怜哉先輩も!」
「え? 僕、一人で入るつもりなんだけど」
「いいから来いって! せっかくだ、裸の付き合いしようぜ!」
怜哉の抗議を無視した樹は、彼の腕を掴んでそのまま廊下の方へ出る。
悠護はそんな二人の後を追いかけると、「じゃあ風呂入ってくる」と言って襖を閉じた。
「……なんだったんだろうね?」
「さあ……?」
取り残された二人は、三人の様子がおかしい理由が分からず一緒に首を傾げるだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます