せまくてひろい世界のなかで

水瀬さら

第1章 さまようバタフライ

「もしも月がなくなったら? そうだなぁ……人類は絶滅するかもしれないな」


 わたしの質問になっちゃんが答えた。

 月って思ったよりもずっと、地球に大きな影響を与えているんだって。


 でもわたしがこの世からいなくなっても、世界はなにも変わらない。

 なにも変わらないまま、いつもの毎日が繰り返されるだけ。

 そもそも夜空に輝く美しい月と、なんのとりえもない女子中学生を、一緒にするなって話だけど。


「うーん……そんなことはないよ」


 ちょっと考え込んだあと、なっちゃんはジグソーパズルのピースをいちまい持って、わたしに笑いかける。


「世界は変わらないかもしれないけど、チョコちゃんのお父さんとお母さんの世界は変わるよ。それにおれの世界も……きっと変わる」


 そしてなっちゃんは続ける。パズルのピースをはめながら。


「いなくなってもいい人間なんて、この世にはいないんだよ。このピースひとつが欠けても、パズルは完成しないだろ?」

「ひとの命とパズルのピースを一緒にする?」


 なっちゃんはおかしそうに笑って、手にとったピースをわたしに渡した。


「はい。最後のひとつはチョコちゃんに」


 わたしはなっちゃんからもらったピースを、ぽっかり空いた隙間に埋める。


「できた!」

「完成!」


 勉強のあと、ちまちま作っていたパズルがやっとできた。


「長かったなぁ」

「また作ろうよ、ふたりで」

「えっ、また?」


 なっちゃんが苦笑いしている。わたしは完成したパズルを見下ろしたあと、窓の外に浮かぶ月を見た。


 でもわたしがいなくなったら、あかねは少し困るかもしれないな。一緒に帰る友だちがいなくなる。

 わたしの大っ嫌いなあいつはどうだろう。きっといつもと同じように、平然と誰かを傷つけているだけなんだろうな。

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