せまくてひろい世界のなかで
水瀬さら
第1章 さまようバタフライ
*
「もしも月がなくなったら? そうだなぁ……人類は絶滅するかもしれないな」
わたしの質問になっちゃんが答えた。
月って思ったよりもずっと、地球に大きな影響を与えているんだって。
でもわたしがこの世からいなくなっても、世界はなにも変わらない。
なにも変わらないまま、いつもの毎日が繰り返されるだけ。
そもそも夜空に輝く美しい月と、なんのとりえもない女子中学生を、一緒にするなって話だけど。
「うーん……そんなことはないよ」
ちょっと考え込んだあと、なっちゃんはジグソーパズルのピースをいちまい持って、わたしに笑いかける。
「世界は変わらないかもしれないけど、チョコちゃんのお父さんとお母さんの世界は変わるよ。それにおれの世界も……きっと変わる」
そしてなっちゃんは続ける。パズルのピースをはめながら。
「いなくなってもいい人間なんて、この世にはいないんだよ。このピースひとつが欠けても、パズルは完成しないだろ?」
「ひとの命とパズルのピースを一緒にする?」
なっちゃんはおかしそうに笑って、手にとったピースをわたしに渡した。
「はい。最後のひとつはチョコちゃんに」
わたしはなっちゃんからもらったピースを、ぽっかり空いた隙間に埋める。
「できた!」
「完成!」
勉強のあと、ちまちま作っていたパズルがやっとできた。
「長かったなぁ」
「また作ろうよ、ふたりで」
「えっ、また?」
なっちゃんが苦笑いしている。わたしは完成したパズルを見下ろしたあと、窓の外に浮かぶ月を見た。
でもわたしがいなくなったら、
わたしの大っ嫌いなあいつはどうだろう。きっといつもと同じように、平然と誰かを傷つけているだけなんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます