363ページ目…クズハの覚悟

<side:クズハ>


 私は焦っていた…それもそのはず、ご主人旦那様達に先に行く様に言っておきながら、今の私は無様にも敵の攻撃を躱すので精一杯だったからだ。


「ほらほらほら、もっと真剣に踊らないと、当たっちゃうわよ?フフフフ…。」


『チュドーン!チュドーン!チュドーーーン!』


 流石は四天王と1人と言う事か…先程からわざと甚振いたぶる様に、攻撃が当たらない場所へと攻撃してくる。

 しかも、本気で回避行動を取らないと致命傷になりそうな威力の攻撃を何度も何度も繰り返してくる。


「あ、貴女なんか、ご主人旦那様の作ってくれた鎧を装備出来たら簡単に倒してみせるんだからッ!」


 もっとも、その鎧が着れないから、現在、ピンチになっているのだが…。


「あら?それじゃー貴女にチャンスをあげるわ。

 貴女…先程から、鎧を装備しようとしても反応がないみたいだけど…3分だけ待ってあげる。

 その間に、ちゃんと装備出来たら、相手をしてあげるわ♪

 だけど…もし、その間に装備出来なかったら、もう貴女には飽きちゃったから、サクッと殺してあげるわ!

 そして、貴女の首を、あの男の子に届けて、あ・げ・る♪」


 そう言うと、ウルカは舌で唇を舐めた


「あ、悪趣味ですね…。」

「そう?でもね…正直な話、どうせ甚振るなら女より男の方が好きなのよ♪

 それも、強ければ強いほど、苦痛に歪む顔が…あぁ~、考えただけでゾクゾクいちゃう!」

「ッ!…こ、この変態!」

「変態とは失礼しちゃうわ…でもね?

 それが強い者の特権なのよ?

 まぁ、弱い貴女には縁のない話でしょうけど。」


 悔しい…私の力が弱いのは知ってる。

 でも、そんな私でも、九尾の狐として覚醒は果たしているのだ。

 後は、ご主人様の作ってくれた鎧…『朱雀』さえ身に付ける事が出来れば、あんなヤツなんか…。

 それなのに、どう言う訳か、『朱雀』を纏う事すら出来ずにいる…しかも、肝心の『朱雀』は攻撃どころか、一向に動こうとしない。


 私が幾度となく呼び掛けても攻撃を喰らいそうになっても、お構い無しに翼を広げ、その羽の手入れをしている。


 ウルカも、最初は警戒していたが、その勝手気ままの行動に、警戒するのも馬鹿らしくなった様で、先程から私のみに集中していた。


「す、『朱雀』、お願い…〖武装化アームド〗して…ア、アイツを倒したいの!」

「キューイ?」


 だけど、結局、私の思いは届かずに『朱雀』は首を傾けるだけで、何言ってるんだコイツ…とばかりに、こちらを見るばかりだった…。


「あらあらあら、もう3分経つって言うのに、何もしないのね?

 それじゃ~、約束通り、お姉さんがトドメを刺してあげるわね?」


 もう何度目か分からない…いくら『朱雀』に呼び掛けても、反応は無い。

 だったら、もう『朱雀』なんかに頼らない。

 私だけの力で何とかするしかない…私はそう覚悟を決めたのだった…。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 <side:プリン>


「ねぇ、ご主人様あなた…本当にクズハさんにあの場を任せて良かったの?」


 クズハさんが、アリスさん同様に四天王の1人を相手にすると言っていたので任せてきたが、クズハさんで大丈夫だったのかと今更ながら気になり、ご主人旦那様に聞いてみた。


「ん?それは…どう言う事?」

「いえ、私が言うのもなんですが、あの子…戦闘には向いてないですよ?」


 そう…先日、九尾の狐とやらに覚醒を果たし戦力的には強くなった様だが、所詮は、クズハさんである。


「あぁ、その事か…確かにプリンの言う様に、クズハは戦闘に向いえない。

 でもね?戦闘に向いてないからと言って、クズハは決して弱い訳じゃない。」

「それは…あの子もご主人様あなたに認められた子ですから分かってますが…それに、私も弱いとは思っていませんが…。」


 今まで、ご主人旦那様に付いて行動しているのだから、弱いはずがない。

 もっとも、強いかと聞かれたら、微妙だと思っている。


「いや、僕が認めたとかは関係ないんだ…だけど、クズハは優しい子だ。

 弱いからこそ傷付く事を畏れるのと同様に、傷付ける事を畏れて、無意識に力をセーブしてしまうんだ。

 だけど…人と言うのは本当に護りたい物があれば、それを振り払う事が出来る。

 だから、傷付ける事を覚悟した時、クズハは真の力に覚醒めざめる事が出来るんだよ。」

「真の力?それは九尾の狐の事よね?」


 それしか、私には思い付く事が出来ない。


「半分正解って所かな?確かにクズハは九尾の狐の力を手に入れた。

 でも、それはまだなんだ。」

「つまり…クズハさんは、さらなる力を秘めていると?」


 手に入れただけ…と強調して言うご主人旦那様に疑問を持った。


「あぁ、そもそもな話…僕のいた世界では九尾の狐と言うのは、大国を滅ぼすだけの力を秘めた妖怪…化け物だったんだ。

 そんな九尾の狐に覚醒たクズハが、あの程度の魔族にやられるはずない。

 まぁ、その為に『朱雀』には嫌な役を頼んじゃったけど…。」


 確かに、ご主人様がクズハさんの鎧…『朱雀』を取り出した時、『朱雀』に何か話し掛けていた様に見えたが…。


「嫌な役ですか?」

「あぁ、それは…ね。」


 その内容を聞いた私は、少しばかりクズハさんに同情してしまったのだった…。

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